STAND BY ME

生きることにちょっと 不器用な子どもたち、もと子どもたちの 短いお話を 綴っています

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「び」~病気のこと 少し

hosi.png




おかあさんの 病気について 少し 話しておきます。

キミたちは ちょっとくらいは 覚えているのかな。



それは とっても 突然で ひょっこり顔を出したんだ。

左の胸の上 何となく触ったら 
ビー球くらいの こりこリ があった。



相変わらず お母さんは カンが悪い。


肌着のワイヤーが いつも当たって痛かったから、
そのせいで 何か出来たのかな

なんて 思ってた。

でも やっぱり ちょっとは 気になって、
1週間くらいは 本を読み読み考えた。

似た症状の 病気のところを読みながら

一番 深刻そうじゃないのを 何回も読んで、
コレならいいなぁ・・って思ってた。



おとうさんにも相談して 
やっぱり 病院行こうって決めたんだ。





おとうさんの 大きなジャンバーを 
その日だけ はおって 出かけたよ。

やっぱり 不安だったんだね。

いったい 何科に行けばいいのかさえ 解らなかったよ。

病院なんて 自分のことでは ほとんど縁がなかったもの。



何日かに分けて 色んな 検査をして 
結果を聞く日になった。

おとうさんと ふたりで行った。





よく ドラマにも出てくる 病名だったよ。

そのなかでも「悪いカオした」ヤツだと 先生は言った。



色んな説明があった。

手術の日程を 向こうから決めてきた。





何が 一番 気がかりだったと思う?



それは 幼稚園の クリスマス発表会のことで

それは 入院中の ご飯の用意のことで

それは 今 クラスがゴタゴタしてて 楽しくない学校生活をして

傷つきやすくなってる お姉ちゃんのことだった。



何よりもまず おかあさんが 先生に聞いたのは


おかしいと思うかな?


違う病名で それを 人に言うなら  
何て言ったら 一番いいか ってことだった。

何日で 家に帰って 普通に過ごせるかってことだった。



キミたちが どこかで 心無い言葉を聞いて 
傷つくことだけが 心配だった。

薄っぺらな テレビドラマ見て 心配をつのらすことが嫌だった。



キミたちが おかあさん無しでも

支えてくれる大好きな人たちと 元気にやっていけるのは
いったい 何年後かなって

とっさに 数えてみた。

何年後だったら 大丈夫かって 考えてみたんだよ。





親なんて そんなものなのかも しれないね。

いや、他の「親」は もっと 
ちゃんと 考えなさるのかもしれないよ。



ただ おかあさんは

残された人が 残ったことで傷つくのが 一番哀しい。

残された キミたちが 幸せに笑ってるのが 一番 嬉しい。

それだけは 忘れないで。







あれから 何年もたったけど 
おかあさんは 今のところ 元気です。



胸にマジックで 治療の目印の バッテン 描かれてて 

お風呂で へんなの、って笑ったことも、

少しの間 点滴に通うのに 付き合ってくれたことも

キミたちはもう 忘れちゃったかな?



おかあさんの 今の目標 知ってるかな?

あのね

みんなを 安心させること。

大丈夫。 
こうやって 病気とつきあいながらでも きっと 笑って生きられる。

大丈夫。 
身体の形が多少悪くなっても 問題なんて 何にもない。



家族で 協力して 団結して 病気と 闘うのは
もう少し 先に 延ばしたい。


今は こんなでも いいかなって


そう 思っているんだ。





少しずつ 話すから また 聞いてね。









(このシリーズは、 「おかあさん」が子ども達に語りかけるかたちをとって 私自身のことを 少し お話させていただいています。)
スポンサーサイト

「は」~母 (陽だまりの部屋)

俳句の屁散人さんがHPの「今日の一句」を「雲のあしあと」という本にまとめられました。
日々 感じたこと、考えたことを綴った 短い文章(詩)と一句、
そこに 懐かしさや あたたかさが いっぱいつまっています。
ご了承頂いて、その中の 一編から イメージを頂いて stotyを作りました。
(内容は すっかり フィクションになっています。
     登場人物は 屁散人さんとは 関係ありません) 
 

