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生きることにちょっと 不器用な子どもたち、もと子どもたちの 短いお話を 綴っています

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今年も終わりですね・・

sketch6715153.jpg



昨年の春ごろ HPの絵日記に不定期で書き始めた shortstoryたちも「あ」から「ん」まで(「を」は書いてないけど)
なんとか書き終えることができました。
シリーズも2つ、できました。
(まだ少し、アイディアもストックしてるので続けることができそうです。)

これから カタカナで行くか、ABCで行くか、
自分の「お題」から離れてのんびりするか まだ 決めていません。
でも 何か 思いつくきっかけは必要かな、と思っています。

カテゴリー別、シリーズ別に分けて、
上から読み下ろしていく形もいいなぁとか 
今の 何が出てくるかな的なほうが 飽きなくて良いかな・・とか
そんなことも 考え中です。

読んでくださる皆さん、コメントくださった皆さんの
優しさに支えられて 今日まで続けることができました。

作品の良し悪し 表現の云々は大目に見ていただいて
内容への共感や自分の思い出などを
色々聞かせていただいたことが 私には何より嬉しかったです。

今年は 本当にありがとうございました。
来年も よろしくお願いいたします(^。^)


             なずな



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天使たちのいる部屋

Mystery Circleも4回目の参加となりました。
ルールはこちら
今回は 「クリスマス」と「猫」という 私には嬉しいキーワードを頂きました。
クリスマスプレゼントとして、大切に使わせていただこうと思って
・・・・・この話ができました。
悲しい思い出のある人が読んでも、優しく響いてくれればいいのだけれど・・・。





              

2cat.jpg



12月のお題
「クリスマスの賛美歌のオルゴールが 部屋中に響いた」で 始まり
「二匹の猫のゆったりとした動きを眺めているうちに 
 だんだんと 眠くなってきた」で 終わること 
          (お題の出典 『命』 著:柳美里 )


