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生きることにちょっと 不器用な子どもたち、もと子どもたちの 短いお話を 綴っています

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「も」~森のくまさん

「森のくまさん」の歌詞を知っていますか?歌詞に色々疑問が付きまとうようで ネット上でも色々考察しているサイトがあります。面白いので 良かったら散歩してみてくださいね。



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「掛け合いのトコ 歌ってよね」

カナミは歌の途中で いつも言う。
でも ユウジが けして童謡なんか歌わないことは 
カナミだってちゃんと知っている。

たくさんは話してくれないけれど 
ユウジが歌わない理由も 少しは気づいている。

でも 言ってみる。


*  *  *


「森のくまさん」・・ カナミの お気に入りの歌だ。

「仕事中に歌ってたら、あのマユミ先輩も、歌っちゃってね、
  『カナミさんに つられてしまったわ 』
           なーんて 悔しそうに言うのよ。」

真面目な先輩まで巻き込む。
カナミって子は 仕事でさえ鼻歌気分でしちゃう・・そんな子だ。



「お母さんが 思い出しては 笑い話にするの。
小学生のとき 友達と『好きな歌』の話,しててね・・」

カナミは おかしくてたまらない様子で話す。
自分の話が笑いのネタになるのさえ カナミには嬉しいみたいだ。


「友達は アイドルの歌を言ったのに、
私は『そうね、わたしは"森のくまさん"かな』って言ったんだ。
 それも 相手と同じような、大人ぶった、すました言い方で。」





─ 僕は 童謡なんか 知らない・・


幼い頃 歌を歌っているユウジに 母は 言った。
「お前は 気楽でいいね、歌なんか歌ってさ・・。
              人の気も知らないで。」

母の 投げかける数々の言葉は ユウジを突き刺し、
幼いユウジの心は 凍りつく。

そして ユウジは もう 思ってしまったのだ。

─ 僕は ひとの気持ちが解からない。
  僕のすることは ひとを傷つける。

自分はそうゆう人間だと、ユウジは思ってしまったのだ。


*


カントリー調の喫茶店はテディベアのぬいぐるみで溢れていた。

─ 何だか場違いな所に入ってしまった・・

ユウジが そこから出ようと向きを変えたとき、
足元にキラリ、光るものを見つけた。

片方の小さなイヤリング。

拾って、手にとって見ていると
「きゃああっ、ありがとうございます!!」

文字通り、「飛び上がって 喜ぶ」人がいるんだ
・・ユウジはそのことに まず感心したものだ。

分厚い眼鏡をかけても まだ 目が悪いというカナミ、
ずいぶん苦労して床を探していたらしい。

「まさに 『森のくまさん』 だわ!
 お礼に歌いましょう、っていうのも変ですよね?それとも・・」

カナミの言葉の意味が ユウジにさっぱり解からない。

「歌って・・いや そんなのは いいんです。
            別に・・。お礼だなんて」

カナミは少しの間ポカンとして ユウジを見つめた。
そしてクスクス笑い出し、止まらない。

「ごめんなさい、ごめんなさい。
 イヤリング落としたものだから 
   ついつい歌いながら探しちゃってて・・」

喫茶店の中で自分の言葉に笑い続けるカナミ、戸惑い顔のユウジ・・

カナミのペースに巻き込まれるまま、
テディベアの並ぶ出窓の傍で、ユウジは コーヒーを飲んだ。

そして そこが 二人の指定席になった。



   *  *



「’森のくまさん’は どうして、
  女の子に 『お逃げなさい』 なんて言うのかな。」

二人で たわいない話をよくした。 
カナミはユウジに 時々そんな風に 問いかける。


歌自体をよく知らなかったユウジは インターネットなどで調べて

「おいかけっこ遊びのキャンプソングが元らしいよ。それから・・」
・・・次に会ったとき 説明する。

そういうとき、眼鏡の奥のカナミの眼はとびきり嬉しそうだった。


「ユウくんのそういうとこが 好き」

カナミは笑う。
性格のズレてるところでさえ 楽しむ・・
カナミって子は そんな子だった。

カナミの 厚い眼鏡の奥の 笑い上戸な瞳。
コロコロ笑うカナミと一緒にいると、
ユウジは 自分が信じられる、そんな気持ちになった。



  *  *  *



「小さい頃ね、お嫁さんごっこしたの。
  レースのカーテン身体に巻いて。
  そのときね、友達に『その眼鏡で お嫁さんは 変』って
  ・・そう 言われちゃった。 
  酷く落ち込んだのよ、私。」