mamegiku.png



電話の 姉のナミエの声は 
ひさしぶりに おだやかだった。

─ とにかく一度 お線香くらいあげに 帰ってきなさいよ。
 大丈夫、もう 説教したり説得したりする気も ないからさ。





 田舎に残って 父母と同居し 
 その条件で結婚相手を探した 姉のナミエには
 色んなことで 迷惑をかけた。

 語学が勉強したいとか 
 適当な理由をつけて 家を出た時 
 父親は カンカンに怒った。

 けれど母親は 
 姉夫婦が 小遣いとして 月々くれるお金を
 こっそりためて ユキオに仕送りし続けてくれた。

 小さな畑でできた野菜と一緒に 
 それを 送っていたことを
 後で知ったナミエは 
 当然だが 気を悪くした。




一度も帰らないユキオのために
そのまま おいておくよりも
小学生になった息子のショウタに 
部屋を 空けてやって欲しいと ナミエが言ったとき

母だけが 頑として譲らなかったという。



─ 好きにしなよ、どうせ 帰らねぇから。

部屋にあるものは全部 捨ててくれたって構わない。

ナミエの電話にそう言い放って
ユキオは連絡を絶った。



父親が 亡くなったときも 
今更 長男ですと のこのこ出ていけないと思ったので
葬式にも出なかった。



そして数年の後 母親も 
あっけない程静かに 亡くなった。

電話でナミエと話しているうち またケンカ腰になり
そのまま葬式にも出ず 
残されたもの一切いらないと放棄した。




どうせ 帰っても 居場所がないんだ。

ユキオは そう思っていた。







「お母さんの部屋よ。」

柔らかい日の当たる 小さな部屋だ。
陽だまりの畳に 母が座って 
今にも「おかえり」と 声をかけてきそうだった。



「入りなさいよ。」

─ 今更 何を 見せたいんだ。
ふてくされた顔で 姉に続く。

一歩踏み入れて ユキオは言葉を失った。
驚いたことに、奥の壁際の一隅が 
そのまま「ユキオの部屋」だったのだ。



懐かしい勉強机 本棚 ベッドに ギター。

ポスターや 写真の類は さすがに壁にはなかったけれど
きれいに まとめて ベッドの上に置かれている。
母がベッドを使っていたわけではないことは すぐに解かった。



「私が 使うんだ って 
 母さん、ひとりで全部 運びこんだのよ。」

身体の小さな母が 背中を丸めながら 
ひとりで この勉強机を運ぶ姿を ユキオは想像した。


「ばかなものよね。母親なんて。」





ちょうど 開いたドアから、ナミエの息子のショウタが覗く。

「あれ、おじさん 久しぶり。 
  なんだ、生きてたんだ。」

ショウタは ニッと笑って、そのまま通り過ぎようとする。




─ カアサンには 内緒なんだけど・・・
  家を出て 大学行きたいんだ。
  就職も できたらそのまま、そっちでしたい・・・。


ショウタが 電話でユキオに相談してきたのは つい最近のことだ。





「子どもなんて、いつの間にか こんなに大きくなってさ
 結局 ふらふら どっかへ 行っちゃうんだ。」


自分より 背の高い息子の うしろ頭をパコンとたたいて

ナミエは ため息をついて 少し笑った。



「の」~のら 駐車場のねこ

 noraneko.png


1階だったら 良かったのに・・。
弟のシンヤは よく そう言う。



ウチは ペット禁止のマンションの 12階。
子ども部屋の窓から 見下ろすと 
小さく駐車場が見える。

子猫の「のら」を見つけたのは 
その 駐車場の 植え込みの中だった。

そばにあった 白いトレイに 
何かエサが 入れられていた形跡があるが
もう すっかり 乾いている。

空腹なのか みゃー みゃー情けない声で鳴いていた。



「お姉ちゃん、牛乳とか やっちゃ ダメ?」

12階まで上がることも 大変だったけど それよりも・・

「ダメよ  アンタも知ってるでしょ。
 この前 向いの棟のおばあちゃんが・・」



動物好きの 1人暮らしのおばあさんが 
野良犬や野良猫にエサをやっているのは 
大抵の人が 知っていた。

本当は 敷地内で エサをやるのも禁止なのだ。



おばあさんがエサをやるので 
のら犬や のら猫が居つくようになったのだ、と
専用庭に ウンチやオシッコをされた1階の人が
言い出した。

おばあさんは そこの人に かなり厳しく文句を言われ
管理人さんは 「犬、猫の嫌うにおい」 のする粉末を
あっちこっちに 撒いて回った。





「エサやっちゃ やっぱり ダメかなぁ・・」
ママに 何気なく言ったら
ママは 私の 生物や保健や公民のテストの成績のことを
急に持ち出して

─そんなことも ちゃんと考えられないようだから あんな点取るのよ。

猫の柄のエプロンをつけたまま ぶつぶつ言った。







シンヤが こっそり 煮干やチーズを 持ち出して
「のら」にやっていることは 知っていた。
「のら」は すっかり大きくなって 堂々とした野良猫になっている。

チビのシンヤが それでも
赤ちゃんに言うような調子で「のら」に話し掛け、
指先を ペロリとなめてもらうだけで 嬉しそうにしているのを
笑いをこらえながら見るのが 私は好きだった。





ある夜中のことだ。 
シンヤが 窓を指して言った。 

「お姉ちゃん、のらが 来た。」



寝ぼけてるんじゃないの? 
いないよ。 大体ここ 12階だよ。

念のため ベランダに出てみたが 猫なんて いなかった。
私に探させておいて シンヤは とっくに寝息をたてていた。

その日から「のら」は ぱったり 駐車場に来なくなった。



動物好きの あのおばあさんが 
ひとり ひっそりと亡くなっていたという話は 後から聞いた。

あの夜だったんじゃないかな・・と ちょっと思う。
おばあさんは そのとき ひとりぼっちなんかじゃなかった

「のら」がいた・・そう思いたい。







「ルナちゃん」「ルナちゃん」

シンヤと 商店街を歩いていたら
店先でエサをもらっている「のら」そっくりの猫を見たのは
何ヶ月も 経ってからのことだ。


喉を鳴らし、おなかを見せて寝転ぶ様子を見て
飼い猫ですか?と聞くと 通い猫だという。




「『のら』じゃない。」
シンヤが 猫を横目で睨みながら言った。

「『のら』は あんな 甘え方する猫じゃないもん。」





元気に生きてて 誰かに可愛がられてたほうが いいじゃん・・・

そう言いかけて見た シンヤの目が 赤かったので
言うのをやめて 久しぶりに シンヤの 手を取った。


以前より少しだけ 骨ばった感じのするその手を 
きゅっと 握って

何も言わずに ふたり 歩いた。






「ね」~ねこ(風と草の記憶)

cat.png



サワサワ ザワワ
いうのは 何?


ぼんやり 明るくなって 暗くなって
明るくなって 暗くなって

ボク うとうと 眠ってたんだよ。

そしたら いつのまにか

大きくて あったかくて
優しい 場所が

なくなっていた。


くちゅ くちゅ くちゅ
押し合い へし合い だんごになって 飲んだ
あの おいしくって しあわせなもの

そばに ない。



サワサワ ザワワ
音が 大きくなると
ちょっと こわくて


おんなじ大きさの あったかいぬくもりを
探し合って ひっついて また 眠った。

寒くは ないけど ぷるぷる ふるえた。


ミィミィ チィチィ
みんなで 呼んだ。

どこに いるの?
オカアサン。







明るくなって 暗くなって
気がついたら 
そばに もう だれも いなかった。


サワサワ ザワワ 音だけがした。
あなた だれ?
ザワザワ言わないで こわいから。

私は 風。 
サワサワいうのは 草の葉さ。
大丈夫。風も 草も おまえさんを いじめない。

こわいのは もっと もっと 別のもの。







色んな ぬくもりが 通り過ぎた。
抱き上げられ ほおずりされ 
下ろされた。

しっぽを つままれ 足をひっぱられ
なでまわされた。




おなか すいた。


いいにおいのもの 誰かがくれたけど
飲み方が わからなかった。

チュウ チュウできる あのやさしいぬくもりなら
おなかは いっぱいに 満たされるのに。






チクンとした。
キミは 誰?


オイラは 虫。
大きくなったら ネコは オイラを 追いかける。

気をつけな。
上から カラスがねらってる。

アンタがしっかり 育つまでは
鳥の方が だんぜん 強い。

気をつけな。
急降下してきたら オダブツさ。





ふわりと また 抱き上げられた。
そのまま 静かに なでられた。

オカアサンの ザラザラの舌の方が 気持ちいいけど
なんだか 安心できる あたたかさがあった。





オマエの幸運 祈ってるぜ。
虫が言った。

幸せにおなりね。
草たちの コーラスが聞こえた。





風があたらない物の中 ゆっくり ゆっくり下ろされた。

ユラリ ユラリ カタ カタン
ここは どこ?

ユラリ ユラリ カタ カタン
ボク どこに 行くの?

風の音が 遠い。








「ただいま。」

「なぁ ママ どうしよう。」

「何?何なの?カバンの中?」




やわらかい さっきの手が 明るいところに 連れ出した。





幸せにおなり、幸せにおなりよ。
風が ささやいた。


やわらかい手 
安心になる この におい。







明るくなって 
明るくなって

何でも見えるようになったら
この手の上を ちゃんと 見上げて

いっぱい いっぱい 言おう。



ありがとう。
だいすき。









ここから 実録blog「我が家に猫がやって来た~なずなさんちの大和くん」に 続きます 。
ここで「ママ この子飼っていい?」って すぐにかわいらしく言わないのは 実際の場面とリンクしたかったからです。ちょっと変な セリフですが・・

「に」~虹の橋

「虹の橋」の話を知っていますか?
ご存知ない方(ご存知のかたも) yuさんが訳して素敵なイラストをつけているので 
そちらのページ
をぜひ見てくださいね。
2つの「虹の橋」の話と yuさんの作ったお話があります
こちらの 挿絵もyuさんから頂きました。









