STAND BY ME

生きることにちょっと 不器用な子どもたち、もと子どもたちの 短いお話を 綴っています

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

出発点にて ~ ひまわりの庭5 


相変わらずリアルでは色々大変なことがおこっておりますが、
感謝や幸せや深い家族愛とか そういうものを頂いて一生懸命返しているところです。
(書いててこっぱずかしいけど)

やきもきさせる カップルその1.ちゃんと結婚させました。
今後 夢を壊すような「波乱」は無い予定なので このシリーズはこれで終わり、かな。

----------------------------------------------------
第58回 Mistery Circle バトルロイヤルルール(共通お題) 

----------------------------------------------
《 序の文 》
●酔うというのは、体が夢を見ることだ。

《 挿入文 》
●おれはこの夏を忘れないだろう。地獄の釜で煮られているような夏だった。

《 結の文 》
●「ミルクをくれ。ストレートで」
------------------------------


『酔うというのは、体が夢を見ることだにゃ』

指先にちょこんと載せたまたたびの粉を、義人が差し出すとニワがぺろりと嘗める。
義人はざらっとしたその舌の感触が好きだといつも言う。もともと細い義人の目が更に細くなる。
「ニワは幸せ?」
『おう、そこそこな。この先いつ死ぬとしても 悪くねぇ一生だったと笑って死ねる そんな感じだぜ。』
「そっか、それは良かった。ここまで連れて来て悪かったかなとか ちょっと思ってたんだ」
『この家は 悪くねぇぜ。元々お前と『のりさん』のことを一番気にしていたのは 俺だってことを忘れんなよ』

ニワと自分の分を義人が「会話」し続けるのはいつものことだが 今日のニワの言葉のハードボイルドっぷりに耐えきれなくて噴き出した。
「義人、さっきまで何読んでたの?ニワの台詞変だよ」
「変かなぁ。いやぁ、こいつはもともと一匹オオカミ、いや一匹ネコだからさ。こんな感じかと。仲良くなるのにそりゃ、時間かかったんだよなぁ、ニワ」
義人がそういうと、ニワはニワ自身の声で「にゃあ」と答えた。

*

『おれはこの夏を忘れないだろう。地獄の釜で煮られているような夏だった、とな。』

義人がまた今日も縁側でニワと「会話」しているのが聞こえる。義人が植えたひまわりも順調に増え 今年はますます見事な「ひまわりの庭」が出来上がりそうだ。

黒猫は余計に暑いだろうと思いながら、台所の小窓からいつもニワのいる辺りを窺うと、隣の猫がニワの傍にいるのが見えた。淡いブルーの目、薄いグレーのつややかな毛並みのこの雌猫は とても優雅な立ち居振る舞いをする。「ビル」なんて愛想のない名前をつける隣人のセンスはどうかと思うが、街中のオフィスビルの駐車場で拾われたと聞いた。いったいどんな過去を持つんだろう。

『こんな暑い日に正装して結婚式なんて本当、御苦労さまだわ』
ビルの家人は今 ビルを置いて田舎の結婚式に行っているらしい。
『朝起きたらキャットフードがてんこ盛り。これは2、3泊してくるつもりよ』
今度は雌猫の声色で義人が言う。私が聞いていることに気がついていないようだ。

隣の猫も置いていかれて寂しいのか、家の人が留守だといつもニワに会いに来る。ニワもまんざらではなさそうだ。
ひまわりが大きく育ち始めたうちの庭は、大きな葉が作るいい感じの日陰があり、立ち並ぶ茎の間から時折気持ちの良い風が吹き抜ける。
義人は今日はひとりでビルとニワの二匹分の「会話」をしていて、今は一般的な「人間の結婚式」について語っている。
『ところで 義人はどうなの、どうするの』
いきなり[ビル]が言いだした。ドキっとして 拭いていた皿を落としそうになる。
『煮え切らない義人の態度を見ると、尻に噛みつきたくなってくる。のりさんはあんなにいい子なのに』
「ニワ」が褒めてくれた。ここは素直に喜ぶところだろう。そう思っていると話は予想外に展開し始めた。

「オレだってずっと考えてたさ、ニワ」
『何が問題なんだ、このままだと のりさんは幸恵叔母さんに責められっぱなしだ。』
『のりさんの気持ちは解ってるの?義人は気持ちちゃんと伝えてるの?」
『面倒くさいヤツだ。何でぐずぐずしえるんだ、言え』
視線を落とした横顔は今までの義人と何だか微妙に違う。このところ 前みたいにふざけていてもずっとどこかうわの空で、何か言いたげだった。

「のりさんとひまわり満開になったこの庭で結婚式がしたい、最初に種をまいた時から思ってた。『暑くて迷惑』かもしれないけどね」
えっ…。蛇口に延ばした手が止まる。自分の耳を疑った。ついこの間ストレスで聞こえなくなったオンボロな耳だ。今度は幻聴なのかもしれない。
『それを俺に向かってまず言うか?相手はのりさんだろ、ちゃんと向き合え馬鹿』