日ごろ 眼鏡を気にしてるそぶりも見せないカナミが言った。
二人が「結婚」を意識し始めた頃のことだ。

「ユウくんも・・・・ そう思う?」



何か言わねば、と思った。
カナミが心安らげる言葉。ユウジの気持ちを伝える言葉。

けれど のどの奥に 蓋でも嵌ったかのように
ユウジは声を出すことさえできなかった。

頭の中に 黒い煙が渦巻いて ユウジは ギュっと目をつぶる。
忘れたはずの 母の声が 久しぶりにユウジの頭の中で響いていた。

─ どうせ 私の気持ちなんか アンタには 解かりっこないんだ。



気分の悪そうなユウジを気遣いながら 
カナミは その日 早くに 帰っていった。





  *  *  *  *




「 森のくまさんは どうして『お逃げなさい』なんて言うんだろう。」

喫茶店の出窓の 熊のぬいぐるみをひとつ取って抱きながら 
また カナミは言った。

ユウジが別れを切り出した時だ。

「ごめん。カナミ、自信がないんだ。
 僕はやっぱり 誰かを幸せにしたりできない。」


熊のぬいぐるみの足を ぱたぱたと動かしながらカナミは言った。

「私  歌いながら よく思ったの。
 くまさんは 自分が『優しい熊』だって事を 
  ちゃんと 知らないのかもしれない。

 私が’お嬢さん’だったら きっと言ってあげるの。
 スタコラなんて 簡単に逃げないよ。」



けれど ユウジの心は どこまでも 後ずさりしていく。

「あれから ずっと 考えていた。
  思い描こうとしても どうしても無理なんだ。

  僕と キミ、将来や・・・・・子どものこと。
  幸せに 歌なんか歌っている そんな 風景・・」


幸せなはずの風景に 母の声が追ってくる。
背を向けて 走り出してしまいたい。

カナミの幸せを守るには 
カナミが今、ここから 立ち去ること。
そう 思い込んでしまっていた。



ユウジは 自分のこと母のことを ポツリ、ポツリと説明した

連絡を断って 忘れたはずの母。
何がそんなに 彼女をイライラさせていたのか 考えても解からない。





カナミは 熊のぬいぐるみをユウジの手に押し付けるようにすると

「私は 今のユウくんが解からないわ。
   でも 解かりたくないのとは 違うよ。」



「ごめん、今日は 先に帰るわね。」

ユウジは カナミを見なかった。
このまま 会えなくなった方がいい そんな気さえしていた。





   *  *  *  *





「お客さま、これ、お連れ様が 落として帰られましたよ。」

レジ係りが やって来て ユウジに何か渡した。

─ 片方の イヤリング
最初に会ったときの あのイヤリングだった。


ユウジの手の中で イヤリングが キラリと光る。

─ ’森のくまさん’は 追いかけたんだ。

   イヤリングを女の子に届けるために。


ユウジは イヤリングを 握りしめ
失くしてはいけないものを 想う。



─ 母に会って来よう。


 母を笑顔にすることが 出来なくっても、
 あのときと同じ言葉が また 僕を突き刺しても。



ユウジは 全速力で カナミを追いかけた。



走るユウジの視界の隅 道端の花の色が 鮮やかだった。 



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「め」~めだか

20051022001820.png



─ メダカーノ ガッコウハ・・ドーコ ニー アル・・

校外学習に行ってきたジュンペイが 
珍しく 大きい声で歌を 歌っている。

「何?それ」
「おかあさん 知らないの?『めだかの学校』」

「変な歌詞。そんな替え歌、流行ってるんだ?」
「今日できた。 先生が 歌ってたのを 皆で変えたの。」

横で漫画を読んでいた姉のユミは プッとふきだしてしまった。

「ヒダカが 歌ったの?それも メダカの歌~?。」

つまらないことでも 時々ツボにはまると 笑が止まらなくなる。
ユミは身体をよじって ケラケラ笑い続けた。

 
 
