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生きることにちょっと 不器用な子どもたち、もと子どもたちの 短いお話を 綴っています

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虹色噴水~セイシュンは後悔しない

Mystery Circle Vol.29 です。
今回はいつものような一人ずつ別のお題ではなく、全員同じルールで挑みます。
同じ言葉で始まって、同じ文を挟み、同じ言葉を使って終わるのに、
こんなに色々なジャンルの話ができる。
いつもながら書くだけでなく読む楽しみが大きい月一回の「お祭り」でした。
言い訳はアレ(?)なんですが・・
私のは 色々と書き足りないとか、走りすぎた感じな描写があり、
ちょっと 心残りな作品になってしまいました。
とても存在感のあるお題だったな、というのが
今回の私の感想です。


共通出題 (バトルロイヤル・ルール)
◎起の文
人が変わっていくのは救いであって、自分が変わらない世界なんて、私はごめんこうむりたい。
◎挿入文
「あれだけ意見が対立しているんだから、そんなことができるわけがないだろうが」
◎結の文
言葉というのは、きわめて乱暴なものである。

お題の出典:『無思想の発見』 著:養老孟司 


******

「人が変わっていくのは救いだわ。変わらない世界なんて、私はごめんこうむりたい」
壁に寄り掛かって立っているのが「片岡さん」だと気づいた時、
彼女のその言葉を思い出した。



お洒落なレストランでの同窓会は案外盛況だ。
高校を卒業してから12年。葉書を貰った時は行くつもりなどなかったが、仕事のスケジュールばかりの予定表にふと、他の予定を書き加えてみたくなった。
特に会いたい人がいたわけではない。
地元を出てこちらに居る人の集まり、学年も関係なし
・・というのがかえって気楽な気がした。
12年の歳月はどんな風に人を変えるんだろう。
自分のこの12年は他の人から見たらどうなんだろう・・

鈴木沙恵は定期入れの奥から吉野俊太の7年前の写真を抜き出して眺め、
そして迷いながらまた、奥の方に差し込んだ。


「片岡さん・・よね?」
つい、話しかけてしまった。
小学校、中学校、高校と同じところに通ったのに、ほとんど話しをした覚えがない。
小学校の時は大人しくて目立たないタイプだった。
中学以降はどんな心境の変化か、ごろりと変わる彼女の外見にいつも戸惑った。
黒髪ロングストレート 校則違反のパーマに茶髪 いきなりのベリーショート・・
誰ともつるまず一人で平気な顔している彼女には、
いつも中心グループからの風当たりが強かった。
次々と付き合う相手を替え、その相手に合わせているのだという根拠のない噂が流れ
聞こえよがしにその事について言われた時、彼女の口から出たのがあのセリフだった。
華やかな席に似合わない、タイトな黒のパンツスーツにショートカット、
グラスを片手にした彼女を横目で見ながら、
沙恵は少しずつ、自分が苗字の上を取って「鈴」と呼ばれていた頃のことを思い出していた。
周りがニックネームや名前で呼び合う中、
彼女だけはいつもどんな外見の時も「片岡さん」だった。

「鈴」
続く言葉が見当たらなくて口篭っているところに、
バレー部キャプテンだった美波が声を掛けてきた。
さっき「変わった」と言われて「それって老けたってことぉ?」
なんて泣きまねしていた女だ。

「鈴」とニックネームで呼ばれるだけで、気持ちは学生時代に戻る気がする。
「久しぶり。誰とも連絡取ってないみたいだし、心配してたのよ。ほら、吉野君のこと・・」
声を潜め、美波はさも、気にしていてくれたように言う。
「あ、でも・・鈴のことだから ただずっと沈んだままでいるなんて思ってなかったけどね」
美波が俊太のことを切りだすと、少し離れたところで先ほどまで美波と談笑していたメンバーの、探るような視線を感じた。
中の数人は俊太の葬儀で顔を合わせていた。
美波は海外赴任の夫について行ったとかで、確か日本にはいなかったはずだ。

