どんな花火もきっと楽しい
涼しくなりました・・・・ もう秋ですね。
ぼやぼやしているうちに 季節感無視の更新となりました(汗)
TEXPOの夏のバトルで出したもので 「夏らしい作品を」がテーマ。
今更ですが、去りゆく夏を思い出し(無理やり)お読み頂けると幸いです。
暑い!海だ!と、いかにもなノリで、付き合って日も浅い雄太と海に行き、伊理ちゃんと知り合った。
宿のロビーで初めて見た時、伊理ちゃんは随分年上の男と一緒だった。彼女が色々と話し、相手は穏やかな聞き役という感じだ。宿や海辺で伊理ちゃんとは何度か会ってお喋りしたが、男の方はそれから見かけない。雄太は「あれは絶対に不倫だ」と、細かい点を挙げてはどうでもいい推理を披露し、得意げに鼻の穴を膨らませた。
ゴシップ好きのオバさんみたいなその性格にげんなりし、雄太の鼻の穴が嫌いになった。
その後は早い。雄太のすることが全て馬鹿っぽく見え、水着のセンスに相容れないものをひしと感じ、3日と持たず我慢の限界が来た。
─打ち上げ花火なんだよね。いつも。
待ち合わせたオフィス近くの店で、伊理ちゃんに近況を報告する。偶然にも互いの職場はすぐ近くだ。窓の外、ツクツクボーシがひと際騒々しく鳴いて飛び立った。
─だったら線香花火かな、私。
融けかけの氷をストローでつつきながら、伊理ちゃんは言う。
消えたかと思っても、ちろりとまた花を咲かせ、祈るように見つめる中、ぽとり 玉を落として終わる。そんな なのかな。伊理ちゃんの恋。
─子どもの頃から 線香花火が一番好きだった。由香さんは?やっぱり打ち上げ花火?
私は、と考える。線香花火は、暗がりでどっちが先だか解らなくて火をつける側をよく間違えた。朝になって見ると大抵、気付かずにやり残した線香花火が数本落ちていた。
打ち上げ花火。そう、花火大会が大好きだったな。夏も終わりだねぇ、なんて言いながら一緒に見たのは毎年、違う彼氏だ。
─けど、どれも結構いい思い出だよ。相手はどうだか解らないけどね。
そう言って笑うと、伊理ちゃんもくすっと笑った。
─あの人、中学の時の先生。私、時々手紙を出してたの。でも住所不明で手紙が返ってくるようになった。最近、あの近くの学校に勤めてるって噂聞いて。だから行ったの。あそこで偶然知ったみたいな事言って出て来て貰った。泊まってたのは私一人。情けないよね、振られたくないから 告白もしないで。
線香花火でもないね。湿気ちゃった花火。火も付いてない。
結局、デザートを3種類も追加し、コーヒーを4回おかわりして、休憩時間いっぱい二人で過ごした。お腹苦しいっ!って笑って別れた後 母からのメールに気がついた。不況でスポンサー探しが難しく、花火大会は中止だそうだ。
今年はこのまま田舎に帰らずに、伊理ちゃんと二人 線香花火大会をしよう。
うろこ雲 眺めながら、そう思う。
ぼやぼやしているうちに 季節感無視の更新となりました(汗)
TEXPOの夏のバトルで出したもので 「夏らしい作品を」がテーマ。
今更ですが、去りゆく夏を思い出し(無理やり)お読み頂けると幸いです。
暑い!海だ!と、いかにもなノリで、付き合って日も浅い雄太と海に行き、伊理ちゃんと知り合った。
宿のロビーで初めて見た時、伊理ちゃんは随分年上の男と一緒だった。彼女が色々と話し、相手は穏やかな聞き役という感じだ。宿や海辺で伊理ちゃんとは何度か会ってお喋りしたが、男の方はそれから見かけない。雄太は「あれは絶対に不倫だ」と、細かい点を挙げてはどうでもいい推理を披露し、得意げに鼻の穴を膨らませた。
ゴシップ好きのオバさんみたいなその性格にげんなりし、雄太の鼻の穴が嫌いになった。
その後は早い。雄太のすることが全て馬鹿っぽく見え、水着のセンスに相容れないものをひしと感じ、3日と持たず我慢の限界が来た。
─打ち上げ花火なんだよね。いつも。
待ち合わせたオフィス近くの店で、伊理ちゃんに近況を報告する。偶然にも互いの職場はすぐ近くだ。窓の外、ツクツクボーシがひと際騒々しく鳴いて飛び立った。
─だったら線香花火かな、私。
融けかけの氷をストローでつつきながら、伊理ちゃんは言う。
消えたかと思っても、ちろりとまた花を咲かせ、祈るように見つめる中、ぽとり 玉を落として終わる。そんな なのかな。伊理ちゃんの恋。
─子どもの頃から 線香花火が一番好きだった。由香さんは?やっぱり打ち上げ花火?
