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生きることにちょっと 不器用な子どもたち、もと子どもたちの 短いお話を 綴っています

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クリスマスパレード2016 Pandora(パンドーラ)4

クリスマスが今年もやってくる~。
クリスマス頃になると現れるシリーズの連中です。
「私にまるで興味ない~♪」の歌詞とわちゃわちゃと大勢の人が踊るPVの歌がありましたが 書いている間それがぐるぐるしていたことは事実です。関係なかったはずなんですが・・・。



私 明日から絶対に幸せになる。神様よりも誰よりも。
どこかで聞いた台詞の真似だ。どうしてそんな言葉が出たのか自分でも解らない。 神様なんて全く信じちゃいない。信じていないからこそこんな台詞が言えるのかもしれない。そもそも「神様」ってやつは「幸せ」なんだろうか。
今日私はどん底まで落ちる、これ以上落ちられないところまで行く。そうしたら間違い無く 明日は今日より幸せだから。

その日、私は島崎大地に告白した。世の中はクリスマス。昨日からロマンチックだの愛だの幸せだのが街には溢れている。 相手が自分のことを嫌いだろうと思いながらわざわざ告白する自分を馬鹿だと思いながら でも今日 こうしなくてはいけないという私の決意は固かった。
自分を不幸だと思うのは今日限りにしよう、だからすっきりしたいのだ。決してあっちも私を好きだとか、付き合うことになるなんて結果はありえない、期待もしない。
クリスマスケーキ売りのバイトをしている彼を ずっと見ていた。
「中学生がアルバイトなんかしていいの?」
帰りを待ち伏せして話しかけた。口を利くのは初めてだった。上目づかいでちらっと私を見たはずなのに、まるで私なんかいないみたいに島崎大地は通り過ぎようとする。
「待ってよ。待ってくれないと先生に言うから」
立ち止まった相手は振りかえりもせず 低い声で答えた。
「勝手に言えよ。親戚んちの手伝いしてるだけだから」
「嘘」

*

「白坂 麻友」
大地自身は仕事を依頼してきた女の名前を見ても気づかなかった。大地が電話を切った後 その名前のメモを見た橋村が「俺らが知ってるヤツ…かも」と言いだした。
「俺らって、誰と誰?」
全く見当もつかない大地に、「中学の同級生」だと橋村が言う。
中学で同級生と言われてもまだピンともこないと首をかしげ大地が聞くと 同じく同級生の響子は「白坂さん…」と少しだけ間を置いてから ちょっと言い難そうに切り出した。
「3年のクリスマス 大地に告白したっていう、あの?」

大地が「人材派遣」の仕事を初めて2年になろうとしている。植木の剪定とか溝掃除とか買い物代行だとかお年寄りの口コミで少しずつ仕事が増えてはいる。近頃やたら年寄りの知り合いが増えた。仕事を発案しておいて大地に丸投げした市役所勤務の野瀬が最初に挙げたような 「寂しい女性のためのレンタル彼氏」とか「親を安心させるための偽婚約者」なんて仕事は今まで皆無だ。それはそういうことに疎い大地や極端に口べたな橋村をほっとさせたことでもあるのだが。



「中3のクリスマス、その子に告白されたって?」
野瀬が聞きつけて身を乗り出して聞く。指定の日が近づいても大地が望む体調不良にもならず、依頼が込み合う気配もない。ため息をつきながらいつものメンバーでお好み焼屋の鉄板を囲み、豚玉と焼きそばをつついている。野瀬はこういう話を聞き逃す男ではない。何でコイツにそんな話をするんだ、面倒くせ、と大地が橋村の足を蹴る。
「で、その相手が何の仕事の依頼?」
やるなと言われているのに、野瀬はお好み焼の片側もまだ焼けない内につつき回す。
それが…と大地が実に嫌そうな顔をして言う依頼の内容は「プロポーズしようとしている相手から自分を奪って欲しい」ということらしい。
「で、誰がするの?その仕事」
「せ…先方が 大地指名だから…」
橋村が出来る限り関わりたくないのを露わにして、読んでもない漫画のページを捲りながら言う。
「何 それ、その時のクリスマスのリベンジなわけ?」
野瀬がますます身を乗り出して聞く。目が輝く。爽やかなイケメンのはずなのに、そういうところがゴシップ好きのおばさんみたいだ、と以前も誰かに言われた気がする。
「クリスマスと言えば、商店街の飾り付けと宣伝と催事も依頼があったんだよね、何か考えあるの?」
野瀬が嬉しそうに聞く。都合のいい時だけ傍観者の振りをする。そのくせ絶対口を挟んで来る。何も考えていないのか、いまはこっちの「依頼」のことで頭がいっぱいなのか 大地は聞こえないふりをして焼きそばを頬張っている。

「でも よく覚えていたな、パッシー、意外だね。女子の名前なんて」野瀬が橋村に言うと
「ほんとほんと、野瀬くんなら 全員フルネームで覚えてそうだけどね」大地が応える。
「お前こそ 告白された相手の名前も思いださないなんて 何て冷たい…。何て言われて、何て返事したの?」
しまった、また話題がこっちに来たという顔をしてから、大地もしぶしぶ思いだそうと試みる。
「うーん…何だか相手は『明日から神様より幸せになるんだ』とか言ってた」
「それって 大地と付き合えればってこと?」
「いや…なんか良く解らない理屈でさ、そうだ、確か『どうせ私のことなんか嫌いよね』とか『気にせずお前なんか嫌いだって言っていいから』とか言った」
「どういう理屈なんだか」
「ともかく凄く面倒くさい奴だった」
「大地だってそこそこ面倒くさいじゃん」

「でも 大地と白坂さんってそれまでに接点あったっけ…」
ずっと記憶を手繰って黙ったままだった響子が漸く声を出した。じゃれあっていた大地と野瀬、傍で話題をなるべく自分の方に向けないように漫画を読むふりをする橋村の顔が響子の方に一斉に向いた。
「えっ、ええと、そのね、多分3年とも同じクラスじゃなかった…と思うし 大地は女子を避けてた時期だし、白坂さんはその…」
視線を集めて焦る。焦ると赤面する上に挙動不審になるのが響子の特徴でもある。減ってもいないコップの水を継ぎ足し、次は鞄をごそごそかきまわしている。何も探してのいないのは明白だ。

「っていうか、何で大地だったんだろ?どこがいいのこいつの。」
え、わ、私は…焦る響子を横眼で見て 代わって大地が返す。
「学年で2番目に不幸だったらしい」
言い方がやたらそっけない。
「何?それ」
「1番不幸そうなのは俺なんだって。だから告白したんだと」
「ますます 謎だな、結構覚えてるじゃない。もっときちんと説明しないさい、島崎くん。響子ちゃんだって詳しく聞きたいよねぇ」
そんな風に言われて本気で困り顔の響子の顔をちらっと見てから、大地はぽかりと野瀬の頭を叩く。
「お前 本当にうざい」


 指定された喫茶店のドアには大きなクリスマスリースが掛けられている。ジャズバージョンのクリスマスソングが小さく流れているのが心地よい。
「おい、どれだ、白坂って」
「あの水色のセーター。さっきお前に本人が送って来た画像、ほら」
野瀬が、奪っていた大地のスマホを差し出す。
「何だ 意外と美人じゃない。あんなに嫌そうにするからどんな子かと思ったら」
後ろから肩を掴まれ耳元で囁かれる。
「なんでお前までいるんだよ」
「何か 面白そうだし」

入り口近くの通路でツリーに身を隠しながら二人が小突き合いをしている傍を、新たに入って来た客が「失礼」と声をかけて通り抜けた。植物なんて全く興味無いくせにポインセチアの鉢を眺めているふりをしていた橋村が「え?」と言ったまま固まる。橋村の見る方向を二人も見ると、その新客が 水色のセーターの前に腰を下ろした。


「痛み」が必要だったのだ。どうしても。
親戚の強い薦めで父が再婚した。自分の悲しみも癒えない内から仕事と家事と私の心のケアに父も草臥れ切っていた。仕方ない、むしろ父のためには良かったと思った。
相手の「頼子さん」は何の問題も無い良く出来た女性だ。優しくて明るくて、なにより亡くなった母のことを大事に思ってくれる。母を恋しがる私の気持ちを汲んでくれる。「お母さん」と呼ぶことも無理強いはしない。「新しい家政婦さんだと思ってくれてもいいよ」「少しずつ仲良くなろうね」そう言ってくれる。それでも反抗したり拗ねてみせたりもできたのだろう。難しい年頃だからと言っておおらかに付き合ってくれたかもしれない。でも 私にはそれもできなかった。これ以上父が悲しい顔をするが嫌だったのだ。また「母」を失うのを怖れたのだ。美味しいご飯、さっぱりと片付いた家、可愛いお弁当。アイロンの掛ったブラウス、灯りのついた家に「お帰り」の声。それでも、すんなり幸せになってはあまりに母が可愛そうだ。
だから私には「痛み」が必要だった。

*
「お父さんとか?」
「いやむしろ爺さんじゃね?」

ひそひそと言いあっているとまた携帯にメールが届く。
「今 割り込めって」 
行けとばかりに野瀬に背中を押され 依頼人のテーブルの脇に大地が飛び出る。向かいに座った予想外の相手のせいで大地が調子を崩し、もたもたしている。
「大地、何しに来たのよ」
依頼人の白坂麻友の方から芝居を始めたことはギャラリーには明らかだったのだが、当の大地はテンパってしまっているので、まともに受ける。
「何しにって、え・・・、それは そっちが…」
大地に気づかせようとしてか、麻友はわざと大きな音を立てて立ち上がった。打ち合わせはある程度しているはずだが結局打ち合わせ通りにはいかないのが常だ。
「今更 どういうこと?私になんか興味ないって言ったはずよ」
頭が真っ白になった様子の大地をどうしたものかと響子がはらはらしていると 橋村がつんのめって通路に飛び出てしまった。
「良太?」
つり目鈎鼻の特徴ある顔は、昔からちっとも変わらないのだろう、橋村の姿を認め、予定外の展開に麻友が少し慌て様子を見せた。更に誰も予想しなかったことが起きる。
図らずも飛びだしたはずの橋村が、いきなり麻友の腕を掴んで 喫茶店から引っ張って出たのだ。
「何よ、どういうこと?打ち合わせ通りにしてよっ」
高飛車な物言いの女だ。珍しく橋村が大きな声を出す。
「あ、あんな爺さん、たっ、たぶらかして…な、何やってんだよっ」
「たぶらかし…って、何よ」
「あいつが お、お前にプロポーズ?金まで払って邪魔してくれって なっ何たくらんでるんだ」
「は?何言ってるの?私が何やってるかなんか 知らないくせに。」

妙に親しげな二人のやりとりを、ぽかんとしたまま見守る大地、後から追ってきた野瀬は事情が解らないまま興味深そうに眺めている。

*
「で、何を知ってるんだ?『良太』?」
部屋に帰った大地が橋村に聞く。 今日は野瀬は自分の仕事で参加していない。そういう日は落ち着いて話ができる、と大地は思う。
「あれは、う…うちの実家の近所で有名な金持ちの 一人暮らしの爺さんだ。」
「お金持ちの爺さん、ね」
「近所って 白坂さんも?」
大地の部屋で慣れた手つきでお茶の用意をしながら響子が聞く。
「うん、俺、麻友の亡くなった母さんのことも知ってる。入院中はあいつもよく病院に通ってた、母さん 励ましに。」
「落ち込んで とぼとぼ歩いてたと思ったら 友達の慰めに急にキレて殴りかかったり。小学校の時だけど」
橋村は結構 麻友のことを心配しながらずっと見てきたようだ。意外な橋村の行動にも何となく説明がつく。
「ふうん…橋村君と白坂さん、幼馴染なんだ」