「結婚直前だったのよね。もう7年にもなるの?大変だったよねぇ」
同窓会に出ると決めた時点で、予測できない事ではなかった。
それでもやはり動揺した。
沙恵は、呼吸を整え顔を上げると、美波に向かって明るい笑顔を作って見せる。
「鈴」って子はそういう子だったはずだから。
「有難う。もう大丈夫。俊太もね、事故にあったなんて思えないくらい綺麗な最期だったんだよ。今じゃ 笑顔の俊太しか思い出さないし」
「そっか、ごめんね。私あの時いなくって、何の力にもなれなかったね。
・・・でも鈴みたいな彼女がいて、幸せなヤツだったよね」
「うん、きっと 俊太もそう言ってくれると思うよ」
重い気持ちに反し、すらすらと綺麗な言葉が口から出る。
笑って見せたりしてさ、話を早く終わりたいのに。美波、早く離れてくれないかな。

「鈴、ねぇ食べ物取りに行こう」
片岡さんに、「鈴」と呼ばれたことがあったかどうかも思い出せない。
いきなり間に割って入ってきた片岡さんは沙恵の腕を掴んで引き寄せた。
わざとらしく、美波にドンと肩をぶつけ
「あ、ごめんなさい、えぇと・・誰、だっけ?」
片岡さんは冷たい視線を美波に投げると、沙恵の手を強引に引っ張って、料理の皿の載ったテーブルの方へと向かった。



「ありがとう。助かった。・・片岡さんも勿論知ってたんだよね?」
大して食べもせず その後すぐ片岡さんと一緒に会場を抜けた。
飲んだのは乾杯の時のワインだけなのに頬が熱い。
片岡さんは乾杯からずっと飲んでいたらしい。
昔より話しかけやすい雰囲気があるのはお互いの酔いのせいなのかもしれない。

ぶらぶらと大通りを抜け、公園の噴水の周りを歩く。
一つだけ高く上がっていた噴水がすっと止まり、残った波紋だけが静かに広がっていく。
数分後にはまた一斉に何本もの噴水が上がるはずだ。
幾種類もの上がり方のパターンを持つこの噴水は一人で眺めていても飽きる事がない。
沙恵が一人でぼんやりしたい時によく来る場所だった。

「何が?」
「俊太のこと」
ああ・・と沙恵の方を見もせずに片岡さんはさらりと言う。
「実家に用があって帰った時聞いた。狭い世界だからね。嫌になる」
「そう・・」
「話したくないんでしょ。別に無理矢理聞こうなんて思わないから」
そっけなく冷たい感じのする話し方。
気遣ってくれるのだろうか、そう思うと沙恵は余計に声を明るくして答えた。
「そんなことないよ。俊太との思い出は全部 学校に繋がってるし・・・」

「片岡さんも小学校からずっと同じだったよね。俊太とも何回か同じクラスになった?」
上滑りする言葉が口をついて出る。あの頃と同じ。
泣いて泣いてまだ足りなくて 大声出して泣き叫びたかったのに 俊太のお母さんを励まして、笑わせた。
「気丈な婚約者」を演じ続けた。いつも貼り付けたような笑顔が鏡に映っていた。やがてはそんな生活に酷く草臥れて、仕事を理由にして田舎を出た。
「こうやって、一緒に思い出語ってくれる人がいるって、俊太にとっても嬉しいことなんじゃないかな」

片岡さんは静かに風に揺れる水面を、何だか難しい顔で見つめていたが、小さくクスリと笑うと、ゆっくりと首を回して鈴の顔をじっと見た。
「『完全燃焼、後悔しない青春』?『青春は後悔しない』? 学園祭のテーマ決める時のこと、私よく覚えてる」
いつも全然興味なさそうに窓の外を見ていた片岡さん。
彼女からそんな思い出話を聞くなんて予想もしなかった。
「ああ、あの時ね・・あの時も派手に俊太のこと責めちゃったっけ」
こうやって誰かと俊太の話をすれば、俊太は「過去の思い出」にできる。
同窓会に期待したのは そういうことだったかもしれない。結局、会場からは逃げ出してしまったけれど。

