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生きることにちょっと 不器用な子どもたち、もと子どもたちの 短いお話を 綴っています

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Texpo 800字文庫(1)

「温かな向かいの席」800字バージョン
掲載されてます。


Texpo 800字文庫(1)


他の作品も一気に読めます。
面白いですよ。ぜひ読んでみてくださいね。
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温かな向かいの席

Texpoというところで800字バトルのお題を頂いて書いた最初の作品です。
どこで「ゲーセン」
だれが「よぼよぼのじいさんが」
どんな時「空腹の時」

一気に書いたら、長くなっちゃったので これでは参加できません。
短くしたバージョンを投稿しています。



******

もう死のうかな・・なんて思っているのに、お腹が減るのが情けない。

結婚する気満々で仕事も辞めてしまったのに、
他の女に相手を取られてしまった。
「このまま結婚しても、君を傷つける、一旦白紙に戻して考えよう」
奇麗事並べんじゃないよ。ただの心変わりじゃない。

寒さに負けて何となく立ち寄ったのはゲームセンターだった。
ゲームの音にBGMが被りやたら煩い。
ゲームに熱中する子ども達は私のことなんか誰も見てない。

新しいゲームは残念ながら付いていけない。
せいぜいモグラたたきでばこばこ相手を叩くくらい。
それよりどっか隅っこで騒音に紛れて
おんおん泣くのもいいかもね、なんて思ったけれど、
お腹がきゅるきゅる鳴った・・という次第だ。

わぁっ・・という歓声が上がる方を振り向くと 人だかり。

「ねぇねぇ、ちょっとぉ、凄くね?あのじいさん」
化粧の濃い女子高校生が仲間を呼んで 人だかりの方へ駆けていく。
何だ?・・・近づいて 人のすきまから覗く。
白髪頭で腰の曲がった老人がドラムのゲームをやっていた。
若い子たちが口々に賞賛の言葉を掛け、
ドラムを叩く老人を取り囲む人の輪が何重にも増える。
ドラムのことも、ゲームのこともよく知らないけれど、
相当に上手いらしいということは私にも解った。

曲が終わる。ぴゅうぴゅうと口笛、握手を求める子、
盛大な拍手。クレーンで取った大きなぬいぐるみをプレゼントする女の子。
何だか老人の上だけ スポットライトでも当たっているように見えた。

照れた顔で振り向いたその老人が、どこかで見た顔だ、と思ったとき、
「春香ちゃん?」
あちらから声を掛けてきた。
ドラムを叩いていた後ろ姿とは打って代わって
別人みたいな弱弱しい立ち姿。かすれた声。
ああ・・この人は 実家の向かいのアパートの住人、高田のじいさんだ。
少し間を置いて気が付いた。

ひがな一日、アパートの前でしゃがんで、
登下校の子どもに声を掛ける 有名なじいさんだった。
どんな事情か知らないが 田舎から出て来て一人暮らしで
寂しかったんだろう、子ども相手に喋るのが好きだった。
時たま 私と友達は部屋に上げてもらってお菓子を食べた。

中学になると、流石にそんなじいさんと仲良くするのも気恥ずかしくなって、
声掛けられても知らん振りした。
小学生も当時と違い、各地で起きる数々の凄惨な事件のせいで、
他人を警戒することを教え込まれるらしい。
じいさんの傍を避けて通る子も多く、
タチ悪い子どもがじいさんをからかって逃げる、なんて姿も時々見かけた。

そして私も実家を出てからはたまにしか帰らなくなったし 
帰った時も高田のじいさんを見かけることもなくなった。
その存在も今やっと思い出したところだった。


「お腹すいてないかね、春ちゃん」

─知らない人が何か食べさせてあげるよ、と言っても
ほいほい付いていってはいけません。
そんなことは解ってます。でも知ってる人だしね。
自分に言い訳した。ぽつんと一人でテーブルに付くのが
どうしても嫌だったからかもしれない。
向かい合って座る恋人同士を見るのが
耐えられなかったからかもしれない。

