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生きることにちょっと 不器用な子どもたち、もと子どもたちの 短いお話を 綴っています

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美術室には小鳥たち①

 今回は少し長くなってしまいました。
っていうか、短くまとめられなかったってだけなんですが・・・。
3回くらいに分けてちびちびUPします。ぼちぼち 読んでいただけたら
嬉しいです。
下からだと読みにくいのでこのお話だけ読み下ろすように設定変えました


20060119225852.png





美術室 は3階の端にあり
窓のすぐ近くに 黒い実をつける大きな木があった。
ここから 降りられるかな・・キリエが手を伸ばすと
気配に驚いて 数羽の小鳥たちが 一斉に 飛び去った。 



・・ 壁に沿った低い棚。
いくつものキャンバスが無造作に置きっぱなしになっている。

文化祭に展示した作品を 部員たちが 持ち帰らず
卒業した生徒まで、そのまま置いている・・そんな感じだ。

キリエのような物好きの転校生でもいない限り
誰も手にとって見ないのか、
それらの絵はどれも ほこりを被って沈黙していた。


絵の出来不出来はともかく、一応完成した絵ばかりだと思っていたが
重ねて立てかけられた後ろの方の 
粗いタッチの下塗りだけの人物の絵が目にとまった。


モデルはこの学校の女生徒。
「伝統あるスタイル」と校長が言うところの古めかしいデザインの制服。
ダサいって はっきり言ったら?とキリエは思ったけれど
ここの生徒たちは妙に素直で、
レトロの極みのこの制服を誇りにしているらしい。

絵は まだ下描きの段階だったが
少女のはっきりした意志の強そうな目は 印象的だった。



* * *


「美術部の人?」

急に後ろから声をかけられ、キリエはドキリとする。
レトロな制服に似合う レトロな三つ編みの人・・

─ 見たことあるぞ・・・・
 って・・ 転校してきてから1ヶ月は経つのに
キリエはまだクラスの子の顔も名前もほとんど憶えてない。

記憶をなんとか たどろうとしていると

「それ、私。」

その人はいたずらっぽく笑いながら 絵を指差して言った。
─ この人だったんだ
・・・昨日見つけた 下描きの油絵。

見比べる。確かにその人だ。間違いなかった。

「まだクラブ入るかどうかも決めてません。あなたは 美術部の人?」

「私?そうね、私は’美術室の人’・・・かな。」

聞こえるか 聞こえないかくらいの小さな声で
その人は 歌でも歌うように そう言った。


細い三つ編み 白い肌 
真っ直ぐに相手を見る大きな目も 絵のとおりだった。
3年生かな?キリエの周りの子たちより ずっと落ち着いて見えた。
真面目そうなのに 名札はつけていなかった。


「お願いがあるの。」

その人は言う。
顔は笑ってたけれど声に何か真剣なものを キリエは 感じ取る。

「その絵、完成させてほしいの。
 ’美術部のひと’に頼んで 描いてもらってたのに
       描き掛けで放り出されちゃった。」


「私 油絵なんて まともに描いたことないですよ。
 それに 描きかけの他人の絵の続きなんて・・・・・」
        
初対面の、それも絵が描けるのかどうかも解からないキリエに
何でそんなこと頼むのだろう・・
─ もしかして からかわれてるのかな・・・ 

けれど、その人の周りの空気には
ほんのかけらも悪意の気配がない。


あまりに突然な申し出だったのと 
他人に踏み込まないキリエのいつものクセで
その人の名も 絵の作者のことも 聞きそびれた。


* * * *



とりあえず、美術部に届けを出した。
─ チームワークが良いから きっといい仲間ができるよ・・と
担任の’物理’が薦めるから 運動部は 入らない。
生徒と目も合わせられない地味な研究者タイプ。
「運動部がお薦め」なんて 絶対この物理個人の意見じゃなさそう。
やたらと’いい学校’をにこやかに強調する先生たち。
どうも この学校 胡散臭い。