タクを追いかけて シュウジも教室を飛び出した。

驚いたり おもしろがったりして騒ぐ みんなの声 
あわてて静かにさせる 先生の声

─よそ見してるのを先生に注意されたから タクがキレた

そういう声も 聞こえたけど
違う 違う そうじゃない

シュウジは 思う。



授業中 タクがぼんやりと 雨あがりの校庭ばかり見てたのを、
シュウジは その前から 知っている。

はじかれたように 立ち上がって、教室を飛び出したのは
先生の 言葉とは 全く関係ない
そんな 気がする。

階段を降り、くつ箱に急ぐ。

下足場に タクの上靴が ばらばらに 脱ぎ捨てられていた。 
タクの足は 学年一速いから 普通に追いかけたって
追いつきっこない。




   昨日、お母さんが タクのことを話してきた。

   なんだか 変な中学生と一緒にいたのよ。
   スニーカー踏んで だらしないシャツの着方して。
   眉毛なんかも こーんなに細くしちゃってて・・。


   そんなことは とっくに 知っている。

   タクは かまってくれる人が 好きなんだ。
   タクは 誰よりも 寂しがりやで
   タクは 誰よりも甘えん坊だ。

   そんなことは とっくに解っている。

   気になってたのは そんなことじゃない。



   最近 教室でも外ばかり見てて 
   ゲームの話にも乗ってこないし
   プロレスのワザも かけてこない。



   「アイツなかなか 死ななくってさぁ。」

   ゲームの悪役キャラの話をしていたら
   急に 怒り出したことがあった。

   「コロシテヤル~」

   プロレスごっこで 叫ぶ子の 
   足を思いっきり蹴って どっかへ行った。


   嫌な 予感がした。
   どう 切り出したらいいか 解らなかった。



   「そうそう ゴールっていったけ あそこの犬。
    死んじゃったんだって。
    かわいそうにね、
    あの子 ほんとに可愛がっていたのにね。」
  
   お母さんは そんな大事なことを 
     最後の 最後に 短く 言った。







やっぱり・・

シュウジがタクを見つけたのは 校庭の隅っこの「砂山」だった。

そこだけ小高くなっていて サッカーゴールがよく見える。

1年生の頃 トンネル掘ったり 水を流して川にしたりして
よく遊んだ。

その すぐ下の茂みのあたりで 
タクは「ゴール」を 拾ったのだった。

家に 子犬を連れて帰ったタクが
その日から どんなに 急いで 家に帰ったことか。

家のカギを 首から提げて 
いつまでも ダラダラとしゃべっては 
シュウジを引き止めていたタク。

そんなタクが 
「ゴール 待ってるから。」

その速い足で 走って帰る。



「ゴール、カギ開ける前から 玄関で待ってて
 お帰り、お帰りって 飛びつくんだよ。」

タクは 何度も 何度も シュウジに その話をした。







「虹の橋 って 知ってるか?」

「砂山」をそっと上って来た シュウジに 背をむけたまま
タクは 話し出した。

雨上がりの空。
タクの 見てる方角に 大きく弧を描いた 虹が見えた。
こんな 虹を見たのは シュウジも初めてだ。

「先に逝ったペットが 待ってるんだって。

 天国の手前にある 綺麗な 野原でさ、
 そこで 元気に 走り回って 遊んでて・・・
 大事にしてくれた パートナーを 待ってるんだって。」

シュウジの返事を待たずに タクは続ける。

「オレ、この頃ずっと ほったらかしてた。
 あっち行ってろ バカ犬って 人の前で言った。
 オレ・・・ 全然大事になんか してなかった。」

タクの投げた石が サッカーゴールの隅に 
コツンとあたって 転がった。





「待ってるよ、ゴール。」


少しずつ 薄くなっていく虹を 
まだ 消えるな と 心で念じながら 
シュウジは タクに言う。

「いつも 待っててくれたんでしょ?」


タクは 転がった石の行方を じっと目で追っている。




「待ってるよ きっと。」


「絶対 タクちゃんのこと 待ってるから。」


顔を上げて タクが やっと こちらを向いた。





顔を見合わせると、
不自然にカットした タクの薄い眉毛に 嫌でも目がいく。

シュウジの視線に気がついて タクは 眉毛に手をやった。

「今日のは 失敗した。」

テレくさそうに 眉毛を触るタクの表情は 1年生の時と 変わらない。


「そんなに 変か?」

「かなり 変。」


タクが ツンと肩をこづいて来る。
シュウジは それをかわして 「砂山」を駆け下りる。









「砂山」の上と下で いつまでも ゴールの話をした。

虹がだんだん見えなくなって 消えてしまっても
まだ ゴールの話をした。




もうすぐ 梅雨が 明け 

夏が来る。



「な」~夏まつり(金魚)

嬉しいコラボのお話が 来ました。
今回のお話は 「卯兎卯兎 Makroうさぎ」さんが 挿絵を描いて下さいました。
感謝、感謝です。


kingyo-only.jpg


「盆のころ 一度帰って来いよな。
 夏祭り 同窓会にしようぜ」

メールしてきたのはユウジのくせに
コイツは  何の計画も立てず、誰にも連絡してない。

「お前、小学生の時から、ほんっと 変わんないな。」

二人で 夜店を ぶらぶら 見ながら 歩いていた。
まぁ いいや 誰に会いたいってわけでも ないし・・。

 