☆  ☆  ☆  ☆  ☆



            
クリスマスの賛美歌のオルゴールが 部屋中に響いた。
何か音楽でも・・と ミホの入院中に
ユウジが次々買ってきたCDの中の 一つ。

入院用のバッグの中身を出して ミホは黙々と片付ける。


「オレに 手伝えることない?」

「・・・ない」



飾り棚に並んだ天使の置物を、所在なげに眺めていたユウジは
そのCDを選んでプレイヤーのトレイにのせると
ミホに遠慮がちに 聞いた。 

「ひとりで 大丈夫? 泊まっていこうか?」

「・・・いい。」


 ☆ 


ユウジに付き添われて退院したその日
自分の部屋で やっと一人きりになって
ミホは はじめて 泣いた。

─ ごめんね、ごめんね ごめんね、ごめんね・・

生まれてくるはずだった小さないのちを思って
・・・・はじめて 泣いた。


近所の家の窓には クリスマスのイルミネーション・・
耳に届く 道行く人の遠い笑い声。

賛美歌もオルゴールの音も 
今まで特に好きだったわけじゃない。

暗くなっても電気もつけず 
ただ こころの空洞に流れ込むままに
何度も、何度も繰り返されるCDの音を
ミホは 聴き続けた。

明るいメロディーも 荘厳なフレーズも
オルゴールの音で聴くと 
なんだか どれも優しく、愛らしかった。



他の家の明りが消え 夜の闇が深くなっても
そして また少しずつ 遠い空から明るくなってきても

同じところに座ったまま ミホはただ
流れる賛美歌のオルゴールの音色を聴きながら 

ずっと ずっと 起きていた。


眠りたいとも 思わなかった。



☆  ☆ 



─ 妊娠した・・・・・


駅のコンコースの 飾りかけのクリスマスツリーの下で
そう告げた時、 ユウジは驚くほど単純に 

「早く 結婚式しようね。」

笑って言った。


「男の子かなぁ、女の子かなぁ」

二人で 結婚の話を進めている時ではあったけれど
いきなり「父」になろうとする ユウジの姿に
かえって不安が増した。


「母」になるなんて まだ考えてもいなかった。
付きまとう身体の違和感、
これから先の自分の身体の変化に 恐怖さえ感じていた。


お腹の赤ん坊を「産むのかどうか迷う」ことさえ 思いもつかないほど
体調の悪さに耐えながら なんとか一日一日をやり過ごした。


ユウジは 出来る限りそばにいてくれたし、
妊婦の健康や赤ん坊の育て方まで 少しでも理解しようと
驚くほど熱心に 情報収集した。

ただ、感染症のわずかな可能性などを挙げて、
2匹の猫を ひとに預けることを、
さかんに薦めるのには 閉口した。


体調は いつになっても落ち着かず 
結局 心配するユウジの付き添いで、病院に行き
猫たちの世話を 彼に託して入院することになった。

捨て猫だった2匹の猫は ずっとミホの部屋の中で暮らしている。



☆ ☆ ☆


─  猫たちが いない・・・。


2匹の猫のことが 気がかりで落ち着かず、
無理やり医者を肯かせて 
予定より早く 一人でミホは 病院から帰ってきた。

自分の部屋に入って、猫たちがいないことに気づいた瞬間
ミホは狂ったように 外を走り回って捜した。

ユウジに説明を求めもせずに。


疲労感と身体の痛みに苦しみながら ユウジの職場に電話すると
ユウジは意外なことを さらりと言ったのだ。

「ああ、妊婦さんには負担が大きいから 預かってくれるって・・」


─ 酷い。何で そんな勝手なこと・・・
怒りがこみ上げる。


「ああ、オフクロ 猫好きなんだ 大丈夫だよ。」




─ 今すぐ 猫たちを返して・・・


ユウジの説明も 一切耳に入らず
そのことだけを言い続けているときに

ミホの身体に 耐え難い痛みが襲ってきた。



 ☆ ☆ ☆ ☆


─ 赤ちゃんは 生まれてくることが できない運命だったんだ・・・


深い眠りから覚めたミホの耳に ユウジの声がぼんやりと聞こえた。

─ キミのせいじゃない、もちろん猫も関係ない・・

言っている言葉は解かるのに 意味がこころに響いてこなくて
ミホはただ呆然と 天井を見ていた。 


眠り方も忘れた。  

食べる気持ちにもならなかった。

別の病室に移されて 栄養を送り込まれ、薬で眠らされ
何日も 何日も ミホは人形のように過ごした。


何も考えられなくなった頭の中を 時々猫たちが通り過ぎる。

けれどその動きは あまりにも すばやくて、
ミホが手を伸ばした頃には 消えてしまって
輪郭すら もう思い描けなかった。





気がつかないうちに すっかり 外は明るくなっていた。

オルゴールの賛美歌のCDが まだ鳴り続けるミホの部屋に
ユウジが 鍵を開け、そっと入って来る。

眠くはないけれど 身体を動かして振り向く元気も ミホにはない。



「・・そら・・行きな。」

コトン、コトン・・ 
しなやかな生き者達が 床に飛び降りる音がした。



「 ごめん・・ミホ、相談しなくって。

  オレが 仕事で帰れない日があって
  一日だけのつもりで母親に頼んだんだ。

  そしたら そいつらが 懐いて 甘えててね。
  連れて帰ろうとすると 足に擦り寄って 離れなかったんだ。」



ミホの座っている傍らまで 猫たちは すぐにやって来て、
コロン、コロンと 腹を見せて 寝転ぶ。

ミホが手を伸ばして 触れると
つややかな毛からは 甘いシャンプーの香りがした。



「ユウジのお母さん、優しくしてくれたんだね・・・。」

ミホが そっと撫でると 2匹とも首を長く伸ばし、喉を鳴らした。

「寂しかったんだよね、キミたちも。」




─ あまり他の人に懐かないこのコたちが
         そんなに懐いたんだ・・・・


動揺して詳しくも聞かず ユウジに怒りだけぶつけたことを思った。

頭の中を走り去る猫たちを 
ぼんやりと見送りながら過ごした数週間も、
このコたちは 優しい手で 守られていたに違いない。 

猫たちの柔らかな毛を撫でていると 
冷たく硬くなっていたこころが
少しずつ少しずつほぐれて、温もりを取り戻していく。



「ユウジ」

「うん?」

「もうすぐ クリスマスなんだよね。」

「うん。」



クリスマスのたびに一つずつ ユウジと買い揃えた 
小さな天使の人形。
色んなポーズの天使を ひとつひとつ手に取って
毎年 ユウジと二人で選んできた。


─ 今年は オルゴールの小箱を大事そうに持って
  うっとり耳を傾けていた、あのコにしよう。

  あの店の 同じ場所に まだ あるかな・・・・
  あったら・・ いいな・・・

飾り棚の天使たちを 見ながら、ミホは思う。



「ユウジ」

「うん?」

「クリスマス『おめでとう』・・は まだ言えないけど・・・」

「うん」






「おかあさんと ユウジに・・ 
     『ありがとう』・・ 言わせてね。」




ミホの足元と膝の上で 猫たちは丸くなり
目を細めながら静かにミホの指を舐め
しっぽだけを 時折、ゆらゆら揺らす。


二匹の猫のゆったりとした動きを眺めているうちに 
静かな安心が身体を包み込み、

ミホはだんだんと 眠くなってきた。




バルコニーで平均台 樹の上でお月見

Mystery Circleの11月の作品です。くわしいルールはこちら
お題もあるので ここでは いつものテイストと違ったものにも
挑戦したりしています。
ただ 後味だけはいいものにしたいという コダワリはそのままです。
どうかなぁ?