長い前ふりの後 縁側からずずっと身体をずらすようにして茶の間の中に入り、改めて義人はこちらを向いた。
義人はとっくに私が居ることに気が付いていたのだ。逆光で表情が見づらい。
「のりさん、聞いてる?」
「き、き、聞いてるけど」
心の準備ができていない。この間幸恵叔母さんが来て、また「ちゃんと結婚しなさい、でなければいつまでもこの家で一緒に住むのは感心しない」と、くどくど言った時 義人は確か出かけていたはずだ。重ねて「どういう家のどういう育ちの子なの?」と質されて、改めて「今そこに居る彼」以外、義人について何も知らないことを思い知らされたのだ。

「少しオレの話をしていい?」
真剣な義人の表情に少し不安を感じながら さっき洗った手を無駄にもう一度洗い、蛇口を閉め忘れて一旦戻り、手を拭いて台所から出て、やっと義人の傍に行った。

「ごめん、面白い話じゃないよ。でも やっぱり大事なことだと思う。俺がどんな親の血を引いていて その親とどう関わったかとか」
「…ご両親?」
「オレの親父は家庭向きな男じゃなかったんだ。子供の俺は親父が外で何をしているのかさっぱり解らなかった。ただ」
義人のそういう話は初めて聞いた。聞き出そうとも思ったこともなかった。でも、陰になった義人の顔からも せっぱつまった真剣さが伝わって 言葉が挟めなかった。
「ただ、いろんな歯車が壊れ、母親がどんどん耐えきれなくなって、心が病んでいっていることは解った。そんな母親を支えたいと思った。でも」

続きを言い淀む義人の辛そうな顔を見ていると苦しい。この家で自分の境遇を受け容れ切れずにいた幼い自分を思い出す。自分だけが世界で一番一人ぼっちのように思えた夏。この明るいおおらかな義人が、そんな私より数倍も重いものを抱えて生きてきたのかと思うと 手が震えた。
「…いいよ、義人。辛いなら言わなくていい。全部聞きたいなんて思ってない」
泣きだしそうな顔で義人はくしゃっと笑った。義人に近づいてそっと手を延ばす。そこにいるのに手を延ばしても触れられないくらいずっと遠くにいるような気がした。
「ごめん、のりさん。でも聞いてほしいんだ。それからちゃんと考えて、オレとじゃ幸せになれないと思ったら…」
抱き上げたニワが、その言葉を遮って「みゃう」と鳴いた。
「こんなに長くのりさんの傍にいてから こういう事言いだすの、ズルいと思う。卑怯だと思う…申し訳ない、と思う」
本当にごめん、と畳に前髪が触れるくらい深く 義人は頭を下げた。
「ただ 一緒にいて のりさんが笑ってくれて幸せだなって 毎日そんな風に楽しくて でもやっぱり結局『逃げて』いたんだと思う」
返す言葉を見つけることができず黙っている私を見つめ、義人は もう一度ごめん、とつぶやいた。

長い話をし終えて、義人は長いため息をつく。
「家族を守れない男と、病んだ母の子供だ。そんな血をオレは引き継いでいる」
酷いことをしたはずのお父さんを嫌いになれなかったこと、お母さんを支えきれず傷つけてしまったこと。そんな風に言う義人が一番傷ついていたはずなのに。
私は目をつぶり、深く息を吸い込んだ。

ニワの重みと柔らかさが私の心を落ち着かせる。

『お父さんはお父さん、お母さんはお母さん、だ。義人とは違う。同じようになんてならないし、そんなことを心配しなくていい』
義人の真似をしてニワの言葉で答えた。
『のりさんは…』
ニワに触れることで勇気をもらえる気がする。もう一度ニワの柔らかな肉球をなぞる。
『のりさんは、そんな義人が、きっと…。』
ニワが私の指を嘗め返す
『きっと丸ごと全部大好きだ』
かなり長い間を置いてしまった後、語尾を付けくわえて『…にゃ』と言うと、私の口元とニワを交互に見て、泣きそうな目をした義人の頬が少しゆるみ、細い目がもっと細くなった。

のりさんさえOKしてくれたら、今年のひまわりが咲きそろい満開の内にこの庭で、「結婚」したいと、義人は言った。「暑いけど」と付け加えて。
駅からうちまでの『ひまわりロード』をみんなが辿って来るんだ。その終点がこの庭─それがうちの庭だけでなく道沿いにまでひまわりの種を撒いた義人の望みだった。
「のりさんとずっと一緒にいたい。結婚してくれますか?」
小さく震える義人の指を握り深く肯いた。ニワが「みゃあ」と鳴き、義人の膝に飛び乗った。いつの間にか 隣の猫のビルも傍にいて、寛いだ姿になって大きく欠伸をひとつ、した。