「中学生にしてあいつが自分のことを『どん底』だの『一番不幸』だの言ってたのは その辺のことか?」
「うん、別に貧乏だったとかでもない。多分今も金に困ってるってことはない、と思う。けど…」
「けど?」
「お父さんも麻友を気遣って気遣って、考えた末 再婚してさ、新しいお母さんも…いい人だったみたいだし」
「随分よく知ってるな」
「う…うちの親 仲良かったから…」
母親の絡む話に、大地も色々思うところがある。 響子の淹れたお茶をゆっくりすすり目を閉じたあと、大地は真面目な顔で言った、
「いい継母ね、それも、いいんじゃないか」
「けど…」
「まだ、『けど』かよ。歯切れの悪い」
橋村がその後口ごもる。
「大地…大地が知らなさすぎるだけだ。っていうか女子の方がよく知ってるんじゃないか…な?」
橋村が響子の方に話を向ける。自分では言いたくない、そんな風だ。

*
ぶつけた跡や噛んだ傷、時にはペンやカッターまでも自分に突き立てた。痛みを感じている「私」なら信じられる気がした。病床で泣いていた母を忘れまい、失った悲しみはそんな 簡単に癒えてはならない。そう信じた。私には「痛み」が必要だったのだ。
私に優しくするな、私に構わないでくれ。誰も。
行為はだんだんエスカレートしてゆき、3年の夏休みの間中私は自分を傷つけ続けた。


夏休み明けだった。あの子、肩とか腕に痣とか傷が複数あると、誰かが言い出した。衣替えもまだなのに長袖のブラウスや体操服を着て、先生に指摘されていたのを響子も覚ている。無口な子で、いつも一人で本を読んでいた。苛められていたという話は聞かないが、自分から距離をおいている感じだった。彼女の他人の目を気にしない自ら孤立する態度に苛立ちを感じる子もいただろう。痣や傷を指摘して声を掛けたのはそういう子だったのだと思う。彼女のことを「心配して」という形で。虐待を受けているんじゃないの、そう言えばお母さんって 本当のお母さんじゃないんだよね、大丈夫?そんな風に。
「いい加減な噂が広がって 先生もほおっておけなくなったんだと思う」
響子も噂話は嫌いだ。人の家の事情を詮索したり心配を装って聞き出しするのは違うと思っている。大地の家庭だけでなく、響子の家にもそれなりに問題があったからだ。

響子が覚えている話を少しずつし出したのは 次に会った時だ。野瀬の家で鍋をするからと大地、橋村、響子が呼ばれた。野瀬は早くも妻子持ちだ。子供は大地に懐いていて、いつも転げまわって一緒に遊んでいる。
「お母さんが呼び出された日、白坂さんが職員室で大暴れしたって。虐待なんて見当違いだ、余計なお世話だって。なだめる先生に掴みかかって…お母さんは泣くし…」
大騒ぎになったから、学校でも有名な話なのに大地が思い出さないのも意外だった。
「それからあいつ、学校来なくなった。2学期の半ばごろだったかな。来ても保健室登校だった。」
橋村はやっぱり麻友の様子をよく見ている。
「クリスマスのすぐ前くらいだったかな、今度は家が火事になって、お母さんが入院したの。そんな話も大地は全然覚えてない?」
「ちょっと待って…、その火事の話なら覚えているかも」
あまり反応のない大地に代わってそう口を挟んだのは、中学校の違う野瀬だ。

隣町でも同じ学年の女子の家が火事になったという大きなニュースなら話題に上る。中三の娘は夜中なのに外出だったという情報もあった。警察に細々と事情を聞かれはしたが原因は布団がたまたま被さったストーブだったと解った。学校でも家庭に何か問題があると親を呼び出した直後のことだったので近所や校内で、心無い憶測が広がっていた。

「成程 どん底ではあるな。大地に告白したクリスマスって その年なんだ?」
「お前は またその話に戻したがる」
大地があきれ顔で、割って入る野瀬に言う。野瀬は家族の中での苦労とか他人に知らせたくない秘密、暗い過去話なんかには全く無縁の男だ。 部屋には孫のためにと両祖父母に買ってもらったおもちゃが溢れている。鍋の湯気の温かさ 子供のはしゃぐ声 パッチワークの壁飾り、奥さんの微笑み。幸せな家庭ってこういうのだよね、と響子は思う。

*
大垣内幸助氏と道でばったり会ったのは偶然だったのだろうか。大地は思う。会って麻友のことを話すために俺を探していたのかもしれない。
大地の顔を認め、相手は一瞬で気がついたようだ。にこやかに会釈して近づいて来た。あの日麻友に「プロポーズ」するはずだった相手だと こちらもすぐに気がついた。
「少しお話できませんか?島崎大地さん、ですよね」

例の喫茶店がお気に入りのようで 誘われて大地はそこに入る。赤い布張りの椅子。長年磨かれてきた深い光沢のあるテーブル、温厚で生真面目そうなこの話し相手に、ぴったりの店だと思う。
「ここで彼女と知り合いました」
背筋を伸ばしたまま相手は大地に言った。
「若い人の来ないこんな店に 初めはふらりと入って来た感じでした。それからたびたび来るようになって 会釈するようになりました」
事情は全く知らされていなかった。あの日も結局 その場に乱入して麻友を橋村が連れて出ただけで 何をしたということもない。怒って帰って行った麻友だったがその後、黙って振り込まれた約束の額を見ると 仕事は結果オーライだったのだと思っていた。

「私とのお付き合いを終わりにするために 頼まれたんでしょう?」
「はあ…」
「いいんです。何をお話し頂いても。今後彼女が困るようなことは致しませんから」
そう言われても 何も話す内容が無い。
「彼女は優しい女性です」
「はあ…」
「彼女が私と一緒にいてくれるのが嫌でなければこのままお友達でいたいと思います。初めはお金目当てだったとしてもかまわない、お金が必要だと言われたら全財産でも渡すつもりでした。もちろん結婚なんて形が、Noならそれでもいいんです」
「結婚…詐欺とか?」
相手の顔を大地が驚いて見る。変わらず穏やかな笑みを浮かべている。
「と、周囲は皆…嫁いだ娘も妹も言いました。騙されているに決まっている。恥ずかしいことですが勝手に彼女のことを調べたりもしたようです。」
「何か解ったんですか?」
「以前にお付き合いを した男性たちも幾人か解りました。確かにそこそこ裕福な感じの方が続いていたように思います。」
「何か被害に合ったとか?」
「いえ、それがね、何もないんです。ただ、少し付き合っては 彼女から別れを切り出しています」
「あなたも、疑ったんですか?」
「若い女性ですからね。こちらがいくら好意をもったとしても まさか同じように想ってもらえているわけはないとは思いました。ただ会って話すうち、本当に彼女が欲しいものはお金ではないはずだ、と思うようになりました。だからこそ…」
「最初の目的が詐欺でも かまわない、と?」
「ええ。どちらにせよ、彼女には人を騙すことが出来ないんだと思います。」
「なるほどね。」
「彼女とは沢山の話をしました。実はあなたの名前も聞いたことがあったんです。彼女は僕に君の名前まで話したこと 忘れていたようです」
「俺の名前って?」

*
草野球チームのメンバーが沢山来ていてたまたま込み合ったその喫茶店でカウンター席に並んだことがきっかけで 話す間柄になったのだ、と大垣内氏は穏やかに微笑みながら話す。幸せな記憶なのだろう。
「珍しく騒がしいですね、今日は」「すみませんね、こんなおじいさんと隣席で」「こちらには良く来られているようですが お近くなのですか、お仕事とか、ご自宅とか」
そんな何でもない言葉かけが初めだったという。麻友は始終にこやかで、そして、話しかけられることが嬉しそうに見えた。その日は僅かばかりの取りとめない話で終わったが 次に会った日は親しみを込めた会釈を、その次は天候の挨拶から始まる軽い会話を そしてその次は、というように時間を掛けて とても自然な流れで同席して話をする仲になった。体調を崩した時心配してくれた、喉に良いからと手作りの「はちみつ大根」を作ってきてくれた。電話番号もメールアドレスも聞かなかったけれど、喫茶店に行く日がすれ違って何日も顔を見なかった時、話で聞いていたからと家を探して訪ねて来てくれた。若くして亡くなった妻の墓参りから帰って来た日だった。
「奥さん亡くなってから 娘さんをおひとりで育てられたんですか?」
結婚した娘がいることは彼女も知っていた。その時彼女が早くに母親を亡くしたこと、父親が再婚したことを聞いた。「自分自身のせいで不幸だった」 ということも。

*

「お母さんに悪いことをした、ってずっと自分を責めてたんだと」
「呼び出された時のこと?」
「虐待なんかじゃない、あるわけないのにって」
じゃあ、何だったんだろう、その問いは誰も口にしなかった。おそらく皆の考えていることは同じだったろう。 大垣内氏はそれも聞いたのかもしれない。

「で、彼女の本当に欲しいものって、遺産とかじゃないんだろ?」
野瀬が話題を変える。
「愛と安定とかそれこそ、「幸せ」? そういうことなのかな。それを解ってて 手を差し延べようとした大垣内氏との関係を 何で白坂は大地を使ってまでぶち壊そうとしたんだ?」
響子と大地も答えを出しかねて考え込む。
「あついは…麻友…えっと…白坂は…」
橋村がおずおずと話に入ってきた。幼い頃名前で呼びあって一緒に遊んだ時期もあったようだ。
「お…俺、最初はあいつがあの人騙して何かするつもりだと思ったんだ。大地も巻きこんで。でも、やっぱ違う。そんなことできる奴じゃない…と思う。あの人の…気持ちをちゃんと考えたら上手く断れなくなっただけだと思うんだ」
珍しく橋村が雄弁だ。
「小さい時からあいつ、上手く自分の気持ちを言えないとこ あった。お…俺が言うのも変だけど。」
「まあ それもそうだな」「うん、言えてる」
折角の橋村の意見に 男二人の返事はあんまりだ、響子は橋村を気の毒に思う。どうもしてここに集まる人は同じような性格なんだろう、野瀬は別として。

「それがさ…俺のしたことが決定的な痛手だったと思うって、あの爺さん、言うんだ。」
大地が珍しく真顔で言う。付き合いを断ったのは確かだと思うものの こんな時が経ってから責任を感じるような酷いことをしたのだろうか。野瀬にも橋村にも想像もつかない。女性なら解るのだろうか、と二人して響子を見る。
「確かにあの頃の大地って突っ張ってて 酷い女嫌いだったけど」
響子が思い出しながら言う。小学校から大地を見ていたからその変化と理由はよく知っていた。
「そんなに?」
「女の子にも女の先生にも 絶対に近づくなって感じだった。汚いもの見るみたいに目を逸らしたり 睨んだり…」
「響子ちゃんにも?」
「私には?…どうだったっけ。」
いつまでそんな目をしているんだろうと、大地の横顔を見守ってきた。自分にも向けられていたかというとよく解らない。もしかして 自分は女子の範疇にも居なかったのかもしれない。響子も少し不安になる。


島崎大地は女が嫌いだ。いつも癒えない怒りを抱えている。

まだ「友達」と噂話なんかをしていた中学に入りたての頃 島崎大地と同じ小学校から来た子からそのことについて聞いたことがある。母親が、夫と幼い息子より 他の男を選んで家を出て行ったという。あいつが女嫌いになるには十分な理由だと思った。残念なことに全く同じクラスにはならず、近づくきっかけは何もない。気づかれずに観察するのには好都合でもあった。拗ねた表情の島崎大地、女子に向けるぎらりと冷たい目。いっそ母が勝手に私を置いて出て行ったのならあんな風になれたのに、父が私のために再婚なんてしなければ、頼子さんが酷い継母だったら…とりとめもない想像をした。私の中の島崎大地は私を嗤い、責め、意地悪を言って困らせ、そして慰め 励ましてくれた。現実では何の接点もないまま 島崎大地は私の心の中で勝手に大事な存在になっていった。