がつがつとランチセットを食べる私を
高田のじいさんは目を細めて見ている。
この前まで、私の前に座って目を細めていたのは
 あの人だったのに・・・。

がつがつがつがつ食べながら、涙と鼻水があふれ出す。
─どうしたの?って聞かないんだね、高田のじいさん。

自分の皿にはほとんど手をつけず、水ばっかり飲んで、私の皿が空になったら、
「ほら、こっちも食べな」
自分の分も差し出した。
「遠慮すんなって。先のない年寄りは栄養なんていらねぇんだ。ほら、ほら」
にこにこと笑いながら皿を押し出す高田のじいさん。
涙と鼻水でぐじゃぐじゃになりながら、私はひたすら食べ続けた。

「それにしても・・・・高田さんは何でまた あんなとこにいたんですか?
ドラムのゲーム上手いなんて吃驚しちゃった」
口の周りをナプキンで拭き拭き、問いかける。
お腹がいっぱいになったら、身体の中が温かくなって、
自分のことしか考えていなかった事が何だかちょっと恥ずかしくなった。

「あんな風に叶うとは思わなんだなぁ・・・」
高田のじいさんは水を一杯飲み干すと、トンと音を立ててテーブルに置き、
ガラス窓の向こうに広がる空をじっと見て言った。
「信じるか信じんかはあんた次第だが・・・ワシはもうすぐ死ぬのでな」
「え?」
「『孤独死救済キャンペーン』とかでな、
死ぬ直前に願いを二つ、聞いてもらった」
手にした水をこぼしそうになる。高田のじいさん、大丈夫・・?
「天使だか 神様だか 死神だか そこんところはよう解らん
・・・いや、これもどうせ一瞬の夢かなんかで、
ワシはアパートの部屋の中、もうひとりで死んでるのかも知らん」
「ふうん・・・?」

「ボケてるとか思たじゃろ、今?まあ、それでもええ。
こんな風にして願いが叶ったんだしの」
高田のじいさんはそう言って 
しわしわの顔をしわしわの両の手でこすると 
ふっふっと声立てて笑った。

「若い頃ドラマーになりたくてな、
映画の主人公みたいに女の子にきゃあきゃあ言われて、スタアになって・・」
オイラはドラマー・・・ 
じいさんは、指でテーブルをコツコツ叩き
聞いたことのあるような昔の歌を口ずさんだ。

「それが 一つ目の願い?」
うむ、と高田のじいさんは深く頷く。
「ちょっと思ってたのとは違ってたがね」

「そして、もうひとつはこれ。誰かと一緒に食事がしたかった・・・いや
好きな誰かが一生懸命食べてるのを、
向かいで見たかった、っていうのが正しいかなあ・・」
向かいで微笑むその顔を見返すと、
ほんのり血色のよくなった顔で高田のじいさんは付け加えた。
「いい一生だったと、これで思えた。大満足した。ありがとう春ちゃん」



「じゃあな・・ワシはこれで」
高田のじいさんは私の手を両手で包み、
「いいか、死のうなんて思うんじゃねぇぞ、春ちゃん」
握られたはずの手に何の感触もなく、
不思議に温かい空気だけがまとわりついた。
おどろいて、高田のじいさんを見つめると、
その細い身体はゆらゆら薄くなってやがて見えなくなった。

風がごうっと私の周りを吹き くるくると枯葉が舞った。
レストランの中にいたはずなのに 気づくと舗道に立っていた。
満腹感と身体の温かさを確認する。



まだ、間に合うかもしれない・・・そう思った。
孤独になんか死なせない・・そう思った。
私は走り出す。
高田のじいさんは、もう一つ願いが叶わなくっちゃいけないんだ。 
「誰かに看取られて逝きたい」っていう願いがね。




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すずはら なずな

すずはら なずな

どれも短いお話ですが 
一つでも心に残ったら嬉しいな。

過去記事どこにでも、
コメントOKです。
舞い上がって
喜びます。

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