ひまわりの時期が終わるまでに婚姻届を出すだけのつもりだったのに、いつの間にか人を呼ぶことになり、その後は忙しかった。
この間久々に再会した小学校時代のクラスメイト、わずかな親戚 仕事仲間やそのほか連絡を取った友人たちが 暑い中急なことに嫌な顔もせず集まってくれた。隣人も近所の人も、通りがかりの人も気軽に参加できるようにしよう、もちろん猫も、と義人は言い、人前結婚式の形をとり、庭で皆に手伝ってもらってのバーベキュー大会になった。
浴衣やサンドレス、アロハや短パンという思い思いの格好で来てくれた皆をその後、隣町の花火大会に送り出し、残った二人と一匹で、家の二階から遠い花火を見ることができた。ひまわりの花を見れば、この日のことを私はずっと、鮮明に思い出せる。どんなにおばあちゃんになっても、きっとだ。

渋る義人を説得すると、彼はまるで「ひまわり園」の観光ポスターのような手紙をつくり 小さく結婚報告を書き添えて「居場所も知らないお父さん」と「天国のお母さん」に向け、風船に結び付けて空に飛ばした。暮れていく夏の空にひまわり色の風船が高く高く上がって行くのを 義人とふたりでいつまでも眺めた。



旅行の支度をして玄関に立つと、義人がまたニワと「会話」している。幸恵叔母さんにニワの世話を頼んだとはいえ、置いていくのは後ろ髪引かれる思いだ。

「さびしいんじゃないの?ニワさん」
『馬鹿いえ、お喋りなおまえが大事なことを言えずにずっとうだうだしてたんだ。やっと責任持ってのりさんを幸せにする、その記念の旅行だ。うるさいのがいなくてせいせいするってもんだ。これからは当分昼寝し放題だ』
「ふふん 無理しちゃってさぁ。ほれ、トランクに入るか?素直に言ってみ、連れてってって」
あの調子では本当に義人はトランクに入れかねない。やっぱり猫連れの旅行に変更ってできないだろうか、と私も結構真剣に考える。

『うるせい、さっさと行って来い。』
後から別の声がしたので 驚いて振り向くと幸恵叔母さんが庭の方から入って来て ひょいっとニワを抱きあげた。
「もう、何をぐずぐずしてんのよ。飛行機乗り遅れるわよ。ニワはあたしに任せなさい、これでも猫は得意なのよ」
ニワを抱えたまま義人の背を押すように玄関まで来ると、私たちに早く行けというように手を振って見せ、すぐにニワと台所の方に戻って行った。
台所の窓から 幸恵叔母さんの声が聞こえてくる。
『おい ねえちゃん ミルクをくれ。ストレートで』
「はいはい 猫用ミルク ストレートね」


満開の「ひまわりの道」を辿り、今 義人とふたり駅へと向かおうとしている。ここが「出発点」だ。
お母さんとお祖母ちゃんの思い出の詰まった家を振り向いて 心の中で声を掛ける。
― 行ってきます。私 ずっと幸せだよ。有難う。






スポンサーサイト

タイムカプセル(ひまわりの庭4

回収しないままの物語がもうひとつありました。
ひまわりの庭、一作はここのお題で作らせてもらっています。誰やねん こいつらと思われる方は「ひまわりの庭」ノカテゴリで1~3までご覧いただけます。。宜しかったら読んでください。

珍しくリア充なお話で プロポーズさせてしまおうか何か大人な展開しちゃったりしようかと思いましたが 相変わらず作者テレ屋さんなもんで。

第54回 Mistery Circleお題
●始まりの文「ルルルルルと受話器が鳴った」
●終わりの文「「あなた方二人は・・・・・・ご兄妹ですか?」

---------------------------------------------------------

ルルルル、と電話が鳴った。秋晴れの日曜の午後のことだ。
とっさに受話器を取ってしまって 後悔する。
相手は 返事をする隙も与えずマニュアル通りのセリフを滑らかに話し続けている。
「奥さん、奥さん」と、こちらが何者かちゃんと解らないまま呼びかける相手に辟易して 何とか無理やり電話を切り上げた。
どっと疲れた気がして小さくため息をつき 振り向くとナッツを口に放り込みながら食卓に両肘をついて こちらを向いている義人がいた。

「何?にやにやして…」
「『愛に満ちた温かいまなざしを向けて微笑んでいる』と言ってほしいな。」
上手い反応ができず 黙ってしまった私を面白そうに見て 義人は言葉をつないだ。
「いや、のりさんが電話出てるなぁと思って」
ああ、そういうことか。そうだよね…私、電話に出ている。改めてそのことを思う。
「不動産屋のセールス。固定電話に掛ってくるのなんか そんなのばっかりだ」
─「奥さん」なんて呼ばれてもね…と言いかけて 言葉を呑み込んだ。
義人が細い目を更に細くして笑う。
「のりさん 聞こえるようになって良かったなぁって、オレはしみじみ感動したぞ」