自分を痛めつけ、そのことで頼子さんを泣かせた。こんなこともう止めようと 何度も夜中に家をこっそり抜け出して気を紛らした。でも、今度は戻ったら家が燃えていたのだ。私が家に居ると思っていた頼子さんは 家中、私を探し、煙にやられて救急搬送されたと後で知った。病院で眠る頼子さんに、ごめんなさいと、それでもまだ上手く言えなくて そんな自分に絶望した。



「何かこのままじゃ もやもやするっ」
大地が言いだして 結局 白坂麻友を呼び出すことにした。
「一体 俺が何したっつーの」

大地の部屋に 同級生だの幼馴染だの狭い世界の面子が顔を突き合わせている。白坂麻友は固い表情のまま膝を崩さず座っている。話し出しにくい空気が漂う。
「白坂さん、私 一度あなたに救われたことがある。」
麻友の前に湯気の立つコーヒーカップをことりと置くと、響子が意外なことを口にした。きょとんとする麻友に向かって 響子は続ける。
「何だったかな、委員会で一緒だったの。発言しなくちゃいけない場面で ぐずぐずしている私に あなたが言ってくれた。『自信もちなよ、あなたの声 凄くいいと思う』って」

低い可愛くない声がコンプレックスだった。大地が「癒しのハスキーボイス」と言って高校の放送部を薦めてくれるよりずっと以前に 褒めてくれたのがあなただったのだ、と響子が言った。
「そんなこと言った…かな…」
照れているのか 本当に忘れていたのか、それでも麻友の頬が少ゆるむ。
「ねえ、大地が失礼なこと言ったのなら きちんと思い出させて謝らせた方がいいよ、こいつの物忘れはもっと酷いから」
野瀬が言う。何だかんだ言ってほぼ野瀬の仕事のオフの日ばかりに集合している。こいつも案外寂しがり屋なのかもしれない、と大地は思っている。

「あの頃 色んなことがあって」
俯いたまま麻友が話し出す。
「勝手に島崎君を心の支えにしていた。どうしようもない事に怒ってて…生きるのが辛そうな姿にどこか通じる気がしてた。勝手に想像の中の島崎君に相談して、勝手に慰められたり慰めたりしてた。」
言ってから自分で相当恥ずかしかったのか、麻友は顔を真っ赤にして俯きながら言う。
「情けない、イタい女だと思うでしょ、嗤っていいのよ、むしろ…嗤って…下さい…っていうか」
誰も嗤わなかった。
「それで 大地にクリスマスの告白?」
うわ、野瀬君 このタイミングで、それも何てストレートな…焦る橋村と響子。
「『嫌い』だって言われてすっきりしようと思った。妄想の中の島崎君じゃなく、本物の島崎君にきっぱり言われよう、私も自分自身がつくづく嫌になっていたから」
「でも『嫌い』なんて…言わなかったよな?俺」
俯いていた麻友が 弾かれたように顔を上げ、キッと大地を見据えて語気を荒げる。
「そんなこと、全然言わなかったわよっ」
さっきの気弱な感じの麻友はどこにいったんだ。皆 会話の先が見えなくて黙る。
「『お前、誰』って」
学校で色々皆が自分のことを言ってる、悪い噂とか聞いているでしょ、酷く嫌ってる人もいるはずだ。と焦った麻友がネガティブな自己紹介をたたみかけると
「『好きかとか嫌いかとか言われても困る。そもそもお前に全く興味が無い』って。あの時そう言った。そのくせ 『悪いな、じゃあな』って見たこともないような優しい笑顔を見せた」
「意味不明だな」
「そうよ、意味不明だったのよっ」



商店街のクリスマスの飾り付けの仕事の後、宣伝とイベントの企画を考える。クリスマスまでもう一カ月を切っているというのに 暢気な商店街だ。差し出された昔ながらのキラキラのモールや原色のカラフルな電飾を笑顔で拒否して シンプルでシックな飾り付けが出来た。針金で作った大きなツリーはなかなか良い出来だと大地も満足顔だ。
「クリスマスパレードっての考えたんだけど。ディズニーランドみたいなの。ここ長さだけはあるし。」
野瀬がまた思いついたままを言う。
「えらく壮大な計画だな、どうやってそんなことするんだ。ところで俺らって誰と誰?」
「そりゃ、大地と、愉快な仲間たち、でしょ。賑やかにやりたいから商店街の人だけじゃなく、依頼で知り合った爺さん婆さんとか、白坂麻友ちゃんも誘って、ねぇ良太くん」
名前で呼ばれた橋村が 思い切り嫌な顔をする。
「良太くんって顔じゃねぇなぁ」
大地も笑う。
「麻友ちゃんを誘う時は『僕らは君に思いっきり興味があるから』って言ってあげるんだよ」
「何で そんな…」
「だって このところ 集まれば彼女の話ばかりしてたじゃない」
「まあ そう言えばそうだが」
麻友は来るだろうか。これからは妄想じゃなく「「本物の大地」が麻友の支えになるんだろうか…でも…橋村がちょっと不安げに、ツリーを見上げる響子の笑顔を窺った。

軽トラや自転車それに台車、お年寄りの手押し車を飾り立てて練り歩こう。道行く人も仮装して。サンタだらけになっても構わないし この際ゾンビもアニメキャラもコスプレもOK。ごちゃごちゃで 目が回るほど派手で笑えるのがいいと大地が言う。地域の人だけじゃない、もっと広く皆来るように呼びかけよう、草野球チームも老人会のサンバチームもストリートダンサーもカラオケ好きのおばちゃんも。麻友の母さんも父さんも大垣内さんも。
「大地のお母さんもね」
響子が付け加える。
隣町に一人で住む母親と大地は、再会してから少しずつ会う時間が増えていることは皆が知っている。
「うん、そうだな」
大地も珍しく素直に肯いた。

こうなったら盛大で格好いいイベントにしよう。大地は思う。
昨日まで泣いていた人が明日から思い切り笑えるような。昨日まで不幸だった人が明日から「神様みたいに」幸せになるような。

Merry Xmas.

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天使が降りる場所 Pandora(パンドーラ)3


何だか色々リアルで大変でして。こういう時だからこそ何を書こうか考えている時と書きすすめている時の幸せな感じが有難かったです。後日譚とか、謎解き的な部分が必要かなと迷いましたが 今回はこんな感じにさせてもらいます。




睡眠不足で脳の処理速度が著しく落ちている。橋村は大地からのメールの指示の内容をぼんやり見つめたまま深いため息をついた。もうすぐ指定の場所につく。

高岡響子に横で朗読させるといい感じで眠気が訪れてそのまま朝までぐっすり眠れ、すっきりと起きることができると島崎大地は言うけれど、とんでもない、彼は全然眠ることができない。あんまりいつまでも起きていると響子が迷惑すると思い、橋村は身体を硬くしてずっと眠ったふりをしている。そのうち響子の声は途切れがちになり、「大地、もう寝たよね」なんてとぼけた声掛けをして その後は彼女もスコンと眠ってしまっている。そうなったら大地だけでなく響子もまた朝まで全く起きる様子は無く、鼻をつまんでも多少足蹴にしても起きそうにない。羨ましいことだ。

ソファに眠る響子を起さないように橋村はそっと横を通り水を飲みに行く。よくこんな男二人の部屋で眠れるよなぁ、と、無防備なその寝顔を見ていると一瞬 覆いかぶさって唇をうばう…というありえない妄想が脳裏に浮かんだ。それからなのだ。響子がいなくても眠れない、だけどいてもますます眠れない。困ったことになった。

ぼつぼつ依頼が来出した大地の「人材派遣の仕事」は 犬の散歩やえさやり、年寄りの病院の付き添いや送迎、引きこもり男のドア越しの話し相手、買い物代行、披露宴の頭数合わせといったところだ。そこそこヒマそうな知り合いを幾人かスタッフに確保してはいると聞いたものの、大地以外がやっているのを見たことがない。スケジュールが被ったとかで、橋村に回ってきたのは今のところ溝掃除と燃える粗大ゴミに出す家具の解体だけだ。響子は大地の幼馴染で「愚痴聞き電話サービス」の仕事をしているがお互い困った時は利用、いや、頼りにできる存在のようだ。恋愛感情については、疎い橋村にはよく解らない。

眠れないなら一緒にいなければいいと思われるかも知れない。もちろん橋村にも少し前までは一人で住まう部屋だってあった。が、大家がボロアパートをついにマンションに建て替えるので立ち退かされたのだ。家賃を滞納し、立ち退きを渋って粘り倒した彼に 最終の選択権は無かった。そんなタイミングで 年末以来会ってない大地が いきなりバイトの話を持ってやって来た。橋村だってその時は一瞬「幸運」だと思ったのだ。引っ越し先も決まらないまま、僅かな「ゴミ以外のもの」を段ボールに仕分ける作業をしていたところだった。
「あれぇ、パッシーお片づけしてる。え?引っ越し?どこ行くの?」
大地の興味本位丸出しの立て続けの質問に しぶしぶ答えていく内に「バイト」を引き受ける条件で、大地の部屋に当分居候することになったのだった。


今回の仕事の内容について聞いた時 橋村は愕然とした。世の中やっぱり甘い話ばかりじゃ無い。にしても一体コイツの頭ん中はどうなってるんだ。
「じょ…女性と会うって?そっ、そんなの俺に出来る仕事内容じゃないことくらい…おっ、お前にも解ってるはず…」
焦ると癖でしゃっくりが出る、短い言葉だって声に出すのは必至の努力が要る。解っているくせに大地はにやにや笑うだけだ。
「駅前の噴水の前で『彼女』が待ってるから。目印は詩集と白い帽子だそうだ。傍に行って声を掛ければ後は、まあ、お任せだそうだ」
「シシュー」と言われてもすぐに意味が解らない。白い帽子ってどんな?「彼女」「彼女」という言葉が橋村の頭の中でひらひら舞う。実はこの歳まで女と付き合ったことも無い。つり目鉤鼻のこの顔が怖いと、好きだった女の子に言われたガキの頃から こっちから女子なんて関わるのはごめんだと避けてきた。純真だった橋村の心は随分傷ついたものだ。
「パッシー君、これは君にぴったりの仕事だ。ぜひともがんばってくれたまえ」
「い・・意味わかんねぇ」

色々な理由を付け続け、ろくな服も持っていないと言ったら翌日、響子が大地に頼まれたと言って訪ねて来て 橋村は買い物に連れだされた。
「橋村君、引き受けたんだ、その仕事」
中学の頃しか知らないが この子は昔はもっとおどおどした感じの女の子だった気がする。友達になることもおろか二人で買い物なんてあの頃からは想像もつかない。響子もまた、何だか落ち着かない様子できょろきょろしたり、何にもないところで躓きかけたりする。人付きあいが下手で、不器用で、損な役割を押しつけられてはいつも困っているような彼女に対し、密かにどこか近いものを感じていたのを思い出した。
響子がその仕事について何か知っているのかと思ったが、橋村が大地から貰った情報以上のものは全く出てこない。案外大地も口が堅いのかもしれない。そう思うとそれ以上話題にすることもできず、黙々と買い物を済ませてその日は終わった。考えてみればこれも予行演習的な意味合いだったのかもしれない。「女性と会う」なんてやっぱ無理だ、その確認ができただけだった。胃がしくしくと痛む。

翌日、橋村は響子に選んで貰った柔らかな素材のブルーのジャケット、VネックのTシャツに 履きなれない細い綿のパンツで待ち合わせ場所に向かった。服装のせいか他人の視線が違うように感じる。真面目な職に就いた結構感じの良い人に見えていそうな気がする。いやいや、そんなに人の印象なんて変わるもんじゃない。ふんっ、わざといつものようにポケットに手を突っ込み下から睨みつけるような眼をして周りを見渡した。どちらにせよ貧相な体格の自分じゃ、たいした迫力もないことは残念ながら知っている。噴水の前、白い帽子の女性が俯きがちに立っている。つばの大きい帽子で顔は見えない。小柄で華奢なひとだ。大きく息を吸い、橋村は一歩踏み出した。