GOTH.png





~11月のお題~
「『いやだ、消えろ』と私は呟いたけれども、
それは不気味な笑い声を洩らしただけだった」
で始まり

「私の目はぎゅっと閉じたままで、
背伸びした爪先は ぶるぶると震えた」
で終わること
      (お題出典 :「ポプラの秋」湯本香樹美)
     *   *  *





「いやだ、消えろ」と呟いたけれども、
「それ」は不気味な笑い声を洩らしただけだった。




        
       *


「それ」が トモミの前に初めて姿を見せたのは 
電話で友達の悩みを聞いているときだった。



─ 大丈夫よ、心配ないって。ほら 泣かないの。
  彼、きっとそんなつもりで言ったんじゃないってば。

  私?私も 最近なかなか会えないの。
  メールも途絶えがち・・
  ふふ、そうそう うちは信頼関係バッチリですからね~。



延々と続く堂々巡りの心配事に、根気よく答える。
学生時代から よく友達の相談に乗ってきた。
相談されるのは トモミも 嫌いではなかった。


なのに その電話の間「それ」は さも退屈そうに大きなあくびをし、
イライラした様子で指を動かし、 
いいかげんにしてよ、くだらない
・・とでも言いたげにチッと舌打ちをした。

 
「それ」 は まぎれもなく鏡に映った・・・「自分」。

受話器を持ったまま呆然と鏡を見つめるトモミに向かって
「それ」は 一瞬 ニヤリと笑った。



         *



通勤電車の窓ガラスにも「それ」は、よく現れるようになった。

何もかも敵に回して毒を吐くような ゾクリとする 顔・・・
あるいは 疲れきった顔で、だらしなく無防備に眠る姿・・

電車の窓ガラスに「ありえない私」が映し出されている。

自分が今 しているはずの表情とは 全く 違う。
人前で やらないようにと 
トモミが厳しくしつけられてきた仕草、態度。

─ 「それ」は 自分の姿ではあるけれど けして「自分」ではない。

「自分」であるはずがない・・。
トモミは 電車の窓から 目を逸らす。



         *



「あなたは 誰・・?」
朝、鏡に映った「それ」に、トモミは 聞いてみる。


「アンタに決まってるじゃない。鏡に映ってるんだもん。」
「それ」は 軽いけれど少しトゲのある声で 返事した。

「私は そんな 表情しないわ。」
「アハハ、まぁ 表面的には ね」
 

洗面所のシンクにひょいっと腰かけ、
足を組み けだるそうに髪をかき上げて「それ」は言う。
「それ」は 徐々に トモミ自身とは 別の動きを見せ始めた。

「アンタが ずっと閉じ込めちゃった部分っていうか・・
そうだなぁ・・そうそう、
カタブツの両親のご自慢の”いい子ちゃん”でいるために 
蓋をしめて 隠しちゃった そこんとこ。
アンタが作り上げた自分に そぐわないからって
切り取っちゃった そんなとこ。

グズグズ悩む友達なんて 思いっきりバカにしてるくせに、
自分はっていうと最近冷たいアイツのこと物凄く疑ってるんだ。」


「どうして、そんなこと・・?」

「うすうす気づいてるくせに。もう終わりなんだってさ。」

「そんなこと、ない!!」

水道の蛇口からいつもよりきつめに水を出し 
ザブザブと荒っぽく顔を洗うと
トモミは鏡を見ずに 洗面所を後にした。


         *



会社帰り、コンビニに 買い忘れの調味料を買いに立ち寄る。
一人暮らしをしていても 生活は全て きっちりしていたい。
どんなに残業で遅くなっても トモミは帰って
食事を作るようにしていた。