「やっぱ オトコ二人じゃな・・。誰かちょっと探してくるわ。」
 止める間もなく、ユウジは どこかに行ってしまった。



中学のとき引っ越したきりだから 
タカキ一人で歩いても、誰も気づかないかもしれない。

何で、来たのかな・・

石段の下に立って、ぼんやり 賑わう人波を 眺めていた。




「タカくん?」

子どもっぽい 金魚の柄の浴衣の 女の子が 段の上に 立っている。

人ごみ 喧騒は 相変わらずなのに 
その子の周りだけ 空気の色が違うように見えたのは なぜだろう。


「ユキオカ?」

すぐに 解ったのは、ユキオカが 全く変わっていなかったからだ。

トロくて 赤面症で チビだったくせに 
中学になったとたん 背が伸びて・・・何だかムカついた
幼なじみの ユキオカ。


「背、伸びたね。」

「あたりまえだ。 何年経ってると思ってんだ。バカ」

ユキオカは 金魚が一匹だけ入った ビニール袋を 提げている。

「全然すくえなくて・・。一匹 もらっちゃった。」 

「トロくせぇの。」

「私んち 水槽ないんだ。
  タカくんち金魚好きでしょ。一緒に育てて。」

「決め付けんなよ。いらねぇよ そんなの。
 いじめられるか 弱ってすぐに 死んじまうに決まってら。」


言ってから ドキリとした。

タカキの心を 見透かしたかのように ユキオカは言った。

「タカくんには 一度 助けられたね。
  オマエらの方が よっぽど ウゼえんだ・・・って
  怒ってくれた。」


あいつらが ただ 嫌だっただけだ。
他人をいじめることで 仲間のつもりになって ・・。

オレがユキオカに ポンポン物を言うのも 
一緒じゃないの、って逆ギレしてきた。


「助けてなんか ないし。」

「うん、でも 嬉しかった。」






「おーい タカキ。 
   あれ? 金魚すくいしてたの?」

「え? あ、これ 今 ユキオカが・・。」

ユウジに答えて 振り向くと ユキオカは もういなかった。


「ユキオカって お前、それ 人違いじゃないの?
 アイツ高校行ってから 不登校になって・・
・・・・うわさではさ・・・」

花火が 大きな音を立てて上がり、

ユウジの言葉は もう聞こえなかった。







「新しい 仲間だぞ。
  トロくっても いじめんじゃ ねえぞ。」

小さな赤い金魚を タカキは 水槽に そっと 放った。


元気に泳ぎ出す様子を 少し 眺めてから
もう一度 ひんやり冷たいガラスに顔を近づけてみる。  

「オマエ 絶対 負けんじゃねぇぞ。」


ひらひらと 赤い尾ひれを揺らしながら 
金魚は ゆっくりと 
タカキの方に 近づいて  離れた。




natumaturi-nazunasan.jpg

なんと 背景つきも 描いて下さいました

「て」~てつぼう

tetubou.png

クル、クル、クル、クル・・

1人きり 公園の鉄棒、
サツキは 風切って 回ってた。

空中逆上がり・。
長い髪の隙間から日の光が漏れる。

「サルみたい」

いつも学校で皆が言うように、クミコはつぶやいてみた。

けれども 心の底で どんなに感心してるか解っている。
・・かっこいい・・とさえ思ってた。


「キモトさん、鉄棒 練習するなら ここ 空いてるよ」

回るときに クミコの姿が見えてたのか、
タケダ サツキが声をかけてきた。

そして クミコが答えるのも待たず
「あ、そうか、鉄棒は見学だったっけ。」




幼稚園のとき クミコは鉄棒から落ちた。
よく覚えてないのが不思議だが 
骨折だけでなく何針も縫う大怪我だった。

だから、1年生の時 鉄棒を前にして、
クミコが気分を悪くして倒れたと聞いて、
お母さんは「もう無理しなくってもいいのよ」と言った。

心理的な要因・・とお医者さんは説明した。



毎年、クミコは誰にも内緒でここに来て 鉄棒に触ってみる。

今年は できるかもしれない
・・ひんやり冷たい鉄の棒に 身体を押し付けて、ぐいと伸び上がる。

「無理しなくていいよ。」
母親の声が 聞こえる気がして、手を止める。



「いいじゃん、しなくていいならさ。」

大人びた物言いをする サツキは、
いつも 皆から少し離れた距離にいた。

家庭の事情とかで 可哀相な子らしいよ
・・母が言ってるのを聞いたことがある。

「鉄棒なんかできなくたって、困らないよ。」
サツキは さらりと言ってのける。
得意なくせに、バカにして・・・。
クミコは少し ムッとした。

「でも タケダさんはいつも気持ちよさそうに回ってるじゃない。
                私には無理かもしれないけど。」


サツキは ひとの顔をまっすぐに見る。
自分の心を見透かされてるようで 居心地が悪い。

クミコが 視線を落とすと、
サツキは 身軽な動作で、おしりから鉄棒に飛び乗り、
足をぶらぶらさせて、座った。

「いいこと 教えてあげようか? 
   クルクル回るより、私が好きなのはさ・・・」

そして ひざを鉄棒に引っ掛けて、さかさまにぶら下がった。

「こうして、逆さに 風景見るんだ。
   いろんなことが 違う風に見えてくる・・・。」




そして、少し長い沈黙のあと、クルリと回って 元の位置に着地して、
「キモトさんも、やってみなよ。補助してあげるからさ。」

嫌だ、やっぱり止めるよ、怖いよ、落ちるよ・・

サツキは 泣きべそかくクミコの身体を支えて 鉄棒に座らせた。

「大丈夫だよ、絶対離さないからさ。
      たまには ひとのこと 信じなって・・。」

たまには・・って何よぉ・・

ふわりと 上半身が後ろ向きに倒れた。

「あっ」
一瞬血の気が引く。

けれど 背中は サツキの手にしっかりと支えられていて、
ゆるやかに後ろに倒されていった。



さかさまの世界。

ひざに触れる 久しぶりの鉄棒の感触。

地面の小石、短い草、生垣 高い木のこずえ・・

空・・・青い 深い 空。



横から声がして、気がつくと 
さかさまにぶらさがったサツキが 
一緒に並んで 揺れていた。

「ほぉらね、案外 いいもんでしょ?」


「タケダさんたら、足 ちゃんと持っててよぉ
     ・・・絶対離さないって言ったくせに・・・」
情けない声で、クミコが叫ぶ。




さかさまの世界で、クミコとサツキは 思い切り笑った。


きらきら 木漏れ日が さかさに ゆれた。


「つ」~つえ

20050624173101.png

母親とケンカした。

クラブもずっと 行ってない。

授業 抜け出して 塾もパス。

何をやってもつまんねぇ。
やりたいことなんか何もない。
どいつもこいつもつまんねぇ。




ユウキはイライラした足取りで 土手の道を歩いていた。

風景がみんな、ヘタクソな 書き割りの舞台装置に見える。



何かがコツンと ユウキのかばんに当たる。
「何だ?」

白い棒が、コロコロ斜面をころがり落ちていった。

振り向くと、白髪のじいさんが 立っていた。
目が見えない人らしい。
歩くのに必要な「白い杖」ってヤツだ。


「すまんがぁ、キミぃ 
  杖を拾ってきてはぁ くれまいかぁ・・」


知らん振りして、行っちまってるかもしれないんだぞ
もし そばにいたって、危ねーヤツかもしれないんだぞ

困ってるくせに、やけにニコニコして、
のんびり話す じいさんだ・・

チッと舌打ちして、ユウキは杖の行方を目で探した。

草丈が高い。

上から見ても 杖の場所は判らなかった。


 かばんをドスンと置いて、
「かばん、ここ、置いとくから。」

じいさんをかばんのそばに座らせた。
車が来ても、危なくないところだ。


ガードレールを飛び越え、ザクザク草をかき分ける。

何かのファンタジーに出てくるじいさんみたいだな。
マントと三角帽子の姿を想像し、
想像する自分に少し驚く。



数年前、弟と、ファンタジーの物語にハマってた。
そんなことも、すっかり忘れてた。


湿った土。

靴の裏を通しても解る 懐かしい 感触。


小学生の時は、ここでよく遊んだよな。

中学になって、タカヤは野球部で忙しくなったし、
ハヤトは塾と家庭教師でヒーヒー言ってる。



水の中、キラリと光って、川面をはねるものがある。

サカナ!

釣りはタカヤが上手かった。
ハヤトは、魚の名前をたくさん知ってた。

ふざけて、川に落ちたこと あった。
うちのカアサンは、おぼれたって思ってて、
顔見たとたん、わんわん泣き出したっけ。



手を切りそうな、鋭い葉。
触るとやわらかい 葉。
土のにおい。
草のかおり。




「花ぁ・・いっぱい・・咲いとるだろう。」


突然 じいさんの声で われに返る。

「残念ー。・・・草ばっかだぜぇ・・  
         雑草・・・・だけー。」

じいさんに合わせて 喋るテンポが遅くなる。



草をかきわけて 進むうち 
これは カラスノエンドウ・・こっちは スイバ・・

そんな名前を知ってた自分に また驚く。


「やっぱり、花、咲いておろうがー・・。」

じいさんは 気持ちよさそうに 笑っている。

上で座ってるだけのくせに しつこいなぁ・・
そうは思ったが、気をつけて見るうちに、

小さい小さい「花」が、ひとうひとつ 見えてきた。

そこに 一種類・・あそこにも 一種類・・。

ザーッと 風が吹き抜けて、顔をあげると
周りの景色が 何だか急に、鮮やかに広がった気がした。


「杖、あったぜー」

土手に上がって、白い杖をじいさんに手渡すと、
じいさんは ニッと笑って 礼を言い、
杖をついてスタスタ歩き出した。


ユウキは はじめ、その後姿をポカンと見ていたが
  
オイ、ひとりで大丈夫なのかよ

一歩踏み出した。



じいさんは、クルリと振り向くと、
杖を ユウキの胸の高さにツウッと上げて、円を描くようにすると


「ここで 見る。 何でも 見える。」


そう言って、高らかに笑った。



強い草の香りがした。

川面に キラリと魚がはねた。

土手には 幾多の花が 揺れていた。


「そ」~ソーイングボックス(ちょっと昔の話)