昨年突然母が亡くなり、慌ててこの家に戻った。
集まってきたのは 何年も付き合わずにきた親類だ。余計に気を使う。
出来る限り自分だけでしようとしたものの、葬儀だけでなく後片付けも思ったよりずっと大変で、押しかけるように付いてきた義人が 随分心の支えになってくれた。
けれど 色々落ち着いたと思って職場に復帰した直後 耳が聞こえなくなったのだ。驚いた。
医者はストレスだと言った。聞こえるようになるまで 時間が必要だった。


「もしもし のりちゃん」
今度は母のすぐ上の姉 幸恵叔母さんからの電話だ。振り返って義人の様子をチラと見ると 縁側から草履をつっかけて庭に出ていくところだった。
夏も終わり 庭いっぱいに項垂れたひまわりがこげ茶色の種を沢山付けている。義人の作った「ひまわりの庭」の終焉だ。

「どうしてるの?この間から何度も掛けてるのにずっと電話出ないし」
「ちょっと耳の調子が悪かったから。ううん、もう大丈夫だって。ちゃんと聞こえてる」
「そんなの聞いてないわよ。酷かったの?ちゃんとお医者様に診てもらったの?」
「うん。それより 用があるならメールアドレスも教えたじゃない。メールくれたらよかったのに」
「えー、無理無理、私そういうの苦手なんだから。知ってるでしょ」
便利よ、息子に教えてもらって 練習したら?とメールを薦める私に、まだぶつくさ言いながら 話題はやはり思った方に向かった。
「まあ、いいわ、それよりさ、そこにまだ、あの子いるの?義人君」
「いるよ。庭の手入れしてる。朝ごはんも作ってくれる」
「なあにそれ。あの時会っただけだけど、なかなかいい子のようだわね…でも一緒にずっと住むんだったら、ちゃんと結婚しなさいよ。婚約もしてないのに実家で同棲してます、なんて、あんたの母さん生きてたら何て言うか」
幸恵叔母さんの話は延々と続く。この夏、庭がひまわりだらけになったこともちゃんと知っていた。
「あんたの家なんだから 好きにしたらいいけれどね。私と兄さんの育った場所でもあるんだし、近所で見てる人も多いのよ。わざわざ私に聞いてくる人もいるんだから。ひまわり植えるのもいいけど植えすぎじゃないかとかさ、のりちゃんはいつの間に結婚したのか 子供はまだかとかさ、言いたくないけど こんなこと」


「のりさーん、お客さん」
今度は玄関先から義人が呼ぶ。電話を切るには有難いタイミングだったが、私に客なんて誰だろう。のろのろと出ると 5歳くらいの子供を連れた女性が玄関先に立っていた。
「のりちゃん?久しぶり、加奈子よ、加奈子、小学校で一緒だった…あれ、覚えてない?」
「岩本、さん?」
その名を私が忘れていなかったのは 地味な私と違い彼女が細身で可愛いしっかり者の優等生だったからだ。でも、彼女が私を覚えていて「のりちゃん」と親しげに呼ぶのが何だか不思議な気がした。相変わらず上手く表情を崩せない私に気が付いたのか すっかりふくよかになった彼女はくすくす笑った。
「大丈夫よ セールスとか勧誘じゃないから。子供がね、何だかすごい『ひまわり畑』があるっていうからちょっと寄ってみたの。そしたら、のりちゃんちだって気が付いて」
岩本さんの視線を追って庭を見ると、義人が女の子を招き入れて楽しげにお喋りしながら、ひまわりの種を集めている。
「声かけてから 別の人が住んでたらどうしよう、って思ってたんだけどね…彼、旦那様?」
そう、とも違うとも答えかねていると
「うーん やっぱり時期遅かったね、みんな枯れちゃってる」
岩本さんが子供に向かって声を掛けると、女の子は 「ほうら、ママがなかなか一緒に来てくれないんだもん」と頬を膨らませた。
こっちで一緒に見る?と誘って岩本さんと縁側に座った。本当を言うと何を話したらいいのか全然解らなかった。
今までだったらこんな風に家に入ってもらうなんて絶対しなかっただろう。相手がそれほど自分を覚えているとも思えない、話がはずむ自信がない、そんな風に先に思ってしまう、そんな自分がずっと嫌だったし それが自分だと諦めてもいた。
義人のせいかな。初めて会った子供とすっかり馴染んでふざけ合っている義人の姿をぼんやり見ていた。

「ねぇ、覚えてるかな、のりちゃん。『タイムカプセル』」
ひまわりの種をいっぱいに入れた袋をこちら掲げて見せながら笑いかける子供に手を振り返して 岩本さんが言った。
見上げる空にはいつか見たのと同じうろこ雲。「お母さん」になった彼女と居ることは解っているのに、こうして並んで座っていると自分の歳を忘れてしまいそうになる。
忘れていたたくさんの時間がぼんやりと形を成してくるような気がした。
でも「タイム、カプセル」?卒業のときの話だろうか。確か…6年は彼女とは同じクラスじゃなかった気がする。誰かと勘違いされているのではないかと少し不安になった。
何のことか問い返せないでいる私の顔を見て 岩本さんはいたずらっぽく笑う。
「ふふ、案外皆、覚えてないんだ」