「いつでもいるから きっと描いてね。
     あなたに続きを描いてもらいたいの。」

「三つ編み」の、その言葉が妙にひっかかって
届の用紙に「美術部」と書き込んだ。

    *

「活動なんか してないぞ、あそこ。」

やっと名前と顔が一致したひとり、
ヤスモト コウスケが 言う。

「かけもちのヤツも多いし 
 とにかく文化祭に1作でも出しとけば OKってなクラブだな。」

ヤスモト自身は 運動部リタイヤ組で 帰宅部だという。

「美術室なんか 行っても誰もいないと思うよ
 それよりクラスのヤツ集めるから カラオケ行かない?
 ヨシタニ キリエちゃんの 歓迎会ってことでさ・・。」

ヤスモトの言葉を 軽く流して、美術室に向かった。
人の歓迎会にかこつけて 騒がれるのはごめんだ。



* * * *



事情もわからないまま 他人の絵の続きを描くわけにもいかない。
それでも 確かに「三つ編み」は モデルとして
どこかキリエをひきつけるものがあった。

─ そのうち事情を話してもらえるかもしれないし・・。

キリエはとりあえず自分のスケッチブックに 
彼女を描くことにした。
絵を描くことは 好きだった。


─ 他人の事情に興味を持ったり 
人の頼みをどうにかして叶えてあげようなんて
自分らしくないなぁ・・調子狂っちゃう
・・ キリエは思う。

   *


転校ばかりしてきた。
転勤が多い父に 母は意地でも「家族は一緒」を貫いた。
親は姉の転校の時期には神経を使ったが 
次女のキリエの方は「何とか上手くやっていける子」だと
そう言って あまり気に掛けてくれなかった。

─ なんとか やっていける

キリエの学んだことは 
出来上がった友達関係に無理やり入らないこと。
イレテモラッタ・・という 立場を守ること。
期待しすぎないこと・・・。
自分を見せすぎないこと。近づきすぎないこと。




* * * *

「三つ編み」は キリエが放課後美術室に行くと
いつもひとりで待っていた。

「これ描いてた人って もう絶対 続き、描かないんですか?
    あ、卒業したとか・・?」

スケッチブックに鉛筆で大まかなかたちをとりながら キリエは聞く。

「話したくないことだったら いいんです。ごめんなさい。」


窓に一番近い枝にとまって こちらを見ていた小鳥が
軽く枝を揺らして 他の枝に飛び移る。

「三つ編み」は 飛び去ったあとの鳥のいない枝を
しばらくの間 黙って見つめていたが
振り返ってキュッと唇を噛んだあと
キリエが考えてもみなかったことを 言った。


「描きかけなのにね。 事故で死んじゃった・・・

      私 ちゃんと 仕上げてほしかった。」











         (②に続く)

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美術室には小鳥たち②

美術室には小鳥たち②です。
上の①からお読み下さい。


mituami.jpg




こういう時 言うべき言葉が見つからない。
キリエは 一瞬鉛筆の動きを止め 「三つ編み」の顔を見る。

「三つ編み」は こんなことを嘘や冗談で言う人ではない。
知り合って間もないけれど キリエにもそれだけは
信じられるような気がした。


グラウンドの野球部の掛け声と 吹奏楽の練習の単調な音だけが
静まり返った美術室に響いていた。

─ この絵を描いてた その「美術部のひと」はもういない。
  絵を完成させることも できない。
  そういうことなんだろうか?


「いのちって こんなに簡単になくなっちゃうんだって思ったの。
 交通事故、ほんとに一瞬のこと。
 ・・・・・・生きたかったのにね。」


後ろ姿の「三つ編み」の真っ直ぐに伸びた背中を見ながら 
キリエは返す言葉を 静かに飲み込む。

─ それなら余計、そのひとは、
  自分の絵に 重ね塗りなんてして欲しくないと思う。
  自分の手で ちゃんと仕上げたかったんじゃないのかな・・
  

この絵を描くこと、この人に係わり続けるということは
他人の悲しみに 踏み込む覚悟が 要るのかもしれない。

ずっと未完成のまま ずっと下描きのままの
キャンバスの上の「三つ編み」。
このまま キリエたちが卒業してもずっと
この棚の上に い続けるのか・・と思ったら
完成させて欲しいという「三つ編み」の気持ちも
少し 解かる気がした。