先に、依頼内容メモとして橋村に送られてきた大地からのメールは何度も何度も繰り返し読んだ。
「会うのは「イシノ」という既婚者の女性だ。結婚前に幾度となく手紙をくれた男に会うことにしたというので、その場に行って一緒にいてやって欲しい」という、かなり漠然としたものだった。
「何だか その相手が毎日ずっと待ち続けているらしい」。
面倒そうだ。その上どう考えても俺向きじゃない。お願いだから他の仕事と交代して欲しい。手元のメールの画面を開けたまま 大地に詰め寄った。
「俺は別の仕事が入ってて無理。パッシーなら出来る、絶対出来る仕事だから」
鼻歌まじりでカップ麺にお湯を注ぎながら大地は言う。フタをした容器に大地が載せた箸を、橋村は素早く取りあげた。
「どうして『俺なら出来る』かちゃんと説明しろ。3分経っても内容が解らなきゃ食わせない」
「えーっ、やだ、絶対嫌だ。麺が延びる」
橋村から箸を奪い返し大地ぶしぶ話を続けた。
「依頼はメールで来たので今のところ文面以上の情報は無い。結果がどうなっても報酬は定額で振りこんでくれるそうだ」
「何だそれ。一体誰からの依頼なんだよ、結果がどうなっても、ってどういうことだ?」
何だか嫌な予感がする。
「その男に会ったらややこしくなる?…そいつが来続けてるってのは確かなのか?ストーカー的な危ないヤツってこと?」
「そこはだな…。まあ、とりあえず行って、彼女に合わせて流れで相手をしてくれとのことだ」
「手紙の男ってのはどういうヤツなんだ?」
その場に立ち会うのだから、橋村もある程度事情を知っていないといけないわけだ。けれどそういう点をクリアしたところで、状況に合わせた気のきいた対応や、必要に応じた演技の出来る人間じゃないことくらい大地だって十分知っているはずだ。喧嘩だって強いとは言えない。何で俺が、またそこに疑問がぶり返す。「とりあえず」とか「相手をする」と言われてもどうしたらいいのか皆目解らない。
「そんなの、放置しときゃいい話じゃねぇの?」
既婚者のくせにそんな男と会ってどうするんだ?待たせた上にわざわざ断りに行くというなら迷惑な話だ。遊びで近づこうってのならもっと酷い話だ。
「うーん、そうなんだけどなぁ」
大地の反応がやたらまどろっこしい。


「で、結局は仕事は上手くいったの?どんな相手だった?美人?」
以前も大地について橋村のところにやって来た野瀬という男が身を乗り出して聞く。いまどきは「個人情報」だの何だのが煩いらしいのに、こんな人の沢山いるファミレスでついさっき終えたところの仕事内容を聞くなんて軽い男だ。人当たりが良さそうで世渡りも上手くやってきたって感じが鼻につく。機嫌が悪かったら喧嘩をふっかけたくなるタイプだ。大地は別の仕事を済ましてから来るとかでまだ居ない。橋村が助けを呼ぶように横に座った響子を見ると、事の成り行きを心配する母親のような目でこちらを見ている。かなりイラついたが気持ちを静めて答える。野瀬になんか最低限の情報しか与えるものかと意地にもなる。
「美人、だった、と思う。」
「何それ、はっきりしない言い方。で、何歳くらいのひと?」
「…思ったより年上…だった」
「ふうん、それで?」
「会えて嬉しかった…って」
「ありゃ、いい雰囲気になったわけだ」
「そんなんじゃない」
橋村はぼそりと呟いた。
「もともとあの人は、そんなつもりで会いにいったんじゃなかったんだ」
「そうだったの…。じゃあ、ちゃんと引きさがったんだ、その相手のひと」

ひと波乱なかったことを知り野瀬は明らか残念そうな顔をする。ひと波乱なんてあるわけがない。
引きさがるも何も、その『相手』、っていうのが俺だってことになって…
橋村は本来の口下手に加え 入り組んだ状況を上手く説明しきれないもどかしさに頭を抱える。



緊張で大汗をかいた橋村がおずおずと近づき、声を掛けようとしたのとほぼ同時に、その「彼女」の身体がくらりと揺れた。倒れる、橋村は慌てて手を伸ばした。間に合ってその手で支えられたのはいいが、橋村は焦ると出る例の癖、しゃっくりが止まらない。「大丈夫ですか」の言葉も上手く言えないまま、相手を支えたままゆっくり噴水の脇に座らせた。
「助けて頂いてありがとうございます。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
消え入りそうな声で相手は傍に立つ橋村を見上げた。


こういうことをどうしてあいつは先に言わないのだ、橋村は彼女の細い腕を取りながら心で舌打ちをする。イシノという「彼女」は思ったより、というより想像の倍以上のお歳のように見える。名字だと思っていたが、名前が「イシノさん」なのかもしれない。母が仕事で忙しく、橋村はいわゆる「婆ちゃんっ子」だったから年寄りが苦手ということは無い。むしろ若い女性より得意と言ったほうが正しいかもしれない。だけど、だ。
「すみません、あなたがあの…」
はっとしたような表情をした後、その「老婦人」は橋村の顔をじっと見つめた。意外なほど強い瞳に見上げられ、咄嗟に「立会を依頼されて派遣された者ですが」という答えさえ出ない。どういう関係として「立ち会う」のかと聞くと、大地は「相手に合わせて適当に」と言った。依頼人がそうメールに書いてきたそうだ。なんといい加減な、と橋村は思う。どう答えたらいいのか解らない。年齢には不似合いかもしれないが、白いつば広の帽子と大きなフリルのついたブラウス、花柄のふわっと広がったスカートが何となく彼女の雰囲気に合っているともいえる。恥じらうような仕草は、可愛いと言ってもいいかもしれない。だがその後続けて老婦人が発した言葉は意外なものだった。
「貴方が…あのお手紙を下さった方なんですね。」
「あ?えええっ?」
整理しきれない。頭がパンクしそうだった。もともと寝不足でぼおっとしていた上にこの状況だ。
「ごめんなさい、何度もお手紙頂いたのにお返事もせず…本当に待って下さっていた…申し訳ありませんでした」

深ぶかと頭を下げる彼女に何か適当な返事をしなくてはいけないと思うものの、橋村は全く言葉が見つからない。続けて相手が何か言いかけた途端、嫌な汗がこめかみを流れ、くらくらと今度は橋村の方が倒れそうになった。
「大丈夫ですか?ひどい汗」
背の低い橋村よりもっと小柄な彼女が、うんと背伸びして レースのついた白いハンカチで橋村の首筋を流れる汗を拭う。固まった橋村の様子に気が付くと 慌ててその手を引っ込めた。
「すっ、すみません。私ったら…」

*
「なるほど、ってことはちょっとボケちゃった可愛らしいおばあちゃんってことね。キミが大昔彼女に恋文を書いた相手なわけ。『逢瀬の立会い』じゃなく。」
野瀬が乗り出していた身体を戻し、椅子の背もたれに倒して伸びをする。橋村が古風な恋愛話に巻き込まれたことを楽しんでいる感じがなんともムカつく。
「ただの人違い、早とちりってこともあるけど?」
「響子ちゃん、だったら本物も現れるはずだったとか?いったい何歳の『手紙のきみ』だっていうの?」
「それは…」
決めつけるには早いんじゃ…と響子は言いかけ言い淀む。確かにそうだ。
「だから『結果に関係なく』で『とりあえず』で『相手に合わせて適当に』なんだ」
野瀬は自分の推理につじつまが合うのを確認すると実に満足そうに続けて言った。
「そうなんでしょ?橋村くん」

*
確かにただの人違いだとも思えなかった。混乱した橋村にも、この老婦人が結婚するより前という頃に恋文を送ってきた男が、未だにここで待っているとは思えない。その上会ったことがないとしても 想いを寄せられた相手が橋村だとは普通思わないはずだ。年齢が合わなさすぎる。実際、毎日こんなところに俺は来てないし。
だがこの事態をどのように切り抜けるべきなのかさっぱり解らない。大地にハメられた、くっそ、あいつただじゃおかねぇ。心の中で毒づきながら 無理やり微笑みらしいものを作って 心配顔で差し出されるレースのハンカチを受け取った。

携帯の着信音。大地からだ。
「すみません、ちょっと…」
今猛烈に恨んだ相手だが 今一番声を聞きたい相手でもある。「ちょっとだけ、すみません」と老婦人にもう一度会釈して、少し離れたところで電話に出た。
「おいっ、どうなってんだ?これからどうすんだ?ってか、お前今どこだ?」
大地がどこか近くで様子を見ているらしい、ということが解り、更に頭に血が上る。間延びした声で「まあ 落ち付けったら」と言われてもムカつくだけだ。
「そのまま、彼女の好きなようにしてくれ。事情はまた後で話す」
「すっ、好きなようにって」
「大丈夫だって、お前にならできる」
しゃっくりが出て上手くしゃべれない。忌々しい自分の癖にも腹が立つ。
「彼女は親の決めた婚約者と結婚して幸せな人生を送っていたことは解っているんだ。その『未来』を頭に入れておけ グッドラック」
橋村の言葉にならない叫びもむなしく通話が切れた。
脱力して振り向くと少し不安そうに微笑む彼女が目に入った。か弱そうで儚げでひとりにしておくとまた倒れそうでほおってはおけない。年寄りだから、という以上のものを感じる自分を自分でも妙だと思う。
ええい、どうにでもなれ、そんな気持ちで彼女のもとへ戻る。彼女には「婚約者と幸せな人生を送る『未来』がある」、大地の言葉を頭で繰り返した。

近づくと彼女は目に涙をためている。小さく震える彼女の姿にドキっとした、胸が痛む。
「何度となくあなたがここにいらっしゃるのを見かけておりました」
「お待たせし続けてしまって申し訳なく思っております。もっと早く来てお話をするべきでした」
相変わらずしゃっくりが止まらない橋村をそのままに 彼女は途切れ途切れに語り出した。きっとずっと考えて考えてきたのだろう。真摯なまなざしに圧倒される。いったい何歳の設定なのかよく解らない。そんな橋村の困惑をよそに、老婦人は一人で話を続けた。

「お手紙を頂いたこと、有難うございます。嫁入り前の娘がどなたか解らない男の方とお会いするなんてと思い、そのままにしてしまいました。いいえ、ただ私に勇気がなかっただけなんです。」
無様なしゃっくりを繰り返し、はぁともへぇともつかない相槌をつく。
「その後 親の薦めるままお見合いで結婚し、穏やかで幸せな暮らしをしております。ただ…」
「た、ただ?」
「数年経って実家に置き忘れていたあのお手紙の束を兄に見つけられ、貴方が兄のお友達のおひとりだったと知りました。」
老婦人の瞳に深い悲しみの色が浮かび みるみる涙が溢れる。橋村は熱に浮かされたような気分のまま彼女から目が離せない。この人は誰と喋っているのだろう、この人の言葉を今、本当に聞いているのは俺ではなく他の「誰か」なのではないか、そんな気がした。寝不足のせいだけじゃ きっと、ない。
「戦地でお亡くなりになったのですね。私、何にも知らなくて」
そのまま泣き崩れる彼女の前で橋村はただ呆然としていた。俺は戦争で死んだのだ。死んだのだ。知っていたことのように何故か妙に納得がいく。そしてそんな自分を変だと思う自分もやはり居る。そんな奇妙な感覚の中、今まで感じたことのないような穏やかな優しいものが自分の中に満ちていくのを感じた。目の前のこの人がとてもとても大切で愛おしい。悲しくて寂しくてやりきれなくて、でも幸せだ。