「いいなぁ、花の咲く庭と縁側のある家。ほっとしちゃう」
縁側に腰かけたまま足を前に伸ばし、岩本さんは うーん、と気持ち良さそうに伸びをした。
「枯れたひまわりだらけ、だけどね」
「うん、なかなか凄みのある光景よね…でも、ほら、うちってさ、マンションだったから。のりちゃんちみたいな一戸建てのおうちにずっと憧れてた」
「そうだったんだ」
私は…私は最初マンションに戻りたいとばかり思っていた。こことは違う町で父と母と一緒に過ごした日ばかり懐かしがっていた。
「結婚してその『憧れの一戸建て』に住んで、子供が生まれて。でも別れて…で、元のマンションに舞い戻って来ちゃった」
ふふふ、と岩本さんは明るい目をして笑う。気を遣わせることなく さりげない様子で自分の「今」を相手に伝えられる、凄いな、と思った。
「あ、さっきのね、『二分の一成人式』の時の話。あたし、のりちゃんと班、一緒だった…」
にぶんのいち、せいじんしき、にぶんのいちせいじんしき。そんな言葉があったことを今思い出す。
ということは10歳。4年生の私はどんなだったろう、記憶を手繰る。

ひゅうっと秋の風が通り抜け 10歳の私がそこに立って今の私を見ている気がした。肩までで下ろした髪、俯きがちな目、気弱な表情。痩せっぽちで無口な女の子。
転校生だったのだ。父が亡くなって、私と母はここに来た。母にとっては「戻ってきた」のかもしれないけれど 私にとってはたまに遊びに来たことのある「おばあちゃんの家」だった。何をやってもぎこちない気がして、そんな私を皆が笑って見ているように思った。卑屈で自意識過剰の嫌な子供。
「もう忘れたかな?のりちゃんが意見出したのよ、何か記念になることしようって決める時」
だんだん記憶が戻って来ると、何で今まで忘れていたのかと不思議に思う。
班ごとにまず意見をまとめましょうと先生が言い、私のいた班に…そうだ、岩本さんもいた。
「タイムカプセル」と案を出したのが私だからと 班を代表して発表することになった。心臓がばくばくして頬が熱くなり 手の平が汗で濡れた。
黒板を背にしてしゃがみこんだ。泣いてしまったのだと思う。
結局 人望も無く説得力も無い私の案は採用されず、保護者と近所のお年寄りを招待して歌と合奏を聞かせることになった。
そしてそれだけじゃなく、将来の夢や希望を一人ずつ前に出て述べる 私にとって最悪な企画に決まったのだ。

「ごめんね、ずっと謝らなきゃと思ってたんだ。意見出したんだからのりちゃんに前に出てもらおうって あたしが強く言ったんだと思う」
この人はずっと覚えていて気にしてくれていたのだ、私は今まですっかり忘れていたのに。自分のことでいっぱいいっぱいで、私は多分周囲のことなんか全く見えていなかった。

「どこに埋めたか 解る?」
「え?だって あの意見は…」採用されなかったんじゃなかったっけ?そう言いかけると 岩本さんは
「折角だから うちの班だけでやろうって。大事なもの持って集まった記憶があるんだ」
そうだっただろうか。私と岩本さん、男子が2人の確か4人の班だった。
「あたしね、同じ班だった笹井君のこと好きだったんだ、一緒に秘密持つとか思い出作るとか そういうのやりたかったのね、きっと」
─子供なりに結構真剣に恋してたんだよねぇ、岩本さんは遠くを見ながら言った後、視線を落として少しの間黙った。
「全部あたしの都合だったのよね、ほんと巻き込んでごめん、酷い話だよね、迷惑だったよね、ごめんね、ほんと」
深く息を吸った後、岩本さんは神妙な顔になってそう言い、何度も何度も謝りながら頭を下げた。
「いいよ、気にしてない。それより本当に埋めたんだっけ?タイムカプセル。皆何を持って来たんだっけ」
「うん、ビーズ細工とかビー玉とか他愛ないものだったと思う。そういうの持ち寄っただけで終わったのか 埋めたのかがどうも思い出せないんだよね、埋めたとしてもどこだったかがどうしても解らないの。」
「私もすっかり忘れてた。用意した大事なものって…私、その時何を選んだんだろう」
「あたしは多分、アクセサリーと手紙。将来の自分宛に将来何になりたいかとか今何が好きかとか書いたと思う」
「笹井君のおよめさん、とか?」
「うーん…書いたかも。うわぁ 恥ずかしい、赤面ものだね」
「でも 何かいいな、可愛い」


ママたち何笑ってるのぉ…と岩本さんの子供が駆け寄ってきて 膝に飛びつきながら聞く。
義人が離れたところで「グッジョブ」と親指を立てて笑った。「友達?のりさん、めっちゃ楽しそうじゃん」と言っているのが口の動きでわかった。
「もらったよぉ。うちもひまわりのお庭にするっ」
「良かったねぇ、おじちゃんに有難う言った?」
子供の頭を包むように両の手で撫ぜながら 岩本さんは義人に会釈した後 耳打ちするように私に顔を近づけて言った。
「優しいダンナ様じゃない。のりちゃん幸せだね」