   *



「で、友達は できた?」 「三つ編み」が 聞く。
「転校生でしょ、それも数回 転校経験済み?
   ふふ 2年生なのに 制服新品だものね。」

「他人のこともできるだけ聞かない。答えがなくても 気にしない。
 自分のことも言わない。深入りしない?
 それって・・転校生として身に着けた 自分を守るワザ?」

返事も待たず 「三つ編み」が 重ねて聞く。

「友達なんて・・私は 別に・・」
「私はどう?友達? キリエちゃんは 私に名前も聞かないね?」

スケッチブックに書いたキリエのネームを指でなぞりながら
「三つ編み」の目は笑っていなかった。



*  *  *  *



「ヨシタニ キリエっ!
  今日 美術部部長と副部長、クラブ行かすからなっ。」

教室中振り向くような大きな声で ヤスモトが話しかけてきた。
おせっかいなヤツ・・声、デカすぎ。

部長、副部長はおろか、キリエが美術室に通いだしてから
実際のところ 「三つ編み」以外の誰も
放課後 美術室に来ないのだ。


「へぇ・・ヨシタニさんって 絵が得意だったんだぁ。
   もうクラブ入ったの?」

近くの席の 女子が聞きつけて 話しかけてくる。
「美術部顧問って 今いないんでしょ、ヤスモト?
 産休の先生 クラブ顧問はしないんだって。
 ああ、タナカちゃんって そろそろ臨月だっけ~?」

話は もうキリエを通り越して
キリエの知らない美術教師の おめでたの話に変わっていく。
会話の輪の真ん中の位置に立たされて、
解からない話題に 愛想笑いで相槌を打つ時間は
酷く 長く感じられた。


    *


「あ、そう?じゃあ、今日は モデルは休業ね。」

「三つ編み」は言って、さっさとドアの方に向かい 
廊下に一歩踏み出してから 少し立ち止まる。
そして 反らした上半身を教室側に残し、「三つ編み」は言った。

「いい友達なんじゃない?ヤスモトくん・・だっけ?」



「どこにでも 一人はいます。転校生が珍しくて 面白がって構うヤツ。
 でも すぐ飽きちゃうか 新しい転校生が来る・・。」

「そうかな?」
「違うって言えますか?」

「例えばさ・・・。
 小さい頃 家庭の事情で自分だけここに 住んでるの。
 遠い親戚に預けられて。
 親の育児放棄のせいで愛情慢性不足ぎみ。

 自分がこの土地になじむまで それは 辛かったから。
 ずっと寂しかったから・・。
 でも溶け込んでみたら 結構ここで楽しみも見つけられたから

 そんなヤツだから 他人のこと 気になるの・・」

「ヤスモトが?」

聞き返すキリエの目を「三つ編み」は 真剣な目で見返した後 
スイッチが切り替わったかのように 驚くような明るい顔で笑った。

「ふふ、そんなこともあるかもしれないし ないかもしれないね。
 ああ、今のは 私が作った話だから。
 ヤスモト君は 私の知り合いじゃないし。」

一瞬信じた。
なあんだ・・と キリエは急に力が抜ける。

「ま、だから 不幸な子だとか、
 だから自殺願望があるだろうとか
 勝手に大人に想像されるのが 一番 迷惑なんだな、
 こういう 場合。」

呆け顔のキリエを 一人残し
「三つ編み」は 向こうを向いたまま そう付け加えると
じゃあね、と手を振った。


  *


「じゃあーん。部長のアサギ君と副部長のフクオカさんでえっす~。」
ついさっき 静かに閉じた戸が 騒々しい音とともに開けられた。

「帰宅部の星、ヤスモト君もわざわざ来てやったぞ。」

ヤスモトに制服のジャケットの襟をつかまれた男子1名、
ひとなつっこそうなエクボの女生徒1名。

キリエは スケッチブックを閉じて鞄の脇に置き、会釈する。

「3年は引退してるから 私たち同じ2年。
 アサギ君は3組、私は1組。 ヨロシクね。」

─ アサギ君は生徒会やってて、私はコーラス部と掛け持ちなのよ
フクオカさんはキリエに あまり来られない理由を説明した。


「二人ともサボってばかりいないで、絵、描きんしゃい。
 新入部員が一人ぼっちでクラブしてるなんて
 寂しいでしょ、なぁ、ヨシタニ。」

「オマエこそ、フラフラ帰宅部で 
  退屈してるんだったら 美術部来れば?」
アサギ君はヤスモトの 首を絞める格好をし 
ヤスモトは派手なリアクションをする。

─ 男子って こんな風にじゃれあったりするんだ。
キリエが 珍しそうに眺めていると 
フクオカさんがキリエの肩を叩きながら 笑った。
「可笑しいでしょ。周り、こんなバカばっかり。」


人が集まるだけで 同じ部屋がこんなに違うのか・・と思うほど
その日の美術室は 活気があった。
モノクロの絵に色彩がついたよう・・
キリエは 壁や天井を初めて見るもののように 首を巡らして見た。