「そうですか、結婚されて お幸せなんですね」
無意識に震える手が彼女に向けて差し延べられ、老婦人の痩せた両の手を握る。
「貴女がお幸せならそれで良いのです。今日はわざわざ来て下さって有難うございます。私もとても幸せです。」
使い慣れない丁寧な言葉がするすると橋村の口から零れた。


*

「結局、誰の依頼で、どういう『事情』だったんだ?」
大地は結局あの後も電話を寄こさず、今もまだ やって来ない。お礼と感謝の言葉を言い交わした後、彼女は立ち去った。すぐ近くの停留所からバスに乗るから送らなくても大丈夫だと言う。無事に帰れるのか一抹の不安も覚えたが 酷い疲労感の襲われてくらりとした後、気が付くともうバスは彼女を乗せて発車した後だった。遠ざかるバスにはここら辺りでも結構有名な、独居老人向高級介護施設のネームが入っていた。

仕事があるからと、先に響子が去ると 野瀬がおもむろに切り出した。
「大地と彼女は相変わらず?」
どういうのが「相変わらず」なのか解らないが、猛烈な眠気に襲われて 寝不足の原因を口走ってしまう。もちろんが自分が響子を襲いそうになる「妄想」だけは、かろうじて言わずに留めた。
「ストイックなとこあるからねぇ、あいつ。今度の依頼だってきっと既婚者の恋愛絡みの話だと思ったから やりたくなかったんだと思うよ」
母親が不倫の末 まだ小学生だった大地を置いて家を出た話は聞いたことがある。野瀬が感じたことも見当違いではないだろう、橋村は思う。
─響子ちゃんも、このままだと男女のこととか何にも無しでさ、気づいたら大地の子供産んでたりしてそうじゃない?、きっと彼女はマリア様なんだよな、大地のさ。
閉じそうな瞼をなんとかやっと持ち上げると へらへらと笑う野瀬の間延びした顔が見えた。もういい、目を閉じる。

馬鹿じゃねーの、こいつ。何にも無しで子供ができるなんてそんなことあるわけない。橋村はそう思いながら 今日自分に降りかかった「あるわけない」ことをぼんやりと思いだしていた。
店のBGMや女子高生のけたたましい笑い声や携帯のゲーム音までも、優しく天から降りてくる天使の子守唄のように橋村を眠りに誘う。

Sanctus (サンクトゥス)   Pandora(パンドーラ)2

第55回 Mistery Circle バトルロイヤルルール 参加作品



●ルルルルル、と受話器が鳴った。  を始めとし、

《 挿入文 》いくつかのお題の中からこれをチョイスしました。
●"いかにも”探偵っぽい探偵を出して欲しいところだった。

●……いや悲しくなってきたのでこれ以上考えるのはやめておこう。を終わりに使うこと





ルルルルルと電話が鳴った。響子は手を伸ばし反射的に 枕元の携帯を探す。探り当てることができず仕方なく目を開けようとするが瞼が重い。ああ昨日飲みすぎたんだっけ。ぼんやりと記憶を手繰っている間に「はい、もしもし」と電話に応答する可愛らしい子供の声が耳に入る。
状況が全く呑み込めずやっとのことで目を開けるとそこは自分の部屋では無い。いかにも子供の描いた絵、子供とその両親と思われる幾つもの写真が飾られた壁が視界に入る。子供…子供って?写真…あれはいったい誰と誰?全く整理のつかない頭に 電話の相手に今日の出来事を告げているらしい楽しげな声が聞こえてくる。
「そう、ママの友だちのおねえさんが来てる。朝になっても昼になっても そこで寝てる。よっ・ぱ・ら・い。」
面白くて仕方がない、という感じでくっくと笑う。ああ、その『よっぱらい』だ。なるほどそれって あたしのことだ。だんだん覚醒してくる自覚はあるものの 身体の重みとこめかみの鈍い痛み 光がまぶしい。

「響子ちゃん 起きたの?はい、お水 どうぞ」
首を横に向けるとすぐ傍にテーブルが見えた。その上にそっと水の入ったカップを置く細くてきれいな指。その指で思いだす。ああ、「葉月さん」だ。
「何だかまだ頭、ぼんやりしてて…すみません、よく覚えてない、かも」
起き上がった響子は ここが神崎葉月の家だということを やっとのことで理解した。
「じゃあね、また電話してよ、絶対だからね、約束!」
声の主は、昨日初めて会った葉月さんの息子の昴だ。2年生って言ったっけ。…だんだん記憶が鮮明になってきた。

電話の余韻を楽しんでいるように、笑顔の昴は飛び跳ねながら響子と葉月の傍に来る。
「なんか嬉しい電話みたいね」
いつまでも『よっぱらい』では示しが付かないと 響子は背筋を伸ばして水を飲み、落ち着いた大人の声で少年に話しかけてみる。
「うん。父ちゃんから」
「父ちゃん」に力を込め 昴は胸を張ってみせた。

響子が神崎葉月と知り合ったのは、つい先日のことだ。妙な縁で始めてからもう1年経った「有料愚痴聞き電話サービス 『ほっこりたいむ』」の仕事の新しいスタッフとして紹介されたのだ。日中はフルタイムで働いているので 自宅に専用電話を引いて子供が寝た後、仕事をするという。紹介者は もちろんいつもの市役所職員であり陰のスタッフ野瀬君だ。
「こちら神崎さん、僕のヨメの高校の先輩。以前お会いした時からずっといい声だと思ってたんだ。深くて心に沁みる。素晴らしい」
こういう褒め言葉を恥ずかしげもなくさらさら言うのが野瀬君だなぁと思いながら 響子は葉月に会釈した。化粧は薄く、一つに束ねたロングヘア、飾り気のないしっかりした感じの人だ。野瀬君の奥さんの出身校は地元では有名なお嬢様学校だと聞いている。時折見かける華やかな雰囲気の生徒たちとはちょっと印象が違う。
「よろしくお願いします」
よく響く芯の強そうな声、相手に寄り添いしっかり支えてくれそうな、そんな声。野瀬君の褒めるのも解る。それほど年上でもないけれどしっかり「お母さん」の風格のようなものも備えている。
昨日は確か、簡単な仕事の説明をして「続きはうちで」と招かれるまま、夕食をごちそうになって 幾分お酒も飲んだ。
日頃聞かされる他言できない他人(ひと)の愚痴を 仕事の内容の例としてでも誰かに話せるのは有難かった。守秘義務というのは結構ストレスなのだ。吐き出し口が無い。何だか響子ばかりが一人でしゃべっていたような気がする。そして、気が付いたらここで寝ていた、という訳だ。
「お父さん 昴君に電話してくれるんだね」
「うん 約束なんだ、男同士のや・く・そ・く」


「『父ちゃん』って言ったんだよね」
「うん それが何か?」
「いや…どういうことだろうと思って」
酔っぱらって葉月さんの家にいた話を、朝掛って来た電話のところまですると、野瀬君は酷く困惑した顔で響子を見た。
「どういうって?お父さん、単身赴任とかそういうのじゃないの?私はてっきり」
「いや…」
言い淀んだまま 野瀬君は市役所の食堂の薄いコーヒーを飲みほした。空になったカップをそのまま持っている。
「葉月さんのご主人、今年の春に亡くなってるんだ。仕事中事故に遭って、その後ずっと調子が悪くてさ」
言いづらそうに野瀬君が言う。意味がつかめないまま響子は野瀬君の顔を見る。昴の「父ちゃん」と呼ぶ楽しそうな声はまだ響子の耳に残っている。
「今は『父ちゃん』って呼ぶ 他の誰かがいるとか、そういうことなのかなぁ…」
それも違う気がする。
「だって、昴くん、その後、壁の写真の『父ちゃん』を私に紹介してくれたんだよ。赤ちゃんの時から写真に写っているのって、葉月さんとその人だけだった」
どれも温かで強い絆を感じる写真だった。昴の「父ちゃん」はあの人だけに違いない、あの子が別の人をもう「父ちゃん」って呼ぶのは違う気がする。
「葉月さんは その電話 どうって?」
「電話の間、私まだうとうとしてたからなぁ…。でも電話の話や「父ちゃん」の話を私が昴くんとしている間 にこにこ笑ってた」
「うーん、どういうことだろう」
野瀬君は空のカップを口に運び、同じフレーズを繰り返した。


「父ちゃんは透明だから 声も透明なんだって そういうの」
「じゃあ 相手はずっと無言ってことですか?」
「そうだと思う。私が代わっても何も言わない」
「じゃあ、もしかして相手は誰か 葉月さんご存知無いんですか?」
親しく話をしてみると葉月さんが「お嬢様学校出身」だということが納得できる。育ちの良さからにじみ出る品の良さと言うのだろうか、おっとりしながらも芯の強さを感じる。
「最初に出たのは私だったの」
葉月さんは柔らかく微笑んだまま、その時のことをゆっくりした調子で答える。
「何か言おうとしている様子が解るの。最初は昴のお友達が掛けてきたのかなと思った」
「ずっと 何にも言わないんですか?」
「『もしもーし、どなたですか?お話して下さい、聞きますよ』って 子供を安心させるように言って…大人の悪戯電話だったら確かにすごく変よね」
昴くんの友達の年齢なら間違ってワンタッチのボタンを押してしまうこともあるかもしれない。昴くんのことが好きな小さな女の子が何も言えずに固まってしまう様子だって想像できる。葉月さんの対応する言葉が優しくて、何だか微笑ましい。
「でね、小さくしゃっくりしてるのが聞こえた」
「しゃっくり、ですか」
「何度、声を掛けても、待っても、結局何も言わないまま。」
「相手のナンバーが解る電話にするとか 調べてもらうとか…嫌だったら拒否するとか 色々対策はありますよね、きっと」
「何となくだけど、相手は子供ではないと思うの。でも悪いひとじゃないって気がした。大丈夫だって」
「しゃっくりで…ですか?」
「そうね…」
そう感じるどんな理由があるんだろうか。聞いても葉月さんは「母親の勘」だと言って笑っているだけだ。
「次は昴が出たの。ちょうどいつも彼から電話がある時間だったから」
「昴くんはお父さんだと思っている?」
「そう…みたいね。相手に『父ちゃん?』って呼び続けて。その後は多分一方的に喋ってる。そしてね、」
「また絶対掛けてきてって?」
「ええ…彼、昴が生まれてからもずっと地方の仕事が多かったの。まだ片言も言えない頃からよく電話を掛けてきては声を聞きたがったのよ」
電話でのコミュニケーションは 昴くんがずっと小さい頃からの父と息子の楽しみだったんだ、響子は葉月さんの言葉を頭で繰り返し考える。
「一度約束した日に電話が無かった時 昴の落ち込み様ったらそれは酷かったのよ」
「本当に お父さんのこと、大好きだったんですね」
「それからは、掛けてくる時間だけ決めて、日にちは決めないことにしたみたい。その時間掛って来なかったら別の日に掛って来るって」
父と息子、男同士。何だかいいな、響子は思う。自分が男だったら、男兄弟がいたら、自分の感じ方も、父親の接し方も違っていたのだろうか。

「亡くなる前もね、私だけ仲間外れにして 男同士の話があるからって。もう話ができる時間も少なくて、私だって少しでも一緒にいたかったのに」
悔しかったわぁ、と葉月さんは懐かしそうに笑う。亡くなってもなお この人の中にご主人はしっかり居るのだと響子は思う。
「何の話だったんでしょうね」
「どこにいても電話する、今まで通りずっと、って そんな約束でもしたのかと今になって思うの」
死を覚悟した時 息子だけに話しておきたいこと、葉月さんのご主人にとって何だったんだろう。
子供に掛って来る無言電話。嫌な想像はいくらでもできる。けれど「もう少しこのままでいいかな」、という葉月さんの穏やかな笑顔の前に、響子はこの日それ以上何も言えなかった。