店の 道路に面した壁一面の大きなガラスに映った「それ」は
こちらを見ると 浮ついた調子で ピースサインした。

買い物カゴに インスタント食品や 惣菜、カップ麺
お酒にビールに おつまみ 色の派手な化粧品 
漫画雑誌 週刊誌 ・・カゴからあふれるほど入れている。

─ねぇ タバコも買おうよぉ  

・・「それ」は手振りで そう言った。


「冗談じゃないわ。」
トモミは 声に出して言い
必要最低限のものだけレジに持っていって精算を済ませた。


部屋に帰って 料理をし 一人の遅い夕食を食べる。
食器棚のガラスに映りこんだ「それ」は
テーブルに肘をついて、つまらなそうに皿をつつきながら
こちらを見ていた。


「カップラーメンが良かったなぁ」
「作った方が栄養があるし、美味しいの。」
「そうかなぁ」
「そうよ。決まってる。」

「電話、来ないね。」
「忙しいのよ。」
「メールも来ないじゃん。」
「メールが苦手な人なのよ。」

「オンナと歩いてたの見た。」
「彼の会社の人よ。プライベートじゃないわ。」


「思ったより ブスだったねぇ。」

トモミは 黙って食器を洗い きちんと拭いて片付けた。


  
      *


夜中、トモミは息苦しさに 目が覚めた。
毎日 嫌な夢ばかり 見る。
汗で まくらがじっとり濡れていた。

「夢・・?」
今までのは全部 夢だったんだ
・・そんな風に思えてホっとしたのも 束の間、
目覚まし時計のガラスに「それ」が いた。

「どうしたいのよ?いったい 何が 言いたいの?」
この嫌な感じはどこからくるのだろう
・・トモミはイライラを 「それ」にぶつける。 

「それは アンタが一番良く知ってるはずじゃない?」
「あなたは 私なんかじゃないわ。私じゃないわ!」

トモミが 震えながら訴えても
「それ」はわざとらしく耳をふさぎ、
聞こえないふりをして ニヤニヤ笑っている。

親に見せてもらえなかったTVのお笑い番組で
流行っていた動作に それはよく似ていた。


「そうだ、テレビつけようよ。」
考えたことを見透かしたように 「それ」が言う。

「こんな時間 何もやってないわ。」
「深夜番組 見たかったくせに。
  あーんな映画? こーんなバラエティ?」
 
クネクネと品のない手の動かし方をしながら「それ」は言った。

「見たくなんかない!!」

「ふふん・・ママが選んだ番組しか見られないんだ」

流行のギャグを言いながら 笑いさざめくクラスメイト・・
知ってる振りして 一緒に笑ってる自分の姿が
ちらりとトモミの頭を過ぎった。

─どんなに周りが低俗でもお前さえきちんとしていればいいのだ。

普通の公立の学校にトモミをやりながら 
両親はいつも そんな風に言った。



けして口に出して歌ったことのない汚い言葉ばかり出てくる替え歌を
「それ」は ひどく気持ちよさそうに トモミの傍で歌い出だす。

小学生の男の子たちは この手の歌を よく歌ってた。

「やめてよ そんな歌!! 近所に聞こえるわ。」





「お願い もう 消えて!」
うなるようにトモミは言うと、
目覚まし時計を 布団に押し付けて ガラス面を隠す。

─ お願い、お願いだから もう どこかへ行って。
  消えろ、消えろ 消えろ!消えろ!!


      
        *


「それ」は昼間も現れる。


気配を感じて トモミがベランダ側の窓ガラスに目をやると
今度はそこに「それ」は いた。

トモミが無視し続けると、
「それ」はひょいっと バルコニーの手すりに立ち、
平均台を歩くように その上を スタスタと器用に歩き出した。

「こんなことだって ほんとは ずうっと したかったくせに。」
「危ないわ。落ちたら怪我するし 大騒ぎになって近所迷惑よ。」


「ふふ~ん、怖いんだ。
 失敗して 無様に落っこちていくのが恥ずかしい・・?」

「怖くなんかない!恥ずかしくもない!」

「あ、そうかぁ、パパとママに怒られるのが嫌だっただけなんだ。」
「最初っから そんな つまらないこと したいとも 思ってない!!」

トモミが 強く叫ぶ。


ベランダの手すりの上、「それ」の目が キラリ 光った。

      
       
           *


疲れているんだ・・。

メールしてみよう、「いつ 会える?」
でも 今 いつがいい?って逆に聞かれても 私だって忙しいし・・・
メールを打ちかけた手を止めて
トモミは携帯をサイドテーブルに置いた。