私は、と考える。線香花火は、暗がりでどっちが先だか解らなくて火をつける側をよく間違えた。朝になって見ると大抵、気付かずにやり残した線香花火が数本落ちていた。
打ち上げ花火。そう、花火大会が大好きだったな。夏も終わりだねぇ、なんて言いながら一緒に見たのは毎年、違う彼氏だ。
─けど、どれも結構いい思い出だよ。相手はどうだか解らないけどね。
そう言って笑うと、伊理ちゃんもくすっと笑った。
─あの人、中学の時の先生。私、時々手紙を出してたの。でも住所不明で手紙が返ってくるようになった。最近、あの近くの学校に勤めてるって噂聞いて。だから行ったの。あそこで偶然知ったみたいな事言って出て来て貰った。泊まってたのは私一人。情けないよね、振られたくないから 告白もしないで。
線香花火でもないね。湿気ちゃった花火。火も付いてない。
結局、デザートを3種類も追加し、コーヒーを4回おかわりして、休憩時間いっぱい二人で過ごした。お腹苦しいっ!って笑って別れた後 母からのメールに気がついた。不況でスポンサー探しが難しく、花火大会は中止だそうだ。
今年はこのまま田舎に帰らずに、伊理ちゃんと二人 線香花火大会をしよう。
うろこ雲 眺めながら、そう思う。
スポンサーサイト
デザートに無花果添えて
以前TEXPOの「まったりバトル」というのに参加した作品です。
お題は「美味しそうな朝食の風景を描く」(だったかな?)
いきなり 消費期限切れそうだったり、萎びてたりしますが、
読み終えた後、美味しかった気がして下さればうれしいです。
食パンを一枚、トースターに入れる。
パンが焼けるのを待つ間、冷蔵庫を覗く。
ついでに寝ぼけ頭を冷気で覚ます。
野菜室には胡瓜。冷蔵室にはハム。
胡瓜を出して縦に薄く切る。胡瓜はちょっと、萎びかけている。
早く使い切らなきゃね。
ハムを一枚、後はラップして仕舞う。
これも気付くといつも、賞味期限近い。
玉子を一個、油を引いたフライパンの上
ぱかんと割って目玉焼きを作る。
マグカップに入れたインスタントコーヒーを立ったままちょっと啜る。
足元に置いたダンボールが目に入る。
送り状の差出人の欄には実家の住所。さっき届いた宅配便だ。
今頃、父は納豆をこねている。神妙な顔をして100回以上必ず煉る。
味噌汁、焼き魚、玉子焼き。母は昨日の残り物も温め直す。
─どうも作りすぎちゃって困るわね。
あたしが家を出て何年経っても、ばあちゃんが一昨年、
じいちゃんが去年、いなくなっても
やっぱり母は同じ分量で作ってしまうのだ。
弟は昨日コンビニで買ってきた菓子パンを
もそもそ食べているかもしれない。
お裾分けを期待して犬のブンタは弟の足元で
そわそわしているだろうか。
ちゃんと朝ご飯食べなきゃだめよ。
納豆食え。納豆。
ほら、玉子焼き。
どう?お漬け物。
弟はきっとTVから目を離さず、
それでもちゃんと漬物だけは食べるのだ。
ばあちゃんのぬか床はまだ生きている。
パンにマーガリンを塗り、胡瓜とハムを載せ、
マヨネーズでくるくる模様を描く。
半熟の目玉焼きがお皿の上でぷるんと揺れる。
父はソース、母は醤油。
目玉焼きに掛ける物にも、こだわりがあった。
あたしは塩をひとつまみ。
大家さんちの庭先、むくげの白い花の向こう側から
「キズナ」の吠える声がする。
生垣の低いところを乗り越え、いつも一直線に駈けてくる、
真っ直ぐな明るい目。
─キズナがさ、あんたに会いたいって言って聞かないんだよね。
遠回りになって敵わないや、ホント。
犬に引きずられるようにやって来る彼は
またそう言ってくしゃりと笑うだろう。
今日はちゃんと、飼い主の「彼」にも名前を聞こう。
陽ざしの中、きらきら光るキズナの黄金色の毛を思う。
心を温めてくれる生き物の、柔らかな手触りが大好きだ。
買っておいたジャーキーを出しておく。ブンタの好物だ。
実家の庭先で、いつもうとうと眠ってた年寄犬のことを考える。
キズナもこの味、好きだといいな。
ダンボールから移して冷蔵庫に入れた無花果、幾つか出しておこう。
毎年母が送ってくる無花果は、じいちゃんが育てた。
ばあちゃんが毎年楽しみにしていた。
キズナの飼い主さん、彼は無花果、好きだろうか?