「どう思うの?」
野瀬君が逆に聞いてくる。顔を近づけて眼を合わすようにされるのは どうしても慣れない。急に眼を逸らしたり ここで首の向きを変えるのも妙だろうとか思ってしまって どうして良いか解らず 余計に動きが不自然になるのだ。野瀬君には奥さんもいるし もちろん響子にも恋愛感情は無いのだけれど。この野瀬君に挙動不審の『キョド子』と勝手なあだ名をつけられたのは、響子が高校生の時の話だ。

「どうって 言っても」
「天国からの電話って 本当にあるのかなぁ」
そっちか?その可能性を野瀬君は少しでも考えているのだろうか。野瀬君のことを『お気楽なおぼっちゃま』と大地が言っていたけれど、響子は野瀬君の性格が未だによく解らない。返し方が解らず響子が黙っていると 野瀬君は軽い調子を少し改めて 話を続けた。
「え、っと、そうだな、心配すべき点はだな…」
「…ストーカーとか…」
「変質者とか?」
「空き巣ねらいとか」
野瀬君も幾分解っているようで響子も少しほっとしたが 更に被せてくる悪い内容を確認すると落ち着いていられない。
心配なのは 相手が誰かということだけでもない。その不安の中身を響子は初めて口に出した。
「突然その相手が『自分は父ちゃんなんかじゃない』って言って、昴くんを傷つけるのが…怖い」
色々口に出していく内に ますます不安が募る。暗い気持ちがどんどん膨らんでいくのはなぜだろう。
「そんなことも含め お母さんの葉月さんが一番考えてるはずだと思うがなぁ。気にしすぎなんじゃない?響子ちゃん」
結局はそれほど心配していない様子の野瀬君に対して、響子は何だか腹立たしい気持になってくる。
「野瀬君は…」
喉の奥に詰まった言葉が押し出されるように響子の口から出る。トゲのある言葉は言った自分にも 痛みを伴って返って来ることを響子だって知っている。
「野瀬君は幸せに育って、今もいい家庭を築いてる、健康で何の心配もないかもしれないけど…」
怒りを含んだ響子の低い声に さすがの野瀬君も驚いた顔をした。
「昴くんはまだ2年生で、大好きなお父さんが亡くなって間がないんだよ。その昴くんを葉月さんは見守って暮らしてる。葉月さんは大丈夫って言って他人に頼らないけれど それでも、」
「それでも?」
「もっと悲しい思いをするかもしれないことがあるのなら できるだけ遠ざけてあげたいじゃない」
子供が悲しい思いをするのはどうしても嫌だ。それはきっと自分が親と上手くいかないまま育って、楽しい思い出が少ないせいかもしれない。野瀬君に対してムキになるのは完全なヤツ当たりだ。頬が熱くて、手が冷たい。自分が本当に葉月さんや昴君のことだけを心配をしているのかどうかさえ 解らなくなりそうだった。

野瀬君は驚いた表情をゆっくり元に戻すと、今度は難しい顔をして黙りこんだ。眉間に皺を寄せ何か一生懸命考えている様子に下手に話しかけることも躊躇われ、響子も同じように黙って考えた。いつになったら相手が何かを切りだすのか解らず だんだん長い沈黙に耐えられなくなった頃 
「響子ちゃんが葉月さんと昴くんのことを想う気持ちは解った。そうだな、余計なお世話になるかもしれないけどちょっと探ってみるか。」
テーブルに載せた響子の固く握ったままの手の甲を野瀬君は指先で軽くつつき 向かいの椅子から立ち上がる。仕事の昼休みに時間を取って貰っていたことを響子は思い出し、時計を確認した。
「探るって?」
響子が聞き返すと 野瀬君は鞄を持ち直してにっこり笑った。いつもの計画好きの癖が出たのか 微妙に嬉しそうだ。
「こういう時は『探偵』だな。声掛けてみるよ」
『探偵』という言葉に妙に力を入れて言う野瀬君の笑みを、響子は何だか不謹慎だよなと呆れた気持ちで眺めた。



それでやってきたのがコイツだ。島崎大地、響子にとっては高校までずっと一緒の学校に通った、言うならば腐れ縁的な関係の男だ。
「なっ、何でここで出てくるのがあんたなのよ」
指定された店が例のお好み焼き屋だったので少しその予感はあったものの、引き戸を開けて入って来た大地を認めると咄嗟に出たのはその言葉だ。
「会えてそんなにうれしいか、高岡響子」
「うっ、うっ、なっ な、何、何、何で」
大地のふざけた言葉に上手く返すことも出来ず、お手拭を畳んだり伸ばしたり、また巻き直す。明らかに動揺している響子の様子を眺めて 大地は満足そうに笑った。
「もしかして 二人って久しぶりなの?会ってたんじゃないの?意外だなぁ」
野瀬君がきょとんとして言う。本当に知らなかったんだろうか?
「去年のクリスマス以来。やり残してる仕事あるとか言って 家のこと片付いたら帰っちゃったもの」
一晩一緒に過ごした、翌日のことだ。と言っても色っぽい展開は何も無かったのだが。
お父さんが亡くなって、家出したまま音信不通だった大地のお母さんにひょんなことから再会した去年のクリスマス。あれからもう 一年も経つ。

「こっち戻って人材派遣業でも始めようかなって。『レンタル秘書』とか『レンタル家族』とかってヤツ。これもまた野瀬の発案」
野瀬君は公務員なのに新規の仕事を考えるのが趣味でもある。考え付いた仕事は他人に薦める。響子の場合もそうだった。
「人材派遣?」自分が「レンタル探偵」になってやって来てそれで「派遣」は無いだろう、響子が思っていると それが伝わったかのように大地は続ける。
「いや仕事はこれから色々準備して行く感じ。この件に関しては別枠。オレ向きかなと思ってさ」
「何で また?」
「神崎 葉月さんでしょ?高岡が心配してるのって」
「知ってるの?」
「中学の時有名だった先輩の神崎さん、お前、覚えてない?」
神崎、中学、先輩…
「その神崎さんの奥さんと子供のことなんだし」
中学の時の大地はかなり屈折していて ワルぶっていた。その時大地に何かと声を掛け、可愛がってくれたという先輩。名前こそすぐに浮かばなかったけれど響子だってあの人なら知っている。怖いイメージしかなくて、学校でたまに見かけてもなるべく顔を直視しないようにしていたから 昴が見せてくれた写真を見ても全く気がつかなかった。印象がずっと柔らかで「お父さん」だったからかもしれない。
「調子に乗って悪さやりすぎそうになったら止めてくれたのが神崎さんだった。仲間ひとりひとり どんなヤツでも大切にしてくれる人だった。」
亡くなってたのか…大地はぼそりと言った。

「まずは 行くぞ」
お好み焼きを食べながら神崎親子の話を一通りし、食べ終えて勘定を済ますと大地は先に歩きだした。
どこへ行くんだろうと不審に思いながら 響子は速足で歩く大地と野瀬君の後を追った。細い急な上り坂が続き二人について行くだけでも必死で息がきれる。長い階段を昇り着いたところは墓地。見晴らしのいい小高い場所にあるこの墓地は見上げると空が広く 天国ってヤツも近いような気がしてくる。
「霊に聞いてみる、とか? えー島崎ってそういうの信じるひと?」
野瀬君がふざけた言い方をする。それでも大地は至って真剣な顔をしたまま ずんずんと中に入っていき、神崎家の墓の前に佇んだ。神妙な顔のまま手を合わせる大地の様子に、二人も一瞬顔を見合わせ、慌てて祈る。カサコソと枯れ葉が舞う音だけが墓地に響く。
「これからオレたちが知ろうとしていることが 本当に神崎さんにとっていいことなのか まだ解りません。でも きっと神崎さんなら残った家族の、幸せを願っているはずだからさ。許してくれるよね、っていうか 神崎さんなら本当は全部お見通しなのかもしれないけど」
そう声に出して語りかけた後、
「ああ、こういう時って花とか線香とか持ってくるもんだったなぁ」
大地は頭を掻きながら言い 空の手を大きく振ってみせた。
「いいですよね、気にしませんよね、神崎さん」

「で、次はどうするの?」
墓地の急な階段を足元に気にしつつ下りながら、聞いてみる。大地にそれ程考えがあるとも思えなかったが、案の定 
「うーん、そうだなぁ。次ねぇ 次」大地は歩きながら考えている。
「とりあえず そのガキ、昴、に話でも話を聞くか」
「何を聞くの?」
「そうだなぁ。それは会ってから考える…あ、それより先に奥さんに会いたい、美人?」
何だか 酷く単細胞な「探偵」だ。探偵をならもっと探偵らしい探偵を呼んで欲しい。期待した私が馬鹿だった、と響子は思う。
「まあ、いいや。取りあえず脇から責めるか」
そこでなぜか大地は野瀬君を振り返りにっこり笑った。



「だから、何でうちで夕食なの」
大地と響子は野瀬君の家に上がりこみ、鍋を前にして座っている。
「朝から歩きまわって疲れたし、腹も減ったし、もう暗いし」
昼前に打ち合わせと称してお好み焼きをたらふく食べたのに 大地の食欲はどうなっているのか呆れる。出された割り箸を持ってもう食べる気満々というところだ。
「家庭の雰囲気ってやつに触れてみたくてさ、いいなぁ野瀬は」
3歳になるという野瀬君の息子を追いかけて抱き上げて振り回してくすぐって 大地は子供以上に楽しそうだ。大地が子供好きだなんて初めて知ったな、と響子は思う。初対面のはずの野瀬君の奥さん、早苗とも、もう軽口叩いてふざけ合っている。

鍋も終わりに近づくと子供は箸を持ったままうとうとしだし、早苗が声を掛けて歯を磨かせに洗面所に連れて行く。蒲団を敷いて子供を寝かしつけて戻ってくると早苗は響子と大地に向かって言った。
「葉月さんは賢くてしっかりした人だし、そもそも母親っていうのは子供の危険については本能的に用心深くなるものだと思うの」
「母親」である早苗んの意見は重い。
「葉月さんが『大丈夫』って言うのなら 相手を信用できるって感じる何かがあったんだと思う」
「何か、って?」
「うーん、よく解らないけれど ちょっとした後ろの音とか、こっちが話しかけた時のかすかな気配とか」
「だよな、僕もそう思った。危ないヤツかもしれなかったら あんな風に子供に会話させて放置なんてことないよね さすが早苗ちゃん」
大げさにぱちぱちと手をたたく野瀬君はやっぱり軽い。
「母親の本能、ね」
大地は呟き、その呟きに響子はどきりとする。大地の母親は大地が小学生の時 彼を残して不倫相手と出て行っているからだ。そんな響子の視線に気づいたのか大地がことさら軽い調子で声をあげた。
「あー美味かった。野瀬のくせにいい奥さんを見つけたな。コイツのどこが良かったんですか?」
「そうねぇ、馬鹿なところかしらねぇ」
いや、野瀬君、優しいし人望もありましたし…と響子が慌ててフォローする間も与えず 大地と早苗は野瀬君をネタにして笑い転げる。