「ユミちゃん、先生を呼び捨てにしないの。」

ユミたち高学年の子が 2年の担任の日高先生を
「メダカ」と呼んでバカにしているのは 
母親のサエコも知っている。

名前も似てるし おどおどと周りを見ているときの目が 
サカナみたいだという。

ジュンペイたちの前では 言わないように、と 
サエコは日ごろからきつくユミに言っていた。





─ 子どもたちと 一緒に 歌なんて 歌うんだ・・・

サエコだって聞いた瞬間 意外だと思った。

2年生になって、息子の担任が この男性教師だと判った時 
サエコも実は、酷くがっかりしたのだ。


子どもたちと 必要最小限にしか付き合う気がなさそうな先生。
クレームが来ない程度に 日々をこなすことだけに
心を砕いているような先生。

前任校では 学級崩壊させて担任を変わらされそうになったとか
しょっちゅう具合が悪くなって休むから 勉強が遅れるとか
─ 評判は 最悪だった。



何よりも、子ども達が 
授業が単調で面白くない、クラスで楽しいことが何もない
と言い出したのが 悩みの種だった。 





「どこかに メダカ いたの?」
ジュンペイに サエコが尋ねると

「ううん、川は行ったけど、魚はいなかった。
 先生が 一人で歌ってた。何の歌?って聞いたらね・・。」


遠慮のかけらも無いユミは 足をバタつかせて 笑い、
「メ・ ダ ・カ・の学校~!!」。






先生のあだ名を 知らないはずはないと 思うのに
ジュンペイは 特に笑いもせず 言った。

「この歌が 好きで、
 子どもの頃から この歌 歌っては、
 先生になりたいなぁ・・って 思ってたんだって
       ・・日高先生 そう言ってたよ。」

「ふうぅん、そうなんだ。他に 色々教えてくれた?」
 サエコが聞く。

「ううん、それだけ。マサキくんが すぐに替え歌にした。
 それから ヨシダさんが 
 センセー、めだかなんか全然いないじゃん、って言った。」


「メダカーのガッコウはー ドコにーも ナイ」


先生がそのフレーズしか もともと歌う気がなかったのか、
子どもに邪魔されて 歌えなくなったのか
その辺りは 判らない。

ジュンペイたちが作った替え歌は延々 同じメロディーで 続く。




    *  *


「あれじゃぁ 子どもも やる気でないよねぇ。」
連絡網のついでに出るのは 
日高先生のやり方に対する不満の声ばかりだ。

「1年生の時のの先生は皆 子どものこと褒めまくってたのに
 花丸もないし 可愛い「見ました」のハンコもない、
 やる気がでるような コメントも全然つけてくれないもの・・
 ほんとに提出物 見てるのかって感じよね。」

「この頃 どうせ見てないからって 
問題飛ばして解いたりズルする子も いるらしいよ。」



ふうぅ・・とため息ついて 受話器を置く。

サエコには 教師になった友達が幾人かいる。
彼女たちと 話すと いつも 
自分が子どもにしつけるべきことを 
教師の責任に転嫁して文句を言ってくる
そんな「親」のことを よく聞かされた。

いつも そんな親にはなりたくない・・と思ったものだ。

けれど 自分の子どもの貴重な1年間が 
担任の先生に大きく左右される・・とも思う。
他にもたくさん先生がいて いい先生もいっぱいいるのに・・
サエコだって フクザツだ。


    *



─ おかあさん、あたし、変な夢 見ちゃったよ。

ユミが まだ 寝ぼけた顔で 言ったのは 
ジュンペイの校外学習の日から数日後のことだった。

「あたしが川にいるの。
 で、男の子が一人いて 川の中 覗き込んでるの。
 男の子は 色白で ちょっとおとなしい感じかな。

 一瞬 これって ジュンペイかな と思ったんだけど 違うんだ。」


小さいときからユミは 時々 夢の話をする。
ストーリー性があったりして面白いから 
サエコは結構楽しみにしていた。


 「川の中 男の子が指差して、『ほら 見て』って言うの。
  小さな魚が群れになって 泳いでた。

 『めだかだよ』
 『ふーん これが めだかなんだ。』
  
  夢の中の めだかは キラキラしてて すごく綺麗な魚だったの。

 『ボク 先生になりたいんだ。 でも 無理だよね。』
  なんて その子が言うから
 『そんなこと 判らないよ。 すごくなりたいと思うんなら なれるよ。』
  って あたし 答えた。