留守電のメッセージは 相変わらず 母だった。
毎日 帰宅時間を確かめるかのように かかってきて
「きちんと」暮らしているか、こまめに連絡するように言ってくる。


ふぅ・・とため息ついて クッションに半分顔をうずめた時
携帯の画面に 「それ」は また 現れた。

「今 アイツはきっと あのオンナといるね。
 いきなり 押しかけて 現場押さえちゃおうか?」


ニヤニヤ笑いながら 「それ」は続ける。

「あれは、本気っぽかったなぁ。
思ってたような”フェロモン女”じゃなかったね。

アイツがあのオンナに誘惑された って感じでもなかったよなぁ。
普通っぽい 平凡な女・・・何でまた あんなのにホレたんだか。」



「やめてよ、彼を信じてるわ。」
トモミは 俯いたまま答える。声に力が入らない。

「だって アンタ、ちゃぁんと見に行ったじゃん。
 あんなの偶然じゃないでしょ。
 あんなつまんなそうなオンナに負けるの 悔しいね?」


「勝手に決めないで!
 勝つとか 負けるとかなんて これっぽちも思ってないわ。」

自分に言い聞かせるかのように言葉を返すと
「それ」は ニヤニヤ笑うのをやめ、
じっと 刺すような目で トモミを見つめた。


              *


「ばかやろー クソヤロー xxxxxxx。」

気の早いクリスマスの飾りつけをした街で
華やかなショーウィンドゥに映った「それ」は ぼそりと言った。

忙しくて会えないはずの彼が 道路の向こう側の喫茶店で
あの女と会っていた。

「何よ、それ?」
立ち尽くしたままの トモミが聞く。

「一度 叫んでみたかったくせに。」
「そんな 汚い言葉言いたくないわ。」

「愛してるのよ~?捨てないで~?」

「やだ! そんなの絶対言わない!! 言わないからっ!!!」


「お前なんか だいっきらいだ。くたばっちまえー」
「・・・・・・。」


「裏切り者!ウソツキ!!浮気者!!一発殴らせろ~!!」


おかしくなって トモミは ふき出した。
少しだけ 笑えた。

その後 急に涙がこぼれた。
トモミ自身にだって 悔しいのか 哀しいのか もう解からない。


小さい子どものときでさえもしなかったのに ぼろぼろ泣けてきた。

人ごみの中 わあわあ言いながら トモミは泣いた。
地団太踏んで 路上で泣いた。

きらきら光る電飾が涙でぼやけて 十字形の光の集まりに見えた。


        *


ベランダの窓を全開にすると 外の空気が部屋に流れ込んで来る。
昼間 あれだけ泣いたせいか トモミの心は穏やかだった。


バルコニーの手すりが 月明かりで つややかに光っている。

窓ガラスに映っていた「それ」とトモミは
一緒に 黙って月を眺めていた。
  
「木登りだって してみたかったんだ。」

「それ」は バルコニーの手すりに上ると、傍の木の枝に手を伸ばし
軽々と木に移り、するすると登っていった。
木の葉に隠れて見えなくなったかと思った瞬間、
高い枝から 「それ」はふわり 飛び降りた。

突然のことに トモミはあわてて ベランダに出て
乗り出して下を探したが
「それ」はもう どこにも 見えなかった。


 飛び降りる瞬間 振り向いてトモミを見た その顔は
 いつになく優しかった。


   

            *


      
バルコニーの手すりにもたれて 
ずっと置きっぱなしだった貰い物のお酒を トモミは空けた。

どれくらいの間 そこにいたのだろう。
「それ」の最後の顔ばかり 思い出していた。

─ ここから 今 何か叫んでみようか、
  

「バカヤロウ」
トモミは 小さく声に出してみる。


バルコニーの手すりに手をやると キンと冷たい。
下を見下ろすと 底の無い暗い穴のようだった。

─ 落ちたら 死ねる?

暗い穴に落ち込みそうな気がして 急に 頭がくらくらした。
トモミは目をぎゅっと つぶる。

─ ばっかじゃない?死ぬぅ?死ぬ気なんか全然無いくせに。

「それ」が 芝居がかったおどけた仕草をつけて 返事する気がした。



「それ」と 話がしたかった。


「それ」に答えてみたかった。



バルコニーの手すりに両手をかけ、トモミは ぐんと 伸び上がる。



─ 「平均台」、できたら 
  木を伝って降りて 私は「それ」を捕まえに行こう。

  コンビニで何か買って来て 次は木登りして 
  木のてっぺんで お月見しよう。

  「一発殴りに行く」計画もたてて

  お月様に映った「それ」と 笑って乾杯しよう。

  