ヤスモトは 思いつく限りの 学校の話題を提供しつづけ、
フクオカさんとアサギ君の二人は キリエにも解かるよう、
補足しながら会話した。

キリエの担任の物理のモリモトは ここの卒業生で 
遠い地方の学校から 最近赴任してきたことや
実は 絵が上手いらしいなんて話も このとき初めて聞いた。

フクオカさんは コーラス部で練習してる曲を男子二人に指導し、
二人のあまりの下手さに キリエも思わずふき出した。


窓の外では 鳥たちが木の実をついばんでいる。
下手な歌声を 面白がるかのように 一羽の鳥が
一番近くの枝にとまって チチチと鳴いた。


    (③に続く)







美術室には小鳥たち③

3話完結の連載モノです。①から読んでくださいね。
tori.png




「たまにしか来れないけど ごめんね。」

フクオカさんが言ったとおり そう賑やかな日は続かない。



スケッチブックの「三つ編み」は、ほぼ完成していて
この後 どうしたらいいのか 
キリエは 考えをまとめかねていた。

久しぶりにまた あのキャンバスを出して来て 眺めてみる。
自分で描いてみると、この作者の圧倒的な上手さが 改めて解かる。
キャンバスを手に取って眺め、ふと 裏側の隅っこに目がとまった。

気がつかなかった。

木枠の隅に ごく小さく書かれた yosiharu というサインを
キリエは 見つけたのだった。

    *

「三つ編み」は キリエの教室での話しを聞きたがり
ヤスモトのすることなすこと面白がる。
そして、キリエの口にするクラスメイトの名前が増えるたび、
「三つ編み」は嬉しそうにその名を 繰り返して言った。

「三つ編み」のことも 時々キリエは尋ねてみる。
自分の話を楽しみに聞く人がいることも 
相手のことを知りたいと思う キリエ自身のことも不思議に新鮮で
そのことを改めて考えると ムズムズするくらいテレくさかった。


けれど「三つ編み」は もう何か聞いても
「キリエの話が聞きたいな。」

自分の話を後回しにし、
思い切って いまさらながらの名前を聞いても
「ミステリアスなままも 案外楽しいよね。」
なんて言って 明るく笑った。



「疲れたから 今日は もう帰るね。」
「三つ編み」はあまり 長く美術室にいないようになっていた。



「三つ編み」がいない時間が増えるのと交替のように
この頃は コーラス部を切り上げてフクオカさんが来たり、
生徒会の仲間を連れて アサギ君が覗きに来るようになった。
ヤスモトもたまに顔を見せ、けたたましくしゃべっては 帰って行く。

たまにしか来ないと聞いていた他の部員たちも 
少しずつ 顔を出すようになって来ていた。


「三つ編み」はそのうちの誰とも 
同じ時間に美術室に来ることは なかった。



* * * *



「OBの知り合いに頼んで、念のため5年上の先輩まで聞いたけど、
 この数年間の内に 事故で亡くなったヨシハルなんて先輩、
    いないわよ。」

フクオカさんにだけ 「三つ編み」のことを打ち明けてみた。
「三つ編み」に会えない日が続いていた。
仲間が増えたのは嬉しかったけど 
やはり「三つ編み」に会えないと寂しかった。


「ここの制服着てるんだし たぶん その三つ編みの人は3年で
 絵を描いたヨシハルさんも そんなに上じゃないはずだよね。

 ここの美術部の先輩で そんな人がいないとすると・・・。」

「でも 描いたのは’美術部のひと’って、聞いた。」
「よその高校の・・とか・・?」

下絵の「三つ編み」を 片手で目の高さまで持ち上げて眺め
「本人に聞いた方が よっぽど早いのにねぇ・・」
フクオカさんは ふっくらした白い もう一方の手を頬にあてて考える。

「でも 3年生の先輩でこういう外見の人 知らないなぁ・・。
         不登校の人なのかなぁ・・。」



ガタンと音がして 誰かが美術室を覗いた。
キリエの 担任の「物理」。

「あ、モリモト先生。」
フクオカさんが呼び止める。
「先生、顧問 引き受けてくださるんでしょ?
  いつまでも はっきりしないままじゃ 困ります。」

副部長の顔になって フクオカさんは 「物理」を引き止めた。
フクオカさんに 部屋の中に引っ張り込まれた「物理」の視線が 
机に置かれた絵の上で ピタリと留まる。



モリモト ヨシハル

「物理」のフルネームを先に呟いたのは
わずかの早さで フクオカさんだった。

絵が上手い モリモト ヨシハル。
でもそれは・・高校生だったのは ずっと昔のことだ。
大学を出て、遠方で何年間も 教師をやって
今年の春 久しぶりに 母校に帰ってきたと聞いている。