「クラス委員でいつも前向きな鈴木さん、『どうせ』が口癖、後ろ向き吉野君。二人よく言い合いしてた」
沙恵がクラスで何か提案すると、俊太がいちいち面倒だとか、面白くないとか文句を言う。
その時も何とか意見を纏めようとしていた。他の案も出ないので、沙恵が一人で考えて一人で進めているようなHRだった。
「人生、後悔してナンボ」
もう決まりかけてたのに俊太が言い出した。
「どっちにしろ 青春とか言う時点でもうダサいの」
どうして今になってかき回すの、司会の沙恵が俊太を咎める。そんなこと言うなら最初っからいい案出してよ。
「夫婦喧嘩」と周囲は苦笑し、いつものように最後に俊太が皆の前で折れた。
結局その後、クラスの意見が何となく纏まって行き、渋々の顔をしたまま、俊太が一番に協力してくれた。いつも そんな風だった。


俊太とずっとそのまま一緒にいられると沙恵は信じていた。
なのに 大学を卒業して就職も順調にして結婚の話を進めてた矢先、俊太はあっけなく逝ってしまったのだ。
式の打ち合わせをするため待ち合わせ場所に向かっている途中のバイクの事故だった。

「あれだけ喧嘩ばかりしてるんだもの、鈴木さんたち結婚なんてできるわけがないと思ってた」
「わぁ・・片岡さんに そんな風に見られてたんだ」
言い方にちょっと剣を感じたが、気にしないふりして沙恵は返事した。
止まっていた噴水が音を立てて上がり、水しぶきが顔に跳ねる。水音にかき消されそうな声で片岡さんは呟いた。
「見てたわよ。ずっと見てた。小学校の頃から 私は吉野君のこと見ていたんだから」
「え?」
「鈴木さんより私の方がきっと、いっぱい吉野君のこと好きだった」
今度は声を噴水に負けないように大きくして、片岡さんはきっぱりと言った。
噴水の前、真面目な顔して向き合う二人を、犬を散歩させている人が怪訝そうに見ながら通り過ぎた。
「吉野君の好きな音楽も好きな本も 私、全部知ってた。全部一緒だった。もっと話ができたら、絶対私たちの方が気が合った」
「どんなに外見を変えても誰と付き合っても結局は一緒だった。変わることなんて楽しくも何ともなかったんだ。
ずっと変わらない想いだけ抱えてた」
「吉野君の良さ、私の方がきっと解ってた。運命がどこかで変えられて、私と吉野君が付きあってたら、ってよく空想した」
沙恵の返事を待たず、片岡さんは言葉を続ける。どんなに長い間心の内に留めていた言葉だったのだろう。
「・・空想した。もしそうだったら・・」
だけど何で今・・・作り笑顔が退いて行き、得体の知れない黒い感情が沸々と湧いて来くる。
「まだ吉野君は生きてたかもしれないって・・」


沙恵の身体がぶるりと震えた。握った手の平に爪が食い込んだ。
火照った頬から急速に熱が退いていくのを感じた。
「何なの・・?」
言葉にした途端、固く閉ざした蓋が外れ、気持ちがあふれ出た。
静かに息を潜めていたものが弾け出る。勢いよく跳ね上がる。止められなかった。
「話ができてたら気があった?自分と付きあってたら今頃生きてる?」
変えられなかった運命を何で今頃そんな風に言うの?
どこで運命が変わっていたら、死んだ人は生き返る?
片岡さんは青ざめた顔でまっすぐに沙恵を見る。微かに唇が震えたが言葉は出なかった。
「一度でも俊太に気持ちを伝えたの?伝えもしなかったくせに、勝手なこと言わないで。」
言葉は酷く暴力的で、人を傷つける。
俊太には何も気にせずポンポン思ったことを言えたけれど 他の人には言葉を選んできた。
クラスで浮きがちな片岡さんのことだって、さり気なくフォローしてきたつもりだった。
彼女のこと苦手だと思っていたのは、やはり彼女の俊太への想いをそれとなく感じていたからだ。

沈黙が恐ろしく長く感じる。指の先まで冷えていく自分を感じた。
取り返しのつかない言葉を言ってしまったと沙恵