「そうだ、高校のアルバム見る?葉月さん昔から美人で上品よ」
そうして早苗が見せてくれたアルバムにクラブの先輩として写っていた葉月さんは、黒髪をきっちり二つにくくった 生真面目そうな少女だった。
「神崎さんって この辺りじゃ有名な人だったじゃない?見た目やっぱり怖かったし。だから葉月さんが神崎さんと付き合ってるって聞いた時 本当に驚いたのよ。ご両親にも相当反対されたって聞いた」
「二人って 一体どういう出会いだったのかな」
「角でぶつかったとか 落し物拾ったとか?あ、不良に絡まれてるの助けたとか」
野瀬君は少女漫画も好きらしい。
「雨の日に捨て猫抱いてた神崎さんを見かけたとか?」
大地が言い、野瀬君が更に乗る。勝手な妄想が膨らんで二人で笑い転げている。
「あら、何もしてないのに職務質問されてた神崎さんを葉月さんが見かけて 警察官に抗議したって聞いたけど。理路整然とね」
葉月さんが神崎さんを助けたのか、その出会いの光景を想像したらなかなか微笑ましい。強くて賢くて真っ直ぐな少女だったんだ、葉月さんの印象がくっきりと形を成してくる。
「でも 強い人だけに誰にも言わないで悩みや不安を抱え込んでいるってこともあるかもしれない」
アルバムを片付けながら 早苗がぽつりと呟いた。
「寂しくても助けて欲しくても 自分から言わないかもしれないわね」

「無言電話 孫を想う祖父母説」という野瀬君が出した説は双方の実家の親が亡くなっているということで早苗にあっさり否定された。
「結婚反対しても 孫はかわいいって良くあるじゃない、いい推理だと思ったんだがなぁ」
野瀬君は明らかにがっかりした様子で 「ってことはやっぱり天国からの…」天国からの電話説をまた持ち出す。


響子も仕事の時に なかなか話し出さない相手の電話を受けることがある。
「ほっこりたいむ 『三田』でございます。どうぞ何でもお話ください」
無言。
「お気兼ね無くお話ください。心に引っかかったままのものを口になさるだけでも気持ちが安らぐかもしれません。もしもし?」
無言。
その時も数回の言葉かけの後 結局無言のまま切れた。
そういう時は、何だか寂しい。喋れないまま切るなんて残念だなと、相手の心配をして いつかまた掛けてくるまで待つことしかできない。今日は、状況が掴めず要領を得ないまま、結局「やっぱ、いいです」と電話を切る人がいた。訪ねたい相手がいるのだが、どうやって会ったらいいのだろう、と悩んでいるらしい。この間の無言の場合といい、言いたいことを抱えきれない程持ったまま、上手く喋れない人っていうのも沢山いるのかもしれない、と 響子は思う。

大地のお母さんが「ほっこりたいむ」に電話を掛けてきた時も、大地が探し当てたお母さんの住まいのポストにチラシを入れたことがきっかけだった。「三田さん」に悩みの電話を掛けてくる可能性だってあるかもしれない、神崎さんの知り合いに目星をつけて 大地はそれとなくチラシを撒き始めた。
「『悪い人じゃない』なら何だろうって考えた。電話の目的は残った家族を気にしてのことじゃないかと思うんだ。馬鹿だけど義理人情大事にするヤツも多いしさ」
「じゃあ 何で名乗らないわけ? 子供相手に神崎さんのふりをするなんて間違ってるよ。いつまで続ける気なのか解らないし」
「そこでムキになるな 高岡。まだ、そうと決まった訳でもない」
大地はチラシを配るだけじゃなく 色々な人に会って情報収集をしているらしい。何とか探偵らしいこともできるじゃないか、響子は大地の顔をしげしげと眺めた。
「沢山世話になったヤツとか調べてみたんだ。それと一応 恨みとか持ってそうなヤツ、葉月さん目当てとかも考えてみた」
神崎さんへの恨みとか葉月さんへの想いが歪んだ形になっているとかだけはあって欲しくない。
「まあ あれだけ有名な人だからね。敵がいなかったとも限らないし、葉月さんもモテたと思うし。お前とは違ってさ」
響子の引き攣った顔を解すつもりか、余計なお世話を付け加え、大地は舗道脇のブロックの上を跳ねるように歩き出す。未だにやることがガキっぽい。

今日は神崎さんの入院していた病院に行くつもりらしい。
こうして一緒に歩くと解るが 確かに大地は知り合いが多い。初めて会った相手も、すぐ気を許してフレンドリーに接してくる。中学の時は女嫌いで人を寄せ付けなかったのに何だろう。自分よりずっと社会に適応しているじゃないか、響子の気持ちはちょっと嫉妬に近い。
「何か 悔しい」
響子が口に出すと 大地はへらっと笑った。
「クソ親父と身勝手母のの子でも、案外いいオトナに育つもんでしょ。どんな子供だって自分で明るい未来を作ることができるとオレは思う。だからさ…」
気が付くと目的の病院の前だ。大地はブロックから飛び降りて、くるりと響子の前に向いて立ち、続けて言った。
「産んでくれた親に感謝してもいいかなと思ってる」

「なあ、サンタさんっていつまで信じた?」
自分の言葉に照れたのか大地は突然大股で数歩先に行き、背中を見せたまま話題を変えた。門をくぐり、病院の建物には入らないで大地は駐車場の先へ行く。
「何で急に サンタ?」
響子の父は教育熱心で厳しくて 物事を現実的にしか考えない人だった。幼稚園の頃まで母が微妙にサンタの演出をしていたが 随分早い時点で「サンタはいなくて親がプレゼントをくれるのだ」ということを響子は知らされた。「当たり前だ。物を貰っておいて親に感謝しないでどうするんだ」礼を言わないと父親が酷く機嫌をそこね、クリスマスはいつも困惑と緊張に包まれてちっとも楽しくなかった。母がサンタの演出を辞めてプレゼントも用意しなくなって ほっとしたのを覚えている。
「6年の時でもサンタさん信じてる女の子いたよね、確か大地がはっきり『サンタなんかいねーよ』って言ったら泣いたっけ」
「よく覚えてんな。あの後あっちの親にえらく責められた。お宅の事情はどうでも ウチの子供の夢を壊すなんて許せんとか何とか わざわざ親父にも言いに来た」
「事情って、そんな」
「母親が出て行くようないい加減な家だから どうせ愛も夢も持ち合わせてないんだろうって、そんな言い方だったみたいでさ。」
「酷い。イルミネーション一番奇麗だったじゃない、大地んち。皆知ってたよ」
「母親が居た時までだけどね。あの人イベント大好きだったから、結構毎年盛り上がってたんだけどな」
返す言葉もなく大地の背中を見ていると 大地は立ち止まり、振りかえって続けた。
「多少傷ついたとかがっかりしたとかあったって 子供は現実と折り合ってちゃんと生きてくんだ。大人がそんなに心配しなくてもさ」

「あ、こんにちは。今日はすみません」
病院の中庭で待っていてくれた年配の看護師さんは神崎さんを担当していたという。「個人情報は教えないわよ」と先にきっぱり言ったものの 無言電話の話を大地が隠さず言うと膝を乗り出し心配そうに聞いてくれた。
「仲の良いご家族だったわ。残念だった、本当に。お見舞いはね、神崎さんが断っていたみたいで人の出入りは少なかった」
「断ってたんですか?」大地が言うと
「弱っているところなんか見せられませんからね、って言うの、神崎さん」
そうか、強い人だったからなぁ、心配かけるの嫌だったんだろうな、大地が答える。12月に入って外はさすがに寒く、親切な看護師さんは白衣の上に羽織ったジャンパーの前をきゅっと合わせた。
「あ、一人だけ、思い出した。えっと何て言ったかな、細い小柄な男の子。後輩の…パシ?ハシ何とか君。時々来て何かさせて下さいって ナースの仕事まで手伝おうとする子がいた」
ハシ何とか君、と聞いて大地は少し考えた後、おっ、と小さな声をあげた。
「えっと、それっもしかして『橋村』じゃないですか?『パシリ』のハシムラ?」
橋村は響子たちの学年だったが 真面目に登校していなかったと聞く。あまり学校で見かけたことが無い。背の小さい華奢な子で、細い目で鉤鼻のとっつき難そうな顔だったことを覚えている。二人とも彼と同じクラスになったことは無いけれど 響子が何かの当番で重い荷物を抱えていたら 無言のまま手伝ってくれたことがある。大地とは別に、橋村も神崎さんの後をついて回っていたことを響子も思い出した。帰り道大地は足元を見たままずっと黙って歩いている。小さな声で「橋村かぁ。なるほどパッシーね、パッシー」と何回か呟いた。

その後、橋村にすぐ会えたわけではない。神崎さんの友人をもう一度当たり、橋村について聞いて回った。皆の反応の薄さに橋村の悲しい存在感がよく解る。橋村だけが神崎さんの見舞いに行っていたことを言うと一人の先輩が悔しそうに言った。
「他の患者さんに迷惑が掛る、お前ら来たら騒がしいからって 神崎さんに断られてたからな。まさか亡くなるほど悪いなんて知らなかった」。他の先輩は「奥さん、俺らのこと苦手みたいだったからなぁ」会えば愛想良くしてくれたけれど…と言い、力になれるもんなら何でもするんだけど、なんせお嬢様育ちでオレなんか近寄るの申し訳ないっつーか、と苦笑してみせた。その中で一人の先輩が橋村の特徴を覚えていたのだ。
「パッシー?あの緊張すると喋れなくなって しゃっくりする変なヤツ?」
大地の表情がぱっと変わった。ビンゴ。一緒に来た響子を振り向いて見る。
「これは絶対あいつに会わないとな」


橋村探しは結構難航しているようで、大地からの連絡がなかなか来なかった。その間何回か響子は葉月さんと会っている。時折定時の電話はあるようだったが、大地に、橋村の話を葉月さんにするのはちょっと待つように言われていたので その話は避けた。葉月さんと橋村君が病院で何度も会っているのなら、彼の無口なことやしゃっくりの癖も知っているのかもしれない。直接聞いて確かめたい気がしたが 取りあえず大地の判断を待つことにした。

「先に昴に会う」
大地が小学校の帰り道で昴を待つからと言って、響子は呼び出された。「俺一人で行ったら本当に不審者じゃん」
確かに大地だけじゃ 通報されてもおかしくない。昴が友達と別れてひとりになってから声を掛けた。
「あ、お仕事のおねえさん」昴がすぐ気が付いてくれた。
「こんにちは。こちらは島崎大地くん。お父さんの知り合い」
「ふうん」
昴は大地を見上げてしげしげと眺めた。「あんまり強そうじゃないね」
葉月さんが居る時と少し様子が違う。外ではわざと突っ張って大人ぶっているのか、逆に母親の前で幼さを演じているのか どっちだろう。
「ふうん、そんなに純粋そうじゃねぇな」
大地が言い返す。小学生相手にムキになっている。野瀬君の家で見せた子供好きの姿はどこにいったんだ、大地なんかと来るんじゃなかった。響子は激しく後悔した。
「昴くん 怖がってるじゃないの、ごめんね、このおじちゃん 怖くて」
けれど唇を尖らせぐいっと顔を上げて大地を見据える昴の顔は もう立派に響子の知っている「神崎さん」の子供だ。
「何か 用?」