そして「ヨシハル」は生きている。間違いなく・・今 生きている。



その絵を見て 確かにうろたえた様子だったのに
「物理」・・・ヨシハル先生は 
「フクオカさん・・・顧問って・・やっぱり 他の先生に頼んでみます。
  それを 言いに・・今・・・ボクは来て・・」

後ずさるように 出て行こうとした。



「先生!!」

キリエが叫ぶ。このまま 知らん振りなんかできない。

キリエの声に驚いて 窓近くの木で休んでいた 鳥たちが 
一斉に 飛び立った。




「この絵は 先生が 高校生の時 描きかけてた絵ですか?」



* *  *  *



「三つ編み」は ユカさんという。

複雑な家庭で育った人だ・・ ヨシハルも噂には聞いていた。
ヨシハルは 転校生だった。ちょうど キリエみたいに。

美術部に入って、一人 放課後に絵を描いていたヨシハルに
ユカさんは話しかけてきた。
誰に対しても なかなか打ち解けないヨシハルに
ユカさんは根気よく付き合ったという。

─ 私をモデルにして 描いて欲しいな。 
ユカさんはそう言って、ヨシハルのために 美術室に通った。



「事故だったんですか?」

「詳しいことは 解からない・・。
 ただ 美術室で よく二人きりでいたと 誰が言ったのか 
 警察が僕のところにも来た。
 恋人だと思われたみたいで しつこく色々聞かれて、
 正直 逃げ出したくなっていたんだ。」

「自殺とかの 可能性もあったんですか?」
 フクオカさんが 続けて聞く。

 
 「悩みもいっぱいあったと聞いた。 
  でも、自ら死を選ぶような人ではないと 僕は思ったんだ。
  他人には 上手くは説明できなかったけど。」

 「完成してあげる事は できなかったんですか?
       ・・ユカさんの絵。」


 「親に転勤の話が来て 絵をそのまま置いて 転校した。
   内心 ほっとしていたんだ。情けないヤツだよね。本当に。」


「先生」

キリエは数歩近づいて ヨシハル先生の顔を真っ直ぐに見る。
きっと ユカさんなら こんな風にこの人と向き合って喋る。
窓の外の鳥たちを驚かすことなんて決してないだろう。 


「その絵を仕上げてって ユカさんは 私に言ったんです。
そのときの・・制服の、そのままの姿で 私の前に現れて
 描きかけで 放り出されちゃったからって・・。

 きっと ちゃんと 残して欲しかったんだと思う。
 そして ちゃんと 解かって欲しかったんだと思う。
 
 だから・・それを仕上げるのは やっぱり 私じゃない。」



キリエはスケッチブックを「ヨシハル」の描きかけの絵に並べて置いた。


* * * *


「ヨシハル~、準備室なんかで コソコソ描かないで、
 かわいい生徒と一緒に  こっちで 描こうよぉ。」

いつの間にかすっかり 部員に落ち着いているヤスモトが 
ヨシハル先生を 準備室から 引っ張ってくる。

「その ヨシハルっつーの やめなさい。
 仮にも先生なんだから 呼び捨てはいかんぜよ。」
ヤスモトの首をアサギ君が 後ろから絞める。

「仮にも、は余計~。」
フクオカさんがエクボを見せる。
フクオカさんのエクボ、いいな、好きだな。キリエは思う。

少しずつ遅れて他の部員が 入れ替わり やって来る。






ヨシハル先生は あの絵を完成させて
次は もっと大きなキャンバスで
キリエたちの姿を描き込んだちょっと幻想的な絵を仕上げる という。

「ユカさんも その絵の 仲間にはいってるんでしょ?」

キリエが聞くと ヨシハル先生は

照れくさそうに頭をかきながら 
それでも ちゃんとキリエの目をみて うなずいた。





放課後。

油絵の具の匂い。


今日も美術室には 笑い声。

窓の外の木には 前よりたくさんの小鳥たち。




あの中に 寂しがりやで世話好きな小鳥が一羽いて
いつも美術室を見守っているんじゃないかな・・


筆を動かす手を止めて キリエは鳥の声に耳を傾けた。


   






美術室には小鳥たち これでお終いです。お付き合いありがとうございました(^_^)

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Appendix

すずはら なずな

すずはら なずな

どれも短いお話ですが 
一つでも心に残ったら嬉しいな。

過去記事どこにでも、
コメントOKです。
舞い上がって
喜びます。

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