20050621182957.png

リツ子は、こどもの物を買うとき、
「皆と同じ」のを買うのが嫌いだ。


学校で買い揃える教材でも、「おうちにあるもの」でも
「お下がり」でもいいといいながら、
一括購入の申し込み袋が配られる。


「質の割りには、特別安いっていうならまだ考えるけど・・」
リツ子は エリに言った。

「きっと おんなじくらいの値段で、もっといいのがあるよ。
 それとも、綺麗な箱を探して、中身を買い揃える?」



日ごろから あまり意見を言わない 娘のエリを連れ、
電車に乗って、よそ行きのお洋服で デパートに出かけた。

もちろん 嫌だというものを無理やり買ったり、
したくない という 習い事を させたりする気はない。

はっきりしない娘の 表情の変化などは、
ちゃんと気配りしてやってる ・・と思う。



近所の小さなスーパーや 市場の洋裁小物店も 下見に行った。

いいものを 意外と安く、上手に買うのが リツ子の自慢だった。

デパートをふたつ 見て回って、地下街も行って
・・ そういう買い物は、ちっとも苦にならない。

案外、思ったものが無く、
エリが 疲れた 泣きそうな顔で 付いて来るので、
そろそろ ここで決めよう と 
デパートの 洋裁小物売り場に行った。

   
あったのは 水色の四角いプラスチックケースで、
ふたには クラッシックカーの絵が ついている。

上の娘なら気にいるかも知れないが、
エリのセンスではないのは 確かだ。
店員に聞いても、他の色も柄も ないという。


「しゃれてるじゃない?」

青が男の色だとか、車の柄はどうだとか、
リツ子は そういうことにこだわるのは 好きじゃない。
エリさえ嫌じゃなければ いいんじゃないか・・。


「これでも いい。」
疲れきった顔のエリは、「嫌」とは言わなかった。

気に入ってるわけじゃないことは 解っているものの、
折角ここまで来て、探し回ってやったのに・・と思うと 
浮かない顔のエリには 正直腹もたつ。

強引に買ってしまった後悔も 少しは・・・ある。



ちょうど文具売り場で、
エリの好きそうな サクランボのシールを見つけて、買ってやった。

「これ、貼ったら 可愛くなるよ」




家に帰ってすぐ、エリは不器用な手つきで、
ソーイングボックスのふたの、
クラッシックカーの絵柄の周りに シールを貼っている。

思った位置に貼れなくて はがし、また貼って
・・としているうちに 
新品のソーイングボックスが シール跡で汚くなっていく。

そこを ものさしや はさみで コリコリとこすっている・・。

案の定 傷がつく・・。
          


黙って見守るっていうのも、疲れるものだ・・と、リツ子は思う。






家庭科の授業で、初めて エリが 
学校に ソーイングボックスを持って行った。

帰って来たとき、リツ子が
「他にも お下がりの子とか、別のを買った子 いたでしょ?」
と聞くと、

うつむいたままのエリは

「○○君のと一緒だった・・」
と 肩を落として 部屋に入ってしまった。



後から聞いた話だが、その年の 一括購入の品は、
ビニール製で マジックテープ留めの ふたがついていた。

針やはさみで遊んだり、乱雑に扱う子も多く、
すぐにビニールを破って 使えなくした子が 何人もいたそうだ。



エリがその後、どれくらい
そのソーイングセットを大事にしてくれたのか、

リツ子は聞けないでいる

「せ」~背中

senaka.png


「オイ。」

ナツの 赤いランドセルを ぶらぶらさせながら、
数歩先を歩いていたタカユキが 立ち止まり、急にしゃがんだ。

手の平を上にして 後ろに回した腕と、斜めに傾けた背中が
おぶってやるから早く乗れ、と言っている。


「ちんたら歩いてたら、遊びにいけねぇんだよ。」

「送り届けなかったら、オレがセンセに怒られんだ。」

タカユキは怒った声でそう言った。






体育の時間、ナツは足をくじいた。
送って帰るように言われたのは、近所のタカユキだ。

小柄なナツにとって、
最近いちだんと身長の伸びた タカユキのその背中は 
すごく大きく、広く感じた。

              
コトン コトン 揺れる地面を見ているうちに  
だんだん恥ずかしさが 消えていく。

温かくて、安心な気持ちになる背中だった。



              
コノ子ヲ 泣カシタノハ ワタシダ・・。

この前の 給食の時間を思い出して ナツは胸がチクンとした。


そう、まだ、謝ってない。

急に心臓が ドクンドクン 鳴り出した。
背中を通してタカユキに 伝わりそうな気がする。







☆  ☆  ☆


あの日 タカユキの皿を すり替えた。
周りの子たちも見ていた。  
少し意外そうな顔をして。

人気の給食のおかずの、大盛りを狙って、
互いの皿を すり替えるのは、
男子の中で流行っているイタズラだった。

ナツは そんな悪ふざけの仲間に入った事は 一度もない。
タカユキと幼なじみといっても、
あまり 気軽にしゃべることも なくなっていた。


「オマエか、それ、オレんだろ?」
タカユキが指さしたのは、いつもの悪ふざけ仲間の男子だ。

もちろん、その子は犯人じゃない。

ナツはドキドキした。    
次はきっと 私に聞いてくる。
それとも、あの子が、私がやったこと バラすかな・・。


けれども、だれもナツのことを言わず 
タカユキもナツを問い詰めない。

無責任なニヤニヤ笑い・・。
クスクス笑い・・。
とぼけて、からかう男子たち・・。


言い出すタイミングを無くして ナツはうつむいていた。

結局 日直の「いただきます」の声がかかって、それも静まり
タカユキは猛然と 自分の机の給食を 食べた。

そして一番に 昼休みの校庭に飛び出して行った。


皿を片付けているタカユキの 頬に
ぽろりと 光るものを 見てしまったのは、
隣の席の ナツだけだったはずだ。




コトン、コトン 地面 揺れる

トクン トクン 心臓が 鳴る

謝らなくちゃ・・

謝らなくちゃ・・・・

だんだん家が  近づいてくる。



      
背中に おでこを 押し付けたまま

「ごめん。この前、タカユキくんのお皿 すりかえたの 私なんだ。」

やっとのことで、ナツが言うと

背中が、静かに      左右に揺れた。
              

「す」~水泳の授業で・・

su.png

あおむけに 浮くの・・好き

空  青くて、深くて
雲  流れるのが 解る。


25m、進もうと思ったら
足 パタパタさせてたら、 いつか つく。

他の泳ぎ方、上手なヒトは 楽しく 泳げるのかな。
私、ダメ。
"平”だと沈んでいくし クロールって・・息の仕方が解らない。

テストの時なんか、カタチだけ顔上げて、
息 止めたまま  25m泳ぎきった。
苦しくて 倒れそうになった。


向こう半分で 男子もしてるの。   授業。
見たくないの・・上半身。何で見せるの?
女子のスクール水着姿も 嫌。


あ、鳥 飛んでく。


このまま じっとしてたら ずっと 浮いていられるのかな
眠ったら 気づかないまま  沈んでいくのかな。
それって、空に溶けていく 感じかな。


スイム・・水泳・・スイスイ・・お・よ・ぐ・・・

何で皆、「スイ」なのかなぁ・・って言ったら
タカちゃんが、
 
━ユリってやっぱり 変わってるねって言った。
 
2組のノダさんとしゃべってたら、
サッちゃんにタカちゃんが

━ やっぱり 変わってる同士、気があうのよね
って コッソリ言うの 聞こえちゃった。

ちょっぴり 悲しかった。



皆と同じがいい とか、「普通だね」って言われたら 
嬉しいかっていうと
そういうわけじゃないんだけど・・。

ないんだけど・・・。


あ、ひこうき雲。
        

*  *  *  *  *
   

「~ちゃん」
「ユリちゃん~」


「ヒラオカさん あがって!!」


先生の声に気づいて ふと見ると
皆がプールサイドに立って、ユリを呼んでいる。




男子の授業も とっくに終わったようだ


「し」~しゅくだい

si.png


「おやすみ。」

こども達に声をかける。
これでやっと、自分の時間だ。

コーヒーを淹れるお湯が 沸くまでの間に、リモコンでTVをつける。
ドラマが今 始まったところだ。

ソファーにゆっくり腰を降ろした その時、
パジャマ姿のコウタが リビングに戻ってきた。


「寝なさいって言ったはずよ。何時だと思ってるの?」

コウタは ドアのところに立ったまま、
TVの画面をチラチラ見て 動こうとしない。

サトミはパチンとTVを消した。

今 小学生にも人気のあるドラマだとは聞いている。
きっとコウタも気になるのだろう。


だけど・・とサトミは思う。

━ 私なんて、8時半には寝るように言われてた。
高学年になったら、いくらなんでも早すぎると思ったけど・・。 
テレビ番組は親が選ぶものだったし、
家の約束事はしぶしぶでも 黙って守ったわ・・。