「ま 色々話してみたいこともあったりするんだけどさ」
「そう?こっちは別に話すことなんかないけど。嫌なこと言うなら、叫んでケーサツ呼ぶから」
可愛くねーガキ。そう呟きながら 大地はくすっと笑う。言葉とは反対に何だか嬉しそうだ。笑われたのが気に障ったのか昴は上目づかいで唇を噛んだ。
「昴君はさぁ、サンタさんっていると思ってる?」
急にサンタの話をされて 昴も戸惑いを隠せない。
「そろそろ学校でも『いる派』と『いない派』に分かれて言い合いとかするんじゃね?今の時期」
昴は話の意図が解らないというように じっと大地の顔を見ていたが ふんっと鼻で笑い
「よそのことは知らないけど、うちのサンタは父ちゃんだった。わかってるって言わない方がママが喜ぶから言わなかった。でも もう来ない」
「昴くん…」
大地の顔を見据えたまま目を逸らさない昴を見ていると、いたたまれない気持ちになる。
「父ちゃんは、もう、いないから?」
大地の言葉は容赦なく続く。昴は表情を崩さない。響子は息をのむ。
「じゃあ 『父ちゃんからの電話』っていうのはどう?」
言い方こそ柔らかく静かだったが 大地のあまりのストレートさに響子は止める言葉も発せずに固まった。
「それだって 相手がいつまでも続けてくれるとは思ってないんだろ」
「ちょっと 大地!いい加減に…」
何とか割って入って空気を和らげようとするが何を言えばいいのか解らない。ぐっと下ろした両手のこぶしを握りしめ昴は俯いたまま唇をかみしめている。
長い沈黙の後 かくんと昴は首をたれ、絞り出すように声を出した。
「…ママが、嬉しそうだったから」
「最初の電話はいつもの時間じゃなかったけど…ママがあわてて出て 父ちゃんの名前を呼んだ。先に呼んだのは ぼくじゃない、ママだ。」
地面を見つめるその横顔は真剣で、これがきっと昴の本音だろうと響子は思う。突っ張って大人ぶってもいない、幼さを装っているわけでもない。
「父ちゃんじゃないってわかった後すごくさびしそうだった。父ちゃんが死んで いつもの時間に電話がかってこないことを気にして ママはいつもつらそうな顔でこっち見てた」
「ママを悲しませない、一人でがんばってしまうママのことだ、心配して助けてくれる人がいたら まよわずたよれ、それが父ちゃんとの男の約束だから。」
顔を上げて言う昴のその目から、必死でこらえていた涙がぽろりと零れおちた。



「子供って大変なんだよなぁ」
スマホの画面いっぱいに映し出される息子の笑顔を眺めながら、野瀬君はため息をついた。
今日は野瀬君を含め大地と三人。もうすぐ探し当てた「パッシー」の家だ。
「大地に話させたらいきなり何を言うか心配だもん」
昴と会った日の経験からの響子の意見だ。あの日は結局泣きながら突進してきた昴を大地が抱きとめた形で慰めた。慰めたという言い方が正しいかどうか解らないが ひとしきり泣いた昴が鼻水をわざと大地のトレーナーで拭き、「汚ねぇっ」と言いながらぽかりと頭をはたく大地と「ぎゃくたい ぎゃくたい」とふざけて騒ぐ昴の姿を 帰って来た葉月さんに見られたという結末だった。
狭い路地を入ると小汚い小さなアパートがある。メモを確かめながら大地がチャイムを押した。
「誰?」
「こんにちわぁ、ちょっと早いサンタクロースでぇす。じゃなくて俺、島崎、島崎大地。って言っても覚えてるかなぁ」
ちょっと歪んだカメラ付きのインターホンは本人が付けたのだろうか、応答した橋村に、大地は覗き込むように顔を突き出して見せる。
少し置いてドアがゆっくり開き 不審げな表情をした橋村が顔を出した。
「おー懐かしいなぁ、パッシー、コイツは覚えてる?高岡」
急に話を振られ、響子も慌てて会釈する。「あ、コイツはおまけ。高校の同級生」野瀬君は「おまけ」らしい。
「何の用?今ちょっと…」
橋村は手にしたスマホをちらと見る。時間はもうすぐ例の電話の時間だ。
「もうすぐ神崎さんちの昴くんにお電話掛ける時間?」
橋村はぎょっとした顔で大地を見る。ひっく、小さなしゃっくりが橋村の喉あたりから聞こえた気がした。
「今日は無言電話はお休みして 俺らとお話しない?」
真っ赤になった橋村はいきなりドアを閉めようとしたが 大地は先に足先を挟み、橋村の手首を掴んで言った。
「安心して。高岡は人の打ち明け話聞くの『プロ』なんだけど、今日は特別無料にしておくから」

質問を続ける大地に、橋村は観念したかのように項垂れて、ドアを開けたまま「ちょっと待ってて」と言って奥に戻った。
戻って来た橋村が 抱えているのはクリスマスカラーの封筒の束だった。無言のまま差し出すのを玄関先で3人は受け取って見る。
「クリスマスカード? 昴くん宛じゃない」
押し黙ったままの橋村はこくんと首を縦に振る。
「14通あるね」野瀬君が続ける。
裏を返すと 1通だけ「サンタさんより」と書かれているが そのほかは差出人の名が無い。
「こ、今年から…届けて、欲しいって、か、神崎さんに…頼まれた」
振りしぼるようにかすれた声で、橋村はやっと声にして言った。
「これ 全部神崎さんが用意したわけ?昴が大人になるまでってことか」
次のクリスマスに自分はもういない、サンタさんになれないと神崎さんは橋村に言い、封筒の束を託したという。
「渡し方も全て任せるって神崎さんは言ったんだけど…判断なんてオレできないし。やっぱり相談しといた方が…いいかと思って」
「神崎さんのうちに電話を掛けたの?」
「いきなり お…お…お…奥さんが出て」
「当たり前だろ、奥さんに相談するつもりだったんじゃないの?昴はサンタさん信じてるわけだし 一応」
その日は結局一言も喋れず切ってしまい、次に掛けたのがこの時間帯だったと橋村は消え入りそうな声で言う。
何でこのタイミングに掛けたのか、と聞く大地に 神崎さんがいつも昴に電話をする時の話を聞いていて つい…と橋村は身体をすぼめて俯いた。
「か…神崎さんのふりなんか、すっ…するつもりじゃなかったんだ。ただ、神崎さんの息子さんが電話を楽しみに待ってたんだって思って…」
何か励ましてあげたかった でも、結局何を言ってあげればいいか解らないまま…と橋村が言うと大地が続けた。
「で、昴の小芝居に付き合わされたわけだ」
小柄な橋村が更に身を小さくしてこくんと肯いた。

「橋村さぁ、橋村のしゃっくりって 葉月さんや昴に聞かせたことあった?」
クリスマスカードの束をまとめながら思い出したように大地が聞くと「まさか とんでもない」と言いたげに橋村は大きく首を横に振った。
「そんな…み、見舞いだって お、お、奥さんとは い、一緒にならないようにしてた。しゃっくりどころか…」
「皆揃って 何でそんなに 避けるかなぁ」
「も…元々 住む世界が違う人だし、口なんかきける感じじゃないし…」「何か…オレたち、まとめて怖、怖がられてるって感じだったし」
焦った表情のまま 橋村はそんな風に勢い込んで 子供の言い訳みたいに並べ立てた。
吟味するかのように顎に指を当て橋村の「子供の言い訳」を大地は黙って聞いていたが 少し間をおくと納得したというようにふわっと笑って大地は橋村に言った。
「なるほどね。でも話題くらいにはしてたかもな。焦るとしゃっくりするけど 凄く信頼できるいい奴がいる、とかさ」
大地の言葉を聞くと橋村は吃驚するくらい一気に顔を赤くし、泣き出しそうな表情で小さく震えた。橋村の感激する様子を見て、言った大地が慌てたくらいだ。


25日クリスマスには神崎家に集まった。
野瀬君と早苗さんは息子を連れて、大地と響子もそれぞれ時間の都合をつけて 神崎家に向かった。大地もレンタルサンタの仕事がいくつか入って来て ぼつぼつではあるけれど忙しくなって来たらしい。期待していた「クリスマス限定レンタル彼氏」の依頼は来なかったそうだ。
写真立ての神埼さんの前にはケーキとキャンドル、小さなツリーが飾られている。葉月さんのセレクトらしく、うかれ気分の街のクリスマスソングとは違った静かな聖歌のCDが流れていた。荘厳なBGMに、一同が一瞬気を引き締める。
昴はといえば小生意気な様子と無邪気な様子を織り交ぜた きっと一番自然な「昴」で迎えてくれた。テーブルの準備を手伝う早苗と響子の後で 大地と早速プロレスごっこを始めている。さっきの厳粛な気分はもうどこかへ行ったみたいだ。
昴がプロレスの技を掛けながら大地に言う。
「天国の電話はさ、おひとりさま何回までって決まってるから、もう終わりなんだって」
「最近電話無いの?それはお母さんから?」聞き流すこともできず、響子が振りかえって聞くと
「オレが父ちゃんにちょくせつ聞いたの。前にかってきた電話で」
昴はわざとらしく皆が聞こえるような大きな声で言い、気を取られて倒された大地の耳元で小さく囁いた。
「しゃっくりするサンタに会って、一緒に考えて、そういうことに決めた」

「昨日、サンタさんが昴にクリスマスカードをくれたの。筆跡見てそれは吃驚しちゃったわ」
お腹いっぱいになって遊び疲れた子供たちが寝静まると、葉月さんが昨夜のことを話し始めた。
昨日のイヴの夜 玄関ドアのポストがカタンと音をたてたのに昴が気付いた。クリスマスカードが差し込まれているのを見て葉月さんがドアの外を見ると 小柄なサンタがドアの前に立っていて、声を掛けたら慌てて逃げようとしたという。
「小柄なサンタ、ですか?」
響子が聞くと
「それって目が細くて鉤鼻で背の低い貧相な…」
野瀬君が言い掛けて、大地に足で蹴られる。
「だけど昴が追い掛けて声を掛けてたみたい。後でサンタさん、戻って来てね、昴には内緒でって、これを私にくれたの」
葉月さんは残り13通のクリスマスカードの束と、添えられた汚い字の手紙を響子に差し出した。
─これ全部 どうやって昴くんに渡すのかは 神崎さんに任されました。けど、この束を見てうれしいのは奥さんだと思うから 毎年1通ずつじゃなくて 今日まとめて渡します。来年からの分は『サンタさんからのカード』じゃなく『父ちゃんからの手紙』だそうです。こんなサンタでも良かったらいつでも来ます。メリークリスマス。
「サンタさん もしかして、しゃっくりしてました?」
「そうね、していたかもしれないわね」
葉月さんはくすくすと笑った。そして驚いたことに、そのサンタとは別にもこの数日間、次々と「サンタ」や「トナカイ」や、何だか良く解らないが精一杯「フレンドリーで明るい雰囲気」を演出した人たちが昴にプレゼントを持ってやって来て、神崎さんの写真に線香をあげて帰って行くそうだ。

「周りの方たちからもこんなに大切に思われて。ご主人の人徳ですよねぇ これって」後片付けを手伝いながら早苗がうっとりした顔で言い、
「皆さん ちっとも怖くなんかなかったですよ、優しい人ばっかりで…」
ワインの酔いも加わって 響子はつい口にしてしまい、神崎さんの友人たちのところを内緒で回ったことをばらしそうになった。慌てて大地と野瀬君の様子をちらりと窺うと もうすっかり寛いで子供たちの傍でごろごろしている。
「あら 響子ちゃんだって いいお友達に恵まれてるじゃない、羨ましいわ、色々これからみたいだし」
「え、これからって 何がですか」
ふふ と葉月さんは意味深に笑って大地を目で示す。さっきまでいい調子で起きていたのに、気が付けば大地は昴と寄り添って子供みたいに眠りこけている。
「いい感じなんじゃないの?彼と」
「あ、私もそう思う」
早苗まで 嬉しげに同意する。
「だっ 大地ですか、まさかそんな、アイツは えっと その…」
片付けかけた皿をまた広げ、集め直し、フォークをつかみ損ねてばらばらと落とし 拾おうとしてテーブルの角で足を打つ。
「やだ、響子ちゃん 大丈夫?」葉月さんが叫ぶ。早苗も笑う。
葉月さんが心から笑っているなら いいや、じんじん痛むすねをさすりながら響子も涙目で笑った。

無防備過ぎる大地の寝顔を見ながら 去年も一緒にクリスマスを過ごしたはずなのになと思う。
酔っているせいなのか、あれこれ思いだすと何だか今度は急に悲しくなってきそうだから、これ以上考えるのはやめておこう。響子は頭をふるふると振った。
「メリークリスマス」と大地の耳元でで響子が小さく呟くと 眠った様子のままの大地が「ホッホホー」と続けた。

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すずはら なずな

すずはら なずな

どれも短いお話ですが 
一つでも心に残ったら嬉しいな。

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