岩本さんが訪ねて来た日から 昔のことを少しずつ思い出している。色んなことを忘れていた、というより忘れたことにしていたんだと思う。
父との死別、ここへの転居と転校。馴染みの無い場所 上手く溶け込めない自分。いっぱい泣いたこと。
その日タイムカプセルの話はそこまでで終わったが 他の二人にも連絡取って、埋めた記憶が少しでもあれば一度一緒に探してみようと約束した。
結局その日は、私が何を持って来たのかは 私も岩本さんも思い出せなかったのだった。

手掛かりを見つけたくて 私は子供の頃の自分の持ち物がまだ残る押し入れや引き出しを改めて開けてみた。
形見整理の時にも、母が取っておいてくれた私の成績表や絵や作文のいくつかが見つかったが 自分で残しているものは少なかった。
学年が上がる度、少し前の自分が嫌いになっていた。その時々大切だったものも沢山捨ててしまったのだと思う。
10歳の私は その時何が宝物だったんだろう。何を記念に残したかったんだろう。

「のりさん、最近 何探してるの」
義人がまた面白がって聞いてくる。
「それって 『自分探し』ってヤツだよね。一緒に探してあげよっか?」
「結構です。一人で探す」
気恥ずかいから 思いっきり拒否して まだからかってくる義人の鼻先でぴしゃりとふすまを閉めた。
「のーりさーん、何照れてんのー」
冷たくしたって義人は全然動じない。

押し入れの中 アルバムが数冊入った段ボールを見つけた。一冊ずつ開いてみる。
赤ちゃんの私、仲よさそうな両親の写真、若い母の姿。祖父母。私はいつも恥ずかしそうに笑っている。
写真の数は減ったけれど ここに来てからの写真もあった。花の咲く庭で撮った写真が多い。
小学校の、ちょうど10歳の頃。ふとページをめくる手を止めた。
庭の一角で咲く大輪のひまわりと私が並んでいる写真があった。「おばあちゃんのひまわり」と母の字でコメントが付いていた。

いつまでも馴染めずに無口なままの私に 祖母は花の世話を手伝って、と言った。土いじりの好きな人だった。
土を整え、種を撒く。土の触感が気持ち良かった。爪の中に土が入っても気にならなかった。虫も触れたし みみずだって平気だった。
水をやり、小さな芽を見つけ、やがてつぼみが膨らみ、花の咲くのを見るにつけ 祖母と居る時間と、この家が少しずつ好きになっていった。
花の世話をしながら祖母は色々な話をしてくれた。沢山の歌を教えてくれた。笑顔を見せる私を見て 祖母は本当に喜んでくれた。



「のりさーん、玄関 誰か来てる」
義人の声が庭から聞こえる。この間来た岩本さんが「私の友達」だったせいで、あれから毎回 誰か来るたびに愛想良く対応しているみたいだ。

若い生真面目そうな女の子が『奥様』を連発しながらのいきなりセールストークを始める。何とか途中で遮って購入を断ると
「でも 奥様…」と 更に続けようとする。
─わざわざ呼んで悪かったな…と口を動かして手を合わす動作をする義人に、「そうだよ、本当に」と顔をしかめて見せ 口の動きと視線で抗議した。

「『奥様』、でもありませんから」
『奥様』を否定するのに きつい言い方をしたつもりでもなかったのに 若い女性は真っ赤になって 随分慌てた様子で訂正した。
「ああ、すみません ご兄弟・・・とかだったんですね、私てっきり…」
また勝手に納得して、もごもごと言い訳し続けながら 説明用のバインダーを鞄にしまう。訪問販売は会社の研修の一環なのかもしれない。
不器用そうな彼女に 少し同情した。


「えー 兄でも弟でもないですよ オレ」
気が付いたら義人がすぐ後に出て来ていて ふざけた様子で口を挟む。
─もう、義人は引っ込んでて。
後ろ手で振り払うのに、そんな私を更に面白がるように 義人は私の後ろから両肩に手を掛けてきて言う。
「でも『奥さん』かぁ…『奥さん』。それいいなぁ。うん いいっ いいよ、のりさん」


岩本さんから電話があった。
「思い出した?、缶に入れて埋めたよ、確か校庭の隅。今度笹井君たちも呼んで、皆で探しに行こう、ね、のりちゃん」
得意げな岩本さんの声を聞いていると 10歳の彼女の姿が目に浮かぶ。
「有難う。あれから私も色んな大事な事、思い出した。」
「タイムカプセルに入れた物も、思いだした?」
「はっきりとは思い出せないんだけど…祖母宛の手紙と…種じゃなかったかなって。」
「種?」
祖母が体調を崩し一緒に庭に出ることも叶わなくなったのが その頃だったと思う。
最後に一緒に採ったのは「ひまわりの種」だったかもしれない。