  
  あたしは いつの間にか 相手がジュンペイのように思いながら
  必死で言うの。

  『アンタはいつでも そうやって すぐに あきらめるんだ。
   なれるよ。絶対 なれるから。 なりたいものに なれるから。』

  夢の中で だんだん哀しくなってきて 
  あたし わんわん 泣いていた。

  起きたときも そのまま 何だか哀しかったの。

  変だよね。これって日高の話がアレンジされて 
  あたしの夢に なっちゃってるんだよね。」


サエコも 心の中で 日高少年を イメージしようとした。
けれど 頭の中の輪郭はぼんやりとして はっきりした顔にならず
ゆらゆらと ジュンペイの顔になったりした。

─ ジュンペイは大人しいけど 日高先生とは 違うわ。


サエコは 頭を振って ユミに笑って見せた。
ユミはユミで 進路のことなど 気になってるのかもしれない。







              * 



唐突に そのお手紙は渡された。

「担任の日高は 療養のため、本年度いっぱい お休みを頂きます。
 なお、後任につきましては・・・」

 校長の名で出された いつもの連絡事項の「手紙」だった。



親たちが 先生に対する苦情を 学校側に言いに行ったとしても
担任の交代なんて 簡単ではないと思っていた。

何度も会合があったり 校長を交えて話し合ったり
終いには 親同士も意見が分かれたり 
ぐちゃぐちゃになることは サエコも覚悟してたのに

なんとも あっけない 幕引きだった。




ジュンペイは 手紙をサエコに渡しながら 
「先生 病気なんだって。」
とだけ 言った。

子ども達に 残す言葉も これといってなかったらしい。

「職員室の掃除してたら メ・・日高先生が 荷物片付けてたよ。」
突然のことで ユミも戸惑った顔をしていた。


─ メダカーノ ガッコウハー

ジュンペイが ランドセルを片付けながら ぼそぼそ歌っている。

「川の中~、だよ。その続き。」
ユミが ジュンペイに教える。

「ユミが小さい頃は お手手つないで散歩しながら 
           よく 童謡とか歌ったっけ・・」
サエコが 懐かしそうに 言うと

「ズルいー。おねえちゃんばっかり。」
ジュンペイが ぷぅっと膨れる。

ユミが ふざけて ジュンペイの手を取って
「今からでも してあげるよねっ。おかあさん。」

恥ずかしがるジュンペイを挟んで ユミと一緒に サエコは歌った。





メダカを見つめていた 気弱な少年のことを想像して 

サエコは 少し 胸が痛くなる。



「む」~ムカデ競走

ちょうど運動会の季節です。今年は秋晴れの いいお天気に恵まれました。
あちこちで 色んなドラマ うまれたのでしょうか?









「足が 一本一本 勝手なこと考えてたら 前へは進めないぞ。」

練習を見に来た 担任のキムラが
嬉しそうな顔を一瞬引き締めて 言う。

ボクたちは 今日 「ムカデの足」だ。
  
            

体育祭では 毎年 クラス対抗の「ムカデ競走」がある。
笛吹きの役と 先導の役、 ふたりを除くクラス全員が 
縦一列になって 紐で足を結び 速さを競う。




         *



「人間は 考えるアシ」


テツガク科だかなんだかを出たキムラは 
余談と言って、そんな話を始めたら、
生徒が聞いてようが 聞いてまいが お構いなしに 語り出す。
誰かが「葦」を「足」と 思い違いしたまま 茶化してた。

キムラが さっき言った「足が考えてたら・・」も
案外 笑いを取るつもりだったのかもしれない。


中3になって 私語や無駄に騒ぐヤツは減ったけど
授業が 面白くなったって訳では ない。

「内申点」が 受験に大きく響くのが 解かっているので
そこそこ おとなしく やり過ごしてるだけだ。





そんな うちのクラスが 「ムカデ競走」にムキになった。 
理由は 大したことじゃない。

隣の担任の体育担当のツジが みんな 嫌いだった。
ツジご自慢の 筋肉バカの集まりの 隣のクラスが 嫌いだった。

うちの担任のキムラを あからさまに 見下した言い方で
「オタク」扱いするのも 我慢できなかったし 
ツジが ボクらのクラスで それをネタにして
笑おうとしたのには 呆れた。

キムラが特に好きだったわけじゃない。
もしかしたら 理由なんて 何でも良かったのかもしれない。






ボクは クラスの中で 極端に背が低い。

多分 ムカデの足のメンバーに入ったら 
足の長さの違いでひとり苦労しそうだし
第一 酷くカッコ悪い。 
その上 転んだりしたら 皆、崩れて 大変なことになる。


体育祭の出場種目の割り振りの時から 司会してたのをいいことに
あまり理由にふれずに 「先導役」になれた。
「先導」は 足を結ばない。
「ムカデの足」にはならずに 一番前のヤツの腕などを取って、
ペースメーカーをする。