    
それでもコウタが まだ突っ立ったままなので、
サトミもついつい声を荒げてしまう。


「テレビはおしまい。約束のアニメ、時間分見たはずよ。
お兄ちゃんはもう寝てるんでしょ?」
 

    本当はサトミが見たいのだ。  
    続きを楽しみにしてたのだ。


でも、こんな時間のドラマを 小学校低学年の息子と一緒に見るなんて
サトミの中では考えられない事だった。  

「ゲームだって、今日は延長させてあげたでしょ。
いいかげんにしないと、お母さん怒るよ。」

コウタは 目に涙をためたまま、黙っている。


この次男坊は 言いたいことをはっきり言わず、
メソメソするところがある。

ついついサトミも 感情表現のはっきりした長男に較べてしまい 
こういうときは特に イライラするのだ。



「もう いい。」

コウタは くるりと向きをかえると 
いつもより少しだけ大きな音をたてて、ドアを閉めて出た行った。
               
伝えることを 諦めて、「もういい」と言ってしまう
・・・  こんなところが 自分自身の小さい頃とそっくりだ。
だから、余計にイライラするということは
サトミ自身もよく解っている。

そして、サトミもまた、
「お兄ちゃんに較べて おとなしかったから」 という理由で、
母から聞ける思い出話の少ない事を
ちょっとだけ、寂しく思っていた。
               
だからこそ 二人目にもいっぱい目をかけよう、
おしゃべりをしよう、
アルバムの写真の数だって、絶対に差をつけないんだから

・・・・サトミはずっと そう思ってきた。



お湯のふきこぼれる音に、あわててキッチンに行こうとした時、
ドアが少しだけ 開く音がした。

振り返って見ると 隙間にプリントが一枚 差し込まれている。 


━ ははん、点の悪いテストを見せそびれて、
それでモジモジしてたのか・・。


サトミは 情けないような 腹立たしいような気持ちで、
差し込まれたプリントを手に取った。


プリントには、コウタの
下手くそだけど 生真面目な字が並んでいる。

「  しゅくだい


   ① 今日あったことを おうちの人とはなそう
   ② 自分の小さいころのことや生まれたときのことをきこう
   ③ おうちの人の小さいときのはなしをきこう

    おうちの人のコメントらん (ここにかいてもらおう) 」




お湯はシュウシュウいっている。


[こ」~こだわり 又は 「こんなもの」

IMG_000210.png


「サイアク~!」

ふくれっ面の マユたちが、入れ違いに職員室から出てきた。
タエコが去年、担任した生徒達だ。

「どうしたの?」
「センセ、見て、これ。  
ヤマモトが取り上げて、
もう持って来ませんって謝るまで、返してくれないんだよ。」

マユたちは、手に持った カラフルで色々な形をした
鉛筆や消しゴムを、タエコに見せて言う。

「そうねぇ、
4組では 持って来ちゃいけないことに 決まったんでしょ。
守らなきゃね。
それから、先生に呼び捨ては良くないな。」

タエコは、努めて冷静に、返事する。


 ─可愛い消しゴム
タエコには、ずっと憧れだった。

タエコの親は厳しくて、着る物も、持ち物も、実用一点張り。
小学校高学年の頃に 出回りだした
キャラクター文具とか、ファンシー小物なんていうのには
全く価値を感じない人たちだった。

欲しい・・という前に、親の反応は予測できて、 
タエコにはとても 言い出せなかった。


席替えで、好きな子が隣の席に来た時は、
「消しゴム貸して」と言われたら、どうしよう・・・
いつもドキドキした。
一度 言われた時なんかは 
自分も忘れたフリをしてでも 貸さなかった。

タエコの消しゴムは、製図用の特大で、
古ぼけても まだまだしっかり使える。

早くなくならないかなぁ・・
親に内緒で、机の上や下敷きを 意味もなくゴシゴシ消した。



「アイツら、文句言ってたでしょ。」
 ヤマモト先生がタエコに声をかけた。

「見てくださいよ。一日でこれだもんなぁ。」
ヤマモト先生は自分のデスクの引き出しを開けて、タエコに見せる。

メモ帳、鉛筆、消しゴム・・
様々な形と色の文房具がいっぱい入った引き出し・・・。

タエコが返事をせずにいると、ヤマモト先生は 勢い付いて続ける。

「こんなもの持ってて、勉強が出来るわけないですよね。
 オモチャですよ。全く。
 こんなの欲しがる子供も子供だけど、
    買い与える親の気持ちも解らんなぁ。」






家に帰ったら、タエコには お気に入りの引き出しがある。
自分で働いて、物を買えるようになって、
やっと 欲しいものを集められるようになった。

今はもう、遠慮なんかしない。

タエコは、そっと引き出しを開ける。



いつか 一人住まいして、家中お気に入りで埋め尽くすんだ・・
ヤマモト先生のプロポーズは、早い内に断ろう。
・・・これは、絶対に見せられないわ・・




猫だの星だのハートだの、いっぱい付いた 
およそ「文房具」の形をしていないような小物たちが
ぎっしり並んだ引き出しを  

うっとり眺めながら、タエコは考える。


「け」~けっして忘れないこと / 決心

baby.png


(キミたちが、会えなかった  もう一人のお姉ちゃんの 
  生まれた時の話をさせてね。)



「ウン、生まれたよぉ、元気、元気。
凄く楽だったよ。 ツルンて感じ。
ちょっと小さかったからかなぁ・・
いいよ、いつでも会いに来てね。」


夜中に二人目の赤ちゃんを産んだ。  
その朝、お母さんは浮かれていた。
一人目のときは、長びく陣痛と、酷い出血があったけど、
今回は、朝の自分の元気さに、時間も体力も持て余していた。

産んですぐは、母子別室なので
面会時間に ガラス越しに見に行くだけでいい。

公衆電話の周りをウロウロし、
友達に 出産の報告の電話を かけまくった。

何にも考えてなかったよ。
ほら、お母さんは大事なときには、カンがちっとも働かない。



面会用の小部屋で、看護婦さんに名前を言って待つ。
赤ちゃんが連れてこられる・・はずだった。

待ち時間が、長い。
とても、長い。
不安が初めて、心の隅から広がりだした。


別室のガラス越し、保育器の中で、赤ちゃんは 
小さな指をピクピク 動かしていた。
唇の動いている様子も、遠いガラス越しでも、ちゃんと 判る。

そして、思ってもみなかったことを お医者さんは言ったんだ。


赤ちゃんは  いずれ 手術しなくてはなりません・・。

おっぱいを飲む力がつくまで、一日一回練習に来てください。
あとは、哺乳瓶使います。
母乳が出たら、搾乳して持って来て下さいね。
お母さんは予定通り退院できますよ。


何が一番悲しかったかって?
そうね、気が付かなかった事だな。

五体満足でさえあればとか、健康でさえあれば・・・
・・とすら思ってなかった・・
当たり前のように思ってたんだ。

そして、産婦人科の病棟が、
生まれる喜びだけで 満ちているものだと思ってたんだ。

おなかの中で、そんなに頑張ってることなんて、全く知らないで、
生まれてからもあんなハコの中で 唇動かして、
おっぱい待ってるなんて 思いもしないでいた。



自分が情けなくって、赤ちゃんに申し訳なくって 
お母さんはぼろぼろ泣いた。

母子同室になったら使うはずだった、おしり拭きの綿花を 
カットしながら、 ぼろぼろ泣いた。



そのあと、どうしたのって?
そのあとね、お母さん、ひとつだけ決めたんだ。

いいおっぱい、いっぱい作る。
こんなにいらないよって 言われるくらい、
いっぱい搾って 持って行く。


だって それしか、してあげられない。

だから、クヨクヨしてて 
おっぱいが 涸れちゃわないようにするってね。



お母さん、面白いよ、だって、それからはね、
肩で風切って (病院内の廊下だから風は吹かないの)
ノシノシ歩いたんだよ。

怖い顔?それはしてないよ。
だって赤ちゃん、びっくりするもの。



あのときがあったから、今キミたちとこうしている。

だから、キミたちを抱きしめる。
思い出と一緒に抱きしめる。



今でも ときどき、思い出す。ノシノシ歩いてた若い自分。


少しずつ話すから・・また、聞いてね。




「く」~クリスマスキャロル

8.png


「サンタさんって・・本物?」


店頭販売のケーキの箱の山の向こうから、可愛い声がした。
ひょっこり頭を覗かせたのは6~7歳位の女の子。

ニットの帽子は被っているものの、
パジャマのような服にキルティングの上着、
足元も何だか 寒そうだ。


トウコは どう答えたものか解らない。
愛想笑いを返しただけで、
用もないのに ケーキの箱を 並べ直したりしていた。

ぱらぱら来るお客の相手をしていても、
女の子は気にせず 話しかけてくる。




「いいな、ケーキ屋さん。私もケーキ屋さんになりたかったな。」


何も好きでサンタのなりして、クリスマスケーキ売ってるわけじゃない
・・トウコは思う。
アイツに24、25日って暇? って聞かれて、
変な期待をしたのが間違いの元。