木の葉をカサコソさ揺らし 
下ろした長いトモミの髪の間を 静かに風が吹き抜ける。 
下の闇は底がないかように深い。


バルコニーの手すりに もう一度手を置き直す。
置いた手に 身体の重みを乗せてみる。

トモミはぎゅっと閉じたまま 伸び上がる。
背伸びした爪先が ぶるぶるっと震えた







「ろ」~ロングシュート

ball.png


「ヨシキ!! パス、パス!」


小回りのきく身体を上手に使って 
シンが いい位置で 声をかける。

今 シンにパスするのが 一番。

解かってる。
解かってる。

けど、今 僕は ちょっとだけ 
シンを 無視する。



ロングシュート

早朝の体育館で 放課後のグラウンドで
暇さえあれば 練習した。

確率高い・・から
 確実へ・・絶対へ・・

─ たまに 外すけど・・・。



*


中学に入って2年、みんな一気に背が伸びた。
どんなにチビなヤツだって、ランドセルはもう似合わない。

少し前まで 女子にピーピー泣かされてたようなヤツが
いっぱしに 彼女をつくって、肩なんか抱いてる。



メールなんかしても 意外なヤツが妙に上手い文章で送ってきたり。
小学校の作文は ボロボロだったくせに。



*



メールする女子 いないわけじゃない。
アドレス聞いたら 簡単に教えてくれるコ
友達から 聞きだしても 全然OKってコ。


部屋のベッドに ひとり寝転がって 
親にも言わない「おやすみ」を 誰かに打つ。

だからって、その相手が特定の「彼女」って訳じゃない。
あっちだって 同じ時間に他の相手にも 
打ってるのかもしれないし。



*



オカザキが 僕のメール相手のうちの一人だってことは、誰も知らない。

クラスも、部活も 委員会も 何の接点もない女子。
シンのバカが 理科室の机に
僕のアドレスといいかげんなコメントを落書きしたら
それ見て メールしてきた。

「『キミの話をきかせてください』って なんですか?」



*


廊下ですれ違うときの オカザキはまるで別人。
メールしてても時々、
ほんとに この相手ってアイツなのかなって思う。



「生きる意味ってなんだろう・・」なんて 
クサイこと書いてくるコとは 思えない。
いつも グループで ぎゃあぎゃあ言って笑ってる。

こっちだって 読み上げられたら赤面するような
クサイ返事してるんだけど。



知らん振りして 通り過ぎる。
オカザキは 目だけ 挨拶する。

─ 昨日は 聞いてくれて ありがとうね。

そんな風に。





*


一人だけと付き合うのって どうなのかな・・って思う。

教室でワイワイふざけてるとき 一緒にいると面白いコ
ボールを拾ってくれたときバスケが好きって話したコ

シンたちと適当にメンバー集めて行ったカラオケで
音楽のシュミが合うねって 喜んだコ。



一人だけのこと まるごと 
好きになるなんてできるのかな・・

一人のこと好きになったら 
他のコといても 楽しくなくなるのかな・・。



*



体育館の 入り口に 逆光のシルエット。
オカザキが 試合を見てる。

視界に入る。



だけど 今は 一点 
ゴールだけに 集中する。



オカザキのこと 好きなのかどうか 
自分でも まだ よく解からない。

解からないけど・・・



ロングシュート

すっと 吸い込まれるように ゴール 決まったら



オカザキに向かって 大きく手を 振ろう。



「る」~留守番

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「一人で お留守番のとき、
宅配便のひとが来たら どうしたらいいのかな?」

「いないフリ~」
「インターホンで”今だーれもいません”って言う」
「いるじゃないですかって 言われるし~」

みんな口々に 好きなことを言っている。


「さまざまな危険から 自分で身を守りましょう」 
っていう 授業。

 
「ママは 私をひとり置いて 出かけません」
(だから 留守番したこと ありません・・・)
って 正直に言った方が いいのかな・・ 
ヒトミは ドキドキした。

ママは カギっ子だった。
自分が それで寂しかったから 
「おかえり」をいつも言いたいんだって。
だから 出かけても学校が終わるまでには
絶対に 帰ってくる。

結局 ヒトミは当てられないまま 授業は進み、
授業の終わりに 先生が
「ドアは絶対開けないで また改めて来て貰うように言う」
ということで 締めくくった。
2年生のときのことだ。