「そうそう、『あの子を元気づけるにはひまわりを植えなさい』って のりさんのおばあちゃんが夢に出てきて言ったんだ」
夕食時 いきなり義人が言う。小芋の煮つけがお箸から転げ落ちそうになった。
「おばあちゃん…って」
タイムカプセルのことやそれから思いだした様々な話は、まだ義人に詳しくしていないのにどうして?と思い、驚いて聞いた。
「ずっと花いっぱいだった時、あったんじゃん、この庭」
「あーっ。勝手にひとのアルバム見た?」
義人がひまわりを植えるきっかけが、「夢」だなんて言われても信用なんかできないけれど 義人と祖母が夢の中で会えて、仲良くなっているのもいいな、とちょっと思う。

今年採れたひまわりの種がひとつ 食卓の隅っこに残っていた。さっき義人がテーブルの上でひとつひとつ見ながら仕分けていた。
拾い上げて手の平の上でそっとゆすってみる。
縁側の向こうに見える庭に、10歳の私と祖母と母、そして今の義人が、沢山の花を背にして こちらを向いて笑っているのが目に浮かんだ。

義人が居る。相変わらず いつもどこかズレていて お調子者で、能天気なオトコだ。
ひまわりはまた、来年もさ来年も 庭いっぱいに咲く予定らしい。





《 タイムカプセル(ひまわりの庭4) 了 》





ハグ~ひまわりの庭 Ⅲ

mistery circle 祝再開です。
今回の私の始まりのお題は
「たぶん自分は、閉じているのだ。本当は人恋しいくせに、近づこうとしない。友だちが増えることに慣れていないのだ。」
おしまいのお題は「ひとの胸に飛び込めないんです」でした。
お題バラバラに寸断状態になってしまって ゴメンナサイです。
   



「『自分は閉じてます』ってアピールしてる感じがするなぁ」とそのオトコは言った。

バーガーショップの妙に明るい店内で 彼と向き合いながら 私はその言葉をぼんやり聞いていた。
まだ親しいとも言えない ただの顔みしり程度の関係だったのに
相席いいですか?と問われ 返答する前に 義人は向いの椅子に座っていた。


「ハグとかって、どうなんだろうな…」
黙ってコーヒーを啜っていると 唐突に義人が言った。
何を言い出すんだコイツ。いきなりの質問にポテトの欠片が開いた口から転がり出そうになった。

「自然体で そういうのできたら 何かが変わるかもしれないとか思わない?」
さっきの「閉じている」発言から続けて 驚いたらいいんだか、怒ったらいいんだかよく解らない。
すぐに素直な感情を出す前に固まってしまう。自分で自分の「素直な気持ち」っていうのが 解らない。
確かに我ながらやっかいな性格だとは思う。

咄嗟のことにうろたえたのが見てとれたのか、義人は愉快そうに目を細めて私の顔を見
聞きもしないのに 最近観たDVDについて語り出した。

「文化の違いについて考えていたところなんだなぁ。実は」
その映画は、クリスマスやバレンタイン頃によくあるハートウォーミング系のオムニバスドラマだ。
「『恋人同士』じゃない男女のハグっていうのがね・・・」
そういうのが成り立つ「西洋文化」っていうのについて 彼なりに考察したという。
「日本人じゃ、なかなかああはいかないよなぁ、と思ってさ」
案外面白い人なのかもしれないなぁと くるくる変化する表情と よく動く唇を眺めながら思ったのだった。

「で、思ったわけ」
義人は息をつき、カップから氷が融けて薄まったアイスコーヒーの残りをすする。
ズズズッという遠慮のないその音を聞いて いきなり現実に引き戻された気がした。
「もしあなたが『閉じている』なんて言われるのに今 ムカっときたんならさ…
 そんな自分のカラを破りたいと思っているとしたら」
人懐っこそうな目でじっと見つめられて困惑する。何なんだいったい。
「僕とハグ・・・」
バックで その軽そうな頭をバコンとはたいて席を立った。



「ハグ攻撃で やっと相手がさ、気持ち開いてくれた」
とろけそうな笑顔で急に話し出す義人の顔を見て またハグの話か、そう思った。
誰か他にも同じ手で迫ったわけだ。ふうん、と思った。

懲りもせずまた同じバーガーショップで 懲りもせずまた義人は勝手に相席しに来る。
会うのが嫌なら別の店に行けばいいんだとは解っていたが 
それだけの理由で自分がお気に入りの店に行くのをやめるっていうのも大人げない気がした。意地もあった。
自覚はなかったけれど少しだけ 義人への興味もあったのだ、と今では思う。

「本当は人恋しいくせに近づこうとしない・・・そんな子でさ」
「…そうですか」
「のりさんと ちょっと似てる」
「そんなことで私と似てるなんて言われても・・・」・・・別に嬉しくないんですけど。

「ハグさせてもらうまで長いこと掛かったけどさ、いやぁ、今ではもうお互い離れられない存在って感じで」
「ふうん。それは良かったですね」
不機嫌そうに聞こえないように注意して答える。