しっかりバイトを押し付けられた。


クリスマスケーキ売りに、25過ぎたお姉さんねェ・・・
店長はトウコを見て言い、
まぁサンタらしくしてよ・・と ブカブカの衣装を手渡した。





女の子は 返事もしないトウコに向かって ニコニコ 話し続ける。

「あのね、私ツリー見に行くの。公園に大きな木があって、
すごく奇麗 なんだって。
きっと見に行こうねって約束したの。」

 ━その格好じゃ寒いんじゃない?
  お母さんとか どこにいるの? 風邪ひいちゃうよ。

以前のトウコなら絶対 しゃがんで、そう話しかけたはず。




女の子の服装・・色の白さ・・
思い出すのは、この間辞めてきた職場・・・病院。

小児病棟の子供たちも 大きくなったらなりたいものを色々言った。
○○屋さんが多かったな。
好きなものに囲まれる・・子供らしい発想・・。

いつからこんな風に なったんだろう。
忙しさにまぎれて、何を忘れてしまったんだろう・・。
こんなことするために、看護学校通ってたんだろうか・・・。





「じゃあ、もう行くね、サンタさん。」

女の子が手を振って 行ってしまう。
後姿が遠くなる。






トウコの心がざわめきだした。

「ゴメン、すぐ戻るから!!」

他のバイトの子に声をかけ、トウコは女の子の後を追った。




付けひげを取り、邪魔な帽子を外す。

あの子はまるで・・まるで・・そう小児病棟を抜け出してきた患者さん。
ううん、そうでなくても、あんな小さな子が一人、
こんな時間にウロウロしてたら大変だ。



サンタの服が目だって、酔っ払いが声をかける。

ボタンを外すのももどかしい。
上着を脱ぎながら早足になる。

私が小さいとき、なりたかったものは・・
・・なりたかったものは・・


息が白い。雪になりそうだ・・。
思い出しそうな何か、心に引っかかってる何か・・
久しぶりのこの町・・公園の向こうのあの病院、私知ってる。

ずっと若い頃・・看護実習に行ったところだ。





ジーンズの上からはいている ブカブカの 赤いズボンが
邪魔で走れない。
トウコは剥ぎ取るようにズボンを脱ぐ。



公園はもうすぐ
あの子はどこ?






角を曲がると、輝きが迫ってきた。
きらめく電飾。
光の渦。


あの時 窓の外、大きな木を見てた女の子に 
実習生の私は何を話したんだっけ。
何を見ようって、約束したんだっけ・・。





公園の大きな木は、目もくらみそうなクリスマスツリー
・・光の波がトウコに押し寄せてくる。

クリスマスキャロルが何処からか聞こえる。





 人ごみの中に
「やっと、一緒に見られたね。」
と微笑む 少女の姿を 

トウコは一瞬 見たような気がした。




    ★Merry X'mas★



「き」~きつね

7.gif

「おい、キツネ。」


タカシがそのあだ名でマリエを呼んだ瞬間、
女子の目が一斉にタカシに向けられた。


ナツミが慌てて駆け寄ってきて マリエの前から回り込み

「マリちゃん、理科室行こ。」
と、トレーナの袖を引っ張った。

数人の女子がタカシを囲んで何か言っている



2学期まで マリエの苗字は「ツネキ」だった。─ お父さんの姓だ。

「せめて 3学期まで、
  ううん、マリちゃんがそうしたかったら、
学校ではそのままの名前でもいいのよ。」

お母さんは言ったけど

「いいよ。お母さんと同じ苗字がいい。」

マリエはきっぱりと言った。


3学期の準備で引き出しを開けると、
ノートに 教科書に
「ツネキ マリエ」の文字が黒々と書かれている。

自分で書けるのに、ちょっぴり甘えて、お母さんに書いてもらった字。

━お母さんって、濃くて大きい字、書くのよね。困ったもんだわ。

声に出して言いながら 
マリエは修正液か上から貼れるテープを探した。  
..... が、見当たらない。


「いいや、これで。」

姓の所だけ 黒マジックで ガリガリと上から書き込んだ。

ちょっと汚いなぁ・・と思ったが、
こんな事、大した事じゃない、マリエは心の中で繰り返した




聞かれたときの答え方まで 考えて行ったのに、
3学期、 新しい名札を見ても、誰も何も聞かなかった。

出席を取るときも、先生が
なるべくさりげない様子で 新しい苗字を呼び
「Mか・・いい苗字だぞ・・」
と変なコメントをして 一人で頷いていた。



さっきの女子の慌てようといい、
「ツネちゃん」と呼んでいた子まで
皆揃って「マリちゃん」と呼ぶことといい・・・
きっと、ナツミが しきって、決めたんだろう。

ナツミの気遣いは ありがたかったけど、
「ツネちゃん」と呼びかけて口ごもる友達を見ると

もっとフツウでよかったのになぁ・・とマリエは思う。

そして、こういうことって、フツウじゃ、ないのかなぁ
・・・とも思う



高学年は女子の方が体格がいい。
小柄で口の悪いタカシはいつも女子に追い回されたり
 押さえつけられたりしている。

もちろん逃げるのは得意だ。



「何度でもいってやらぁ。
キツネ、キツネ、キーツネ、キツネ。
  苗字なんか関係ねぇぞ。
  この頃ず~っと こーんな顔してっから、お前はキツネなんだ。
    マリエの顔はこんな顔~!!。」



女子の間をすり抜けて、マリエを追い越したかと思ったら、
タカシは振り返りざま、そう叫んだ。

自分の顔の 両の目じりを手で上に押し上げて、
顔を真っ赤にして 作った、タカシのキツネ顔。


心配そうな顔で 皆が見守る中、
マリエは そんなタカシの顔を見てたら 笑えてきた。


 笑って、笑って・・・笑っているうちに、 
体から重いものが抜けていく。


 可笑しくて、可笑しくて
・・・・・・・ちょっとだけ涙が出た。



「か」~かさ

6.png


(サイト「たぬきの穴」のtanuちゃんにお許しを頂いて、「子供の庭」の「智くん」のシチュエーションを元にしたものを書かせて頂いています)


「雨、降ってたんだ」

見上げても空はすっかり暗くなっている。

アスファルトの道が濡れていて 
イルミネーションを映して光っている。


「さすが、ユウさんは 晴れ女だね。
 外回りの時も降られなかったし・・。

今度僕の担当する企画、屋外だから、
 ぜひチームに入ってもらおう。

この前のユウさんの仕事、好評だったしね。」



「晴れ女」だから、
というだけの誘いでない事には 自信がある。

フルタイムの仕事を再開して、初めての企画
 
・・・手ごたえは あった。





「ただいま。」


玄関には 運動靴が乱雑に 散らかっている。
ちょっとくたびれたランドセルも 放り出されたままだ。


小さいため息をつきながら、靴に手を掛ける
・・・ぐっしょり濡れていた。



リビングでTVゲームをしている息子のトモキの姿を チラっと見る。

・・あんなトレーナー、着てたっけ。

洗濯カゴに びしょぬれのTシャツが
 無造作にほり込まれている。





「雨、降りそうだったら、傘持って行くように言ったでしょ。」

「忘れてた」

「置き傘、皆してないの?」

「してない。」


 ゲームの方を向いたまま トモキの答えはそっけない。


「一緒に帰ってるシンジ君も持ってなかったの?」

「シンジは母さんが傘持ってきた。」

「入れてって言えば良かったのに。
 アンタも入れてあげたことあるじゃない。」




トモキは 何も答えずに ゲームの音量を上げた。

言いたいこともゲームの音に消されていく。



夕飯の支度にかかろうとしたら電話が鳴った。
シンジの母のリョウコからだった。


「ごめんね、トモキ君、風邪ひかないか心配で・・。
 私の傘にシンジ入れるからシンジの傘さして帰る?
 って聞いたの。
 トモキくん、いらない って、急に走って帰っちゃって・・。」