  ★


「ごめんねヒトミ、今日は少し遅くなるかもしれない。」
初めてママが ヒトミに言ったのは 4年生になってから。

もう鍵持ってる子も多くって
かわいいキ-ホルダーの見せっことか している。
ちょっと羨ましいな、ヒトミは思う。

「いいよ。誰か呼んで遊んでてもいい?」

─部屋、片付けとくね・・
ママは キラキラ光る銀色の鍵をヒトミの手に乗せた。



こういう日に限って 誘っても誰も遊べる人がいないんだ。
塾、習い事、お医者さん、買い物・・
ごめんね、って言って みんなに断られた。

ポケットの鍵を 何度も何度も確かめながら
ヒトミは マンションのエレベーターに乗る。
ドアが閉まりかけたとき タイチが滑り込んできた。

─ いつもは うちの前のらせん階段 
  ガタガタいわせて駆け上がるくせに

横目でタイチを睨む。

長いコイル状のキーホルダーに玄関の鍵付けて、
ズボンのベルト通しから ぶら下げている、
これは1年生のときからの タイチのスタイル。
最近は 中学生の真似して ズボンを少し下げて穿いている。


    

「ハンコ押して 受け取る」

あの授業の時 となりの席のタイチは 小声で言った。
でも その声はみんなの声にまぎれ かき消されてしまった。


タイチは それから ずっと
つまらなそうに 鉛筆をコロコロ転がしながら
授業が終わるまで ひと言も言わなかった。


    ★


ヒトミが幼稚園の時 タイチは大阪から引っ越してきた。
─ 同じ歳の子が真上の部屋に来た
ヒトミはちょっと嬉しかったんだ。

でも 男の子だし、保育園に通っていたし
一緒に遊べるタイプじゃなさそうだった。
ヒトミはとても がっかりしたのを 覚えている。



   


5階でヒトミが降りると、タイチも何故だか降りてきた。

「何で 降りたの?ここ5階だよ。」ヒトミが言うと
「エレベーターなんか かったるい。」

タイチは答えて 玄関前のらせん階段を駆け上って行った。

「変なヤツ」
鍵をガチャガチャやって、開ける。


「ただいまっ。」

誰もいないのが解かっているくせに、大きな声を出す。
さっきまでお天気だったのに 
なんだか急に空が曇ってきて家の中が 暗い。

家中の電気を点けて回って、TVのスイッチをONにする。

ワイドショーでは 誘拐事件
ドラマはサスペンスの再放送。
いきなり死体役の女優さんのアップ。

やだやだ、お昼って何で こんなのしかやってないんだろう。
通販の番組をつけたまま ヒトミはおやつを探した。

空がますます 暗くなる。





ピカッ・・

バキバキバキッ・・・・・

イナビカリ、 そしてかみなり・・・。





上の階のタイチが暴れてるのも たいがいうるさいけど
見晴らしのいい5階、
ベランダの窓から見える イナビカリは思いっきり迫力があった。

ガラス戸を全部閉め、カーテンも閉めた。
イナビカリがまた 空を裂く。




─ ピンポーン

ママだ!ヒトミは慌ててドアを開けた。

立っていたのは タイチ。

「何?」

ぶっきらぼうに言ったつもりだけど 
実はタイチの顔見て安心した。
安心したの、ばれたかな・・・コホンとヒトミは咳払いする。

「これ」

回覧板。

「え?上の階の人全部回してからだよ、誰もいなかったの?」
「さぁ」
「いるのに 飛ばしたらだめなんだよ、
 この前も隣のおばちゃん怒ってたもの。」

「なら いい。」
タイチは クルリと後ろ向いて また階段を駆け上る。

「もうちょっと 静かに上がってって この前お母さんが・・・」
後ろから叫んだが タイチの逃げ足は 速かった。


雨が バタバタと音を立て、強く降りだした。
ママは今日は乾燥機使ってたから 取り込む物はない。
ヒトミは ふと、タイチん家って どうなのかな、
そう思ったら じっとしてられなくなって
階段、駆け上がった。 

─ ピンポーン

鍵を開け、チェーンを外す音がする。

「何?」
「チェーン 外しちゃダメなんじゃないの?」
「覗き穴から オマエ見えたもん。
 オマエこそさっき いきなり開けたんちゃうん?」

タイチは 大阪弁を直さない。
ふざけて言ってる訳じゃないのに 笑われる時があって
時々それが ケンカの原因になっている。

「あれは・・お、お母さんが帰ってきたかと思ったの。 
 あ、えっと・・雨降ってるよ。洗濯物入れた?」

「とっくに。こっちは 留守番、プロやもん」

ヒトミだって ほんとはちゃんと知っている。
保育園、放課後の学童保育、友達といる時間は長くっても、
その後の時間タイチは お母さんが仕事から帰るまで
ひとりで待っている。