「最近なんかあっちから寄って来てさ、喉なんかゴロゴロいわせて目細めちゃって」
「・・・?」

「ニワって名前付けた、猫、好き?」


以下義人の話を要約するとこうだ。
ハイツの1階の部屋には小さい庭があり、そこによく来る猫がいたが 義人にはいっこうに懐かない。
最初は警戒され、逃げられていたが 脅かさないようにしていたら やっとエサを食べにそばに寄って来るようになった。
だんだん近づいて来て やっと触らせてくれるようになったけれど、それでもまだまだ、心を開かない。
少しずつ少しずつ スキンシップを増やし やっとハグを許してくれる仲にまでなったのだそうだ。

映画の時の話といい猫の話といい 目をキラキラさせながら嬉しそうに語りつづける彼の様子に 
悔しいけれど思わず次の言葉を期待して待つ自分がいた。
ハグできる仲になった相手が猫だったと解ったその時の 自分の力の抜け方が可笑しかった。
 



母が亡くなって 実家をぼつぼつ片付けていたら色々な古いものが出てきた。
幼稚園のお絵かき帳、小学校の時の賞状・・・私が放置していたものを
母は丁寧にまとめて 大事にとっていたのだ。
その中に「伸びる力」とかいう名のついた小学校の成績表も入っていた。

「内向的なところがあります。もっと 積極的にお友達をつくりましょう」
義人に言われたのと同じようなことが成績表の「先生の所見」のところに書かれている。

おずおずと見せた幼い頃の私を ふと思い出す。
母はゆっくりとその短い文章を吟味するように見た後 言った。
「もっといっぱい いいところ書いてくれたらいいのにね。こどもにも解りやすい言葉使ってさ」
母にしたら あんたにはもっと褒めるところがあるのよ、と言っているつもりだったのかもしれない。
「でも、その時私は思ってしまったんだよね」
縁側で、義人は爪を切っている。最近は 義人相手になら少しだけ 素直に話せるようになった気がする。

「自分の性格はいけないんだ。お母さんもそこをよく解っているのに、先生が書いてきたから 余計怒ってるんだ・・・
そう、思った」
義人は母の葬儀から付き添ってくれて 実家の片付けを手伝いに来てくれた。 
今 義人とニワと 同じ屋根の下に住んでいる。
義人が聞いてるのかどうか良く分からなかったが 続けた。
「自覚はあったんだ。新しい友達を作るのも苦手だったし 友だちが増えることに慣れてないし」
パチン。大きな音を立て 義人の足の爪の先の 小さな欠片が飛んだ。

「でもさ、それってアレだな、うん」
短い沈黙の後 義人がゆっくりとこちらを向いた。どうやら聞いてたみたいだ。
「クラスでさ、みんながみんな積極的で社交的ってのはさ、先生にしたって案外 ややこしいもんだと思うなぁ」

猫の「ニワ」がいつの間にか現れて 縁側にストンと飛び乗ってきた。義人の足の指を目を細めて舐める。
「先生がそれを目指していたとしたら それは大きな間違いだ」
ニワのつややかな黒い毛を撫でながら 義人は続けて言う。
「のりさんがのりさんで、良かった。まあ、そういうことだ、なぁ、ニワ」

話しかけられたニワはナォーンと甘えた声を出し義人の膝に上り 
気を良くした義人はニワを更に抱き上げ 抱きしめて、頬を寄せすりすりする。

「何ですか、そのいい加減な感じの結論は」

ニワと義人の相思相愛ぶりにちょっと嫉妬を覚えながら 
黒光するちゃぶ台の上のピーナッツを義人に向って投げると、義人は素早い動作でキャッチし

「サンキュ」
ポンと口に放り込んで 呆れるほど美味しそうな顔をして食べた。

「いい加減じゃないよ。心からそう思ってる」


バーガーショップの「相席」が、何度も重なって 
それぞれの観たDVDが 少しずつ重なった。

ニワの来る義人の部屋で 一緒に観たDVDが増えていった。
選ぶ映画も感想も、色々違うところもあるけれど 何だかちょっとズレた義人の視点はいつも面白いと思う。
いきなりの義人からのハグはやっぱりあり得なくて、冗談でごまかした。


母が亡くなってひとりで帰るつもりだった実家に 今 義人とニワがいる。

大好きなひとに自分から積極的にハグできるようになったら 自分も少しは変わるのかな。
それとも やっぱり変わらなくてっもいいのかな。

そんなことを思いながら TVに夢中な義人の横顔を覗き見る。



残念なことに いつもそこにはニワが先にいて 私はまだ義人の胸に素直に飛び込めないでいる。



 | HOME |  »

Monthly

Categories

Recent Entries

Recent Comments

Recent Trackbacks

Appendix

すずはら なずな

すずはら なずな

どれも短いお話ですが 
一つでも心に残ったら嬉しいな。

過去記事どこにでも、
コメントOKです。
舞い上がって
喜びます。

FC2Ad

管理者ページ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。