手に持った無花果の心地よい重さを確かめながら
懐かしい香りをくんと嗅ぐ。
そうだ、今度は余った胡瓜を漬物にしよう、と思う。
お題は「美味しそうな朝食の風景を描く」(だったかな?)
いきなり 消費期限切れそうだったり、萎びてたりしますが、
読み終えた後、美味しかった気がして下さればうれしいです。
食パンを一枚、トースターに入れる。
パンが焼けるのを待つ間、冷蔵庫を覗く。
ついでに寝ぼけ頭を冷気で覚ます。
野菜室には胡瓜。冷蔵室にはハム。
胡瓜を出して縦に薄く切る。胡瓜はちょっと、萎びかけている。
早く使い切らなきゃね。
ハムを一枚、後はラップして仕舞う。
これも気付くといつも、賞味期限近い。
玉子を一個、油を引いたフライパンの上
ぱかんと割って目玉焼きを作る。
マグカップに入れたインスタントコーヒーを立ったままちょっと啜る。
足元に置いたダンボールが目に入る。
送り状の差出人の欄には実家の住所。さっき届いた宅配便だ。
今頃、父は納豆をこねている。神妙な顔をして100回以上必ず煉る。
味噌汁、焼き魚、玉子焼き。母は昨日の残り物も温め直す。
─どうも作りすぎちゃって困るわね。
あたしが家を出て何年経っても、ばあちゃんが一昨年、
じいちゃんが去年、いなくなっても
やっぱり母は同じ分量で作ってしまうのだ。
弟は昨日コンビニで買ってきた菓子パンを
もそもそ食べているかもしれない。
お裾分けを期待して犬のブンタは弟の足元で
そわそわしているだろうか。
ちゃんと朝ご飯食べなきゃだめよ。
納豆食え。納豆。
ほら、玉子焼き。
どう?お漬け物。
弟はきっとTVから目を離さず、
それでもちゃんと漬物だけは食べるのだ。
ばあちゃんのぬか床はまだ生きている。
パンにマーガリンを塗り、胡瓜とハムを載せ、
マヨネーズでくるくる模様を描く。
半熟の目玉焼きがお皿の上でぷるんと揺れる。
父はソース、母は醤油。
目玉焼きに掛ける物にも、こだわりがあった。
あたしは塩をひとつまみ。
大家さんちの庭先、むくげの白い花の向こう側から
「キズナ」の吠える声がする。
生垣の低いところを乗り越え、いつも一直線に駈けてくる、
真っ直ぐな明るい目。
─キズナがさ、あんたに会いたいって言って聞かないんだよね。
遠回りになって敵わないや、ホント。
犬に引きずられるようにやって来る彼は
またそう言ってくしゃりと笑うだろう。
今日はちゃんと、飼い主の「彼」にも名前を聞こう。
陽ざしの中、きらきら光るキズナの黄金色の毛を思う。
心を温めてくれる生き物の、柔らかな手触りが大好きだ。
買っておいたジャーキーを出しておく。ブンタの好物だ。
実家の庭先で、いつもうとうと眠ってた年寄犬のことを考える。
キズナもこの味、好きだといいな。
ダンボールから移して冷蔵庫に入れた無花果、幾つか出しておこう。
毎年母が送ってくる無花果は、じいちゃんが育てた。
ばあちゃんが毎年楽しみにしていた。
キズナの飼い主さん、彼は無花果、好きだろうか?