─ よその家に上がり込むのは良くない、
  外で遊ぶのは5時半まで。

タイチはお母さんとの約束を きっちり守っている。

洗濯物の取り入れどころか 
ガスコンロを使って簡単な料理だって
小さいときから 出来るらしい。

そんなことも「留守番の時の安全」の授業では
タイチは 言い出せなかったに違いない。

    ★ 

「それよりオマエ、家の鍵閉めてきたんか?」
「ああっ」
ヒトミが 慌てて階段を駆け下りる。
ガチャガチャ鍵かけて タイチもすぐに後を追ってきた。

ドアの前で顔を見合す。

「泥棒・・いないよね・・」
「開けてみぃ・・」
「うん・・・」

おそるおそる ドアを開ける。
人の気配はない。 玄関は 出たときのまま・・。

「中 見て来い」
「ええっ タイチ見てきてよ」
「アホ 自分の家やろ」
タイチの服をつかんだまま、ヒトミは 少しだけ家の中に入ってみた。

心臓がバクバクいう。

あのカーテンの陰、それとも そのクローゼットの中・・
誰か潜んでいたら どうしよう・・

タイチが カーテンをガバッと捲くる。
ヒトミも 息を止め目を閉じたまま クローゼットを開けた。

だれも潜んでない・・・。

でも この 廊下の奥は・・・・




その時 

「ただいま、ヒトミ。遅くなってごめんね。」
玄関でママの声がした。

まだ、奥まで見ていないのに 緊張が一気に解けて
二人ヘナヘナと 座り込む。

「あらあら どうしたの・・?」



  ★


ママに事情を話すと 全部の部屋を 開けて見せ

「そんなに長い間じゃなかったんでしょ?
 大丈夫よ、よかった、何もなくって。」

ママは笑って 言った。
ママの笑顔で心がほわほわ柔らかくなった。



─ 今日は特別だから 

タイチはママに引き止められて
ヒトミの家で おみやげのクッキーを食べた。

「もう遅いから」
きっちり5時半に タイチは言って ひとりの家に戻る。


「今日はさ・・・ありがとう」

タイチを玄関まで送って ヒトミは聞いた。
「ねぇ・・タイチってさ、留守番 寂しくない?」


タイチのことだ、簡単に否定するとヒトミは思っていた。

でも タイチは 階段の一段目に片足乗っけたまま少し考えて

「最初のころは むっちゃ 寂しくて
 このまま だれも帰ってこんかったら
 どうしようってばかり思ってた。」

「それは ・・・怖いね。」

ヒトミは うなずく。

同居してたおばあちゃんが亡くなって、 
タイチはここに引っ越してきたと聞いている。

タイチが階段を上がりながら話すので ヒトミも後ろを追いかける。

「あんまり静かで 怖くなったから 家ん中で
 ダダダーって走り回ってドドドッてソファに倒れこんで遊んだ。」

「・・・・」

「そしたら」
「そしたら?」

「オマエのカアチャンが 来た」
「ママが?」

「うん。 『ごめんね、今うちのヒトミ、熱出して寝てるのよ。
  もう少し、静かに遊んでくれないかな?』って言われた。」

「ええ~?そんなこと ママ言いに行ったのぉ?
 知らなかった!ごめん!
 嫌だったよね、怒った?
 ・・・・えっと・・か、悲しかった?」

6階の自分の家の玄関ドアに手をかけて タイチは振り向いて言った。

「なんかナ、変かもしらんけど・・・
   ・・・・その時 オレ ちょっとだけ 嬉しかってん。」
「え?」

「うまく言えんけど、下に 知ってる人がいて、
 熱出して寝てるとか そういうのん、解かって・・

 ほら、2階建ての家で ばあちゃんと住んでた時って
 そういうのって あって・・・。

 あ、ははは・・変かな? 変やな?」


タイチは 手でかみの毛をくしゃくしゃにしながら そう言って
「ほなな。」

後ろを向いたまま 片手をあげ、
さっさと 家に入ってしまった。




らせん階段をカンカン鳴らして下りながら 
ヒトミは タイチの言葉を頭の中で繰り返してみる。


2階建てのおうち。
タイチが上にいて 家の中の階段を 
時々トントン降りてくる。

熱出して寝てる私を見て 
照れくさそうに 声かける。

「オマエ 大丈夫かぁ? 変なものでも食べたんちゃう?」


・・その想像は かなり変だけど 

そういうのって ちょっと いいかも・・・・
ヒトミは思う。
 

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すずはら なずな

すずはら なずな

どれも短いお話ですが 
一つでも心に残ったら嬉しいな。

過去記事どこにでも、
コメントOKです。
舞い上がって
喜びます。

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