 改めて見るトモキの背中は意外と小さい。





冷凍食品を取り出しかけた手をふと止めて、

今日は温かいメニューにするか、と

 冷蔵庫をもう一度見直した。



「お」~オフィス 女の子

o.png

「女の子じゃなくて、担当のヤツ出せって言ってるんだ。」

相手の語調はかなり激しい
キッとなって、

「私も担当者です。お話伺います・・。」
と、言いかけた、その瞬間、

「ペアのマツイくん」が受話器を取り上げた。


「はい、その件ですね。こちらの手違いで、申し訳ありません。
   ・・はい。・・・ええ、もちろんです。」

マツイくんは電話にペコペコ頭を下げ、完全に話を合わせて謝ってばかりいる。

あちら側だって、ミスしてるのに・・私だって担当者なのに・・

マツイくんより私のほうが先輩なのに・・・。

言いたいことがいっぱいある顔をしていたのに気づいたのか、
「ペコペコ マツイくん」は片目をつぶって合図し、

「まぁ、落ち着いて」とでも言うように、こちら側の手をヒラヒラさせた。



「昔風のアタマのオヤジですからね。合わせといたらいいですよ。
  相手だって、自分とこのミスに 気づいてましたしね・・。」

電話切って、マツイくんは私に言った。

悔しくて なみだ目になる。
それが悔しくて、ムキになる。


「何で電話取り上げるのよ。私だって対処できた。」

マツイくんはニコニコしたまま

「まぁ、いいじゃないですか。ボクなら喜んで任せちゃいますよ。
   それともオヤジの小言、聞くのシュミですか?」

 そういうモンダイじゃない。  
そういうモンダイじゃない。

 マツイくんは 束ねた書類をトントンまとめ、私に手渡すと
「そうそう、ボクね、仕事も結構好きだけど、
料理も掃除も嫌いじゃないですよ。

そうだなぁ、自宅でできる仕事して 家事もするとか・・
ああ、状況によっては、専業主夫も考えてますからね。」

返す言葉を探す私を面白そうに見て、また手をヒラヒラ振りながら、
       
軽やかに マツイくんはフロアを後にした


続きを読む »

「え」~永遠のSMILE

4.png


わたしたちの友情は永遠だよね。
今時 ドラマでも言わないんじゃない?ということを 
この子、ハルは真顔で言う。


小学校5年で転校してきたハルと 
6年で初めて 一緒のクラスになった。
頭の良い転校生が来た、と話題になっていたらしいけど、
離れたクラスの転校生の事  
     私は全く興味がなかった。  

今まで、そのクラス委員は 投票で、必ず私が決まった。
が、6年は違った。数票差でハルがなった。

いつものことだ、と思いながら、
少し照れたようなあいさつをしてみせる私とは違い

ハルは開票の時から 皆と一緒にワイワイ言い、
決まると くったくない笑顔を見せた。

何でも解ったフリする私と違い、
ハルは すぐに 「難しい」「解らない」ことを認め、
クラス内の隠れた達人を見出しては 「教えて」と頼んだ。

日頃地味で目立たない子達が頼られ、注目され、誇らしげに語るとき、
       クラスは今までになく活気づいた。

ゲームでも、体育でも 競い合って、勝てた時は、
実に素直に喜んで見せた。
逆のときの悔しがり方も はっきりしたものだった。


それらは、私に できないことばかりだったんだ。


「Tちゃんは親友だから・・」
クラスの子達とふざけて喋っている時、
ハルは私と肩を組むようにして よく言った。

話の流れは色々だったけど、そのときの柔らかいハルの動きと 
うなずく私のロボットみたいな動きを思い出す。

そんな時の私は 冗談がうまく返せず 
笑顔の作り方まで わからない気がした。
     
あれから ハルとは会えなくなってしまったけど
私の思い出の中で これから先も ずっと ハルは、

「永遠に」まぶしい笑顔を見せているんだろうな
                                                    
                            ・・・・・・と思う

「う」~運命の糸

3.png


「もうダメ! 立ち直れない!!」

また、アレだ。いつものが始まった。
懲りもせず、次々と、「運命の相手」って騒いでは付き合って

・・・・・フラれる。

 部室来る時といったら、こんな時だけ。
そういう、ヤツ。


「お前さぁ、俺のどこ、悪いと思う?」
 

「勘違いして、騒ぐとこ。」  

真っ白のケント紙を見たまま、そっけなく言ってやる。

ガクッと机に突っ伏して、ため息ついて
「ああ~っ、俺の、赤い糸~!」

 芝居がかってんだよ。もう。

アンタが来ると、集中できないんだ。

文化祭に出す絵、考えなきゃいけないのに・・。

今どき「赤い糸」なんて、古っ!!





「ダメ、描けん!私、帰る。」
ケント紙丸めて、パタパタ画材かき集める。

「かわいそうな俺残して、急に帰んなよ~。
冷てぇなぁ~。もうちょっと、いろってば~」

そのままの姿勢で顔だけ上げ、引きとめようと騒ぐのを振り切って 
廊下に飛び出して、大きく息、吸った。
      
    頬が少し熱い。


いられるわけないじゃない。
  だって、さっき白いケント紙に浮かんだ映像

・・ 私の心の 残像は・・
 絡まったアイツの「赤い糸」の先を引こうとする、


”私” の 姿だったんだ。



「い」~石 言い訳

 
isi2.png

「こういう 平っべったいのがええんやぞ。」

「知ってる。」


そいつの投げる石は、
川面を滑るように飛び、2回、3回と跳ねる。

あ、4回?


     ついてくるんじゃなかった。
     後悔していた。
     
運動だけが得意という、一番私には関係ないヤツ。


     実況中継すんなよな。
     何回跳ねたって?
     ばっかじゃないの。


「投げてみろって。
 こうさぁ、ピシッ、ピシッて跳ねたら、
  気持ち スカーッとするぞぉ。」




やる なんて、言ってないのに、
もう 手には 押し付けられた石。


    いいや、もう どうでも。

    投げる。
    思いっきり いいかげんに。
    
・・・やる気なんてないんだもの。



石は・・跳ねるどころか、すぐ手前、やっと水のあるあたりに   
ポチャンと落ちた。



「足元、悪くて・・手、滑るし・・・。」

     笑うのかな、と思った。
     馬鹿にしても 笑ってもいいや、と思った。

     怒った顔見せて、とっとと帰ろう。




「ヘタクソ」

ほら、来た。いいよ、もっと言えば?




「・・ホント、ヘタクソだなぁ、
お前の言い訳。」







「あ」~開ける

 

1.jpg

わたしは ここだよ って
叫んでも

 心の中 

響いて
 こもって

 消えるだけ だった。


 コツン コツン

 ノックする 音


 
    もいちど 待って

    もいちど 待って


    開けます


    こころ



 | HOME | 

Monthly

Categories

Recent Entries

Recent Comments

Recent Trackbacks

Appendix

すずはら なずな

すずはら なずな

どれも短いお話ですが 
一つでも心に残ったら嬉しいな。

過去記事どこにでも、
コメントOKです。
舞い上がって
喜びます。

FC2Ad

管理者ページ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。