手に持った無花果の心地よい重さを確かめながら
懐かしい香りをくんと嗅ぐ。
そうだ、今度は余った胡瓜を漬物にしよう、と思う。
その「彼」のプロフィール
「はい、桐子さん、買ってきたよ、新聞」
朝の日課のコンビニ通いから戻ったナリちゃんの顔が どんより暗い。
憧れのコンビニ店員・・ナリちゃんは顔を見るだけで幸せになって一日を過ごせるはずなのに。
「いなかったの。こんなことって今まで一回もなかったのに」
病気かな・・家庭の事情で田舎にでも急に帰ることになったのかな
ナリちゃんの想像はとめどなく続く。
「そうだ、もしかしたら、歌手としてメジャーデビューが決まって、レコーディングでカンヅメになってるとか・・」
ナリちゃんは超奥手で恥ずかしがり屋だ。
実は一度も口をきいたこともないらしく、本当はその男のことを何も知らない。
バイクで来てるみたいなの。どこに住んでる人なんだろう、学生なのかなぁ ニートなのかなぁ。
ねぇ、ねぇ、何歳だと思う?桐子さん・・。
早朝だけバイトして、その後どういう一日過ごすんだろう。
何が好きなのかな、どんな音楽聴くのかな。
毎日毎日 飽きもせずナリちゃんは新たな空想をしては、あたしに語る。
だからさっき「メジャーデビュー」だなんて言ってたけれど、音楽やってるのかどうかだって定かではないのだ。
ナリちゃんが妄想語りだしたら長いので、ふんふん聞き流して 新聞を開く。
昨夜大きな列車事故が ほど遠くないエリアで起きていて、多数の死傷者が出た、と一面に大きく載っている。
関連記事はほかの面にも続き、事故現場の様子、原因を探る記事、身元が判明した死傷者のプロフィールなどで紙面は埋まっていた。
これって〇〇駅じゃない、えっ、何時のこと?
職場の仲間も知り合いも乗る電車なだけに背中からざわっとして、ナリちゃんに振り向いて声をかける。
ナリちゃんはちょっと悲しそうな顔のまま、ソファーでうつらうつら二度寝をし始めたところだった。
ナリちゃんにとって大事なことは どんな事故や大災害が起きようと変わらないんだろうな・・・
ある意味すごいヤツなのかもしれないな・・そう思いながら 新聞の文字に目を落とした。
*
ナリちゃんは毎朝コンビニで新聞を買ってきてくれる。
パンとか買えば?というと ナリちゃんはふっくらしたほっぺたを更に膨らませて答える。
「だってダイエット中だし」
「そんな朝から要るものなんて別にないよ」
そう言うと、ナリちゃんはひどく悲しそうな顔をして、あからさまに肩を落とした。
「しんぶん」
慌てて言った。思いつきだった。
無理やりでも用事を作ってナリちゃんがそこへ歩いて通っていく理由は後から知った。
ナリちゃんはもうひとつの近いコンビニを通り越してわざわざ信号を渡ってそこに行く。
自転車に乗ると寝ぐせの髪をせっかく整えたのに意味なくなるもん・・なんて、まあ朝早くからご苦労なことである。
ナリちゃんは職場の同期だけど4つ下の高卒で、遠方の田舎からの就職組だ。
私は地元なので、今までは普通に実家から仕事に通っていた。
窮屈な寮をやっと出たナリちゃんは、自分で思っていた以上に怖がりでさみしがりだった。
なんだか一人暮らしが心細くて・・と毎日涙目になってこぼすのを聞いて、
私は親の目から自由になりたい一心で ナリちゃんのところに転がり込んだ。
ナリちゃんのその素朴でまじめな人柄は、うちの両親の完璧な信頼を得、晴れて私は親離れに踏み出せたのだった。
だからって言うんじゃないが、私はナリちゃんの喜ぶ顔には めっぽう弱いのだ。
*
ナリちゃんの知りたかった「彼」のプロフィール。
事故の被害者の欄に見つけた。
一度だけナリちゃんに連れられて一緒にコンビニに行って顔を見ただけだけど、名札に子どもみたいに大ざっぱな字で書かれた、その名前を覚えている。
名前に歳に出身地。学校に夢に 性格。
子どものころどんなだったか。友だち 両親 先生の 惜しむ声 声 声。
数日中にもっと詳しく 被害者ひとりひとりの今までの生きざまなどを知ることができるだろう。
ナリちゃんの邪気のない安らかな寝顔を見て思う。
ナリちゃんの夢の中。
彼は期待の大型新人として、TVの番組のスタジオでナリちゃんと今、涙の対面を果たしているのかもしれない。