「笛吹き」も足を結ばない。 
これは虚弱体質で体育を休みがちな アオノが 申し出た。
音楽が得意で リズム感には 自信があるとか、そんな理由だ。


どこにそんな 「やる気」が潜んでいたのだろう・・。

いつの間にか クラスは
「打倒ツジ学級」から「ムカデ優勝」に目標を変え
キムラから 優勝したら昼メシおごってもらう約束までとりつけた。

「昼メシ」が理由についた後 
ボクらは HRだけでなく昼休みまで 練習に励んだ。

シラケたことを言い出すヤツもいなかったし 
クラスは妙な活気に包まれた。

         
           


              *


午前の部の、他の競技は思った通り 
パッとしないまま 終わった。

担任のキムラも 先生参加の競走で 
頑張って走ってたが ビリだった。

だけど 虚弱体質のアオノは ちゃんと 休まず来ているし
クラス全員が 午後の部の「ムカデ競走」だけは
勝つんだと思ってる。





「オカザキが 来てる。」



皆の目が一斉に 同じ方を見た。
いじめられっことか ワルとかではない。
「なんとなく」学校休んでて 
たまに ふらっと やって来るヤツ。



「何で今日 来るんだよぉ。」
「しかも 弁当持って 今頃・・・」
「ってことは 『ムカデ』出るの?」

あわてて クラス委員のモトキが 担任のキムラを呼んで来た。



「クラス全員参加・・・だからな。もちろん。」
キムラは それだけ告げた。



イヤな空気が流れる。



「オレら 息合わすため 毎日練習してたんだぜ。
  ・・いきなりノコノコ来やがって 
         コイツ どうすんだよ。」

オオニシの言葉に みんなが頷く。
オオニシは 体操服着てなかったら 
父兄と間違いそうな老けガオしたヤツだ。



もう一度 キムラが繰り返した
「クラス全員参加だからな。」



一瞬 シンとなった後 みんな口々に言い出した。

オカザキに対しての文句、 キムラの態度への不満。




隣のクラスのヤツがニヤニヤしながら こっちを見てる。
俯いて じっとみんなの言葉を聞いている オカザキを見て
ふと 思った。

「なんとなく学校休んでる」って誰が言ったんだ?

オカザキの事情なんて 何にも知らないくせに。

オカザキのことだけじゃなく アオノのことだって 
モトキや オオニシや 他のヤツらの ことだって
 ボクは 何にも知っちゃいない。

誰の事だって 今まで 特別、興味を 持たずにきた。




─ 入れるとしたら どこに オカザキ、入れる?・・
  グチグチ言ってても しょうがないじゃん。

タカシマが 眼鏡を拭き拭き 言い出したのを きっかけに
ひとりひとり 互いに 考えを聞き合い始めた。





「オレが ムカデの先頭に 入って・・・」
どこから 出したのか解らないような声が
自分から 出た。

一瞬の 沈黙。


「『先導』をオカザキにして オレがムカデの先頭に入ったら
 何とかなるんじゃないかな・・。ペースなら解かってるし。」

笛のアオノが 
恥ずかしくなるくらい感動した顔をして こっちを見ている。

「歩幅が合うかどうか 心配だから 
    少し練習させて欲しいんだけど・・。」

誰に言うでもなく 言った。
「オレだけ 小っせえし。・・。」








弁当をかきこんで 校庭の隅 
「クラス全員」 ムカデになる。

やたら張り切ったアオノの笛が 青空に響く。
オカザキがボクの腕を おずおずと取る。
両肩には 後ろのヤツの手の重み、
・・なんだか 少し くすぐったい。





「何にも考えない足」の集まりじゃなくっても
 前にはちゃんと 進める。
ボクたちは 一人一人が ムカデの「考える足」だ。

それぞれが 考えて 合わせて 一緒に動かす。
きちんと意思を持った 「考える 足」。


こんなこと キムラに言ったら 何て言うかな。
また テツガク語り出すのかな。

結構 いいカオするんだよな。そういう時のキムラってさ。




午後の部の始まりを告げる アナウンスが 校庭に響く。
声を掛け合いながら みんな、駆け足で 生徒席まで 戻った。




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Appendix

すずはら なずな

すずはら なずな

どれも短いお話ですが 
一つでも心に残ったら嬉しいな。

過去記事どこにでも、
コメントOKです。
舞い上がって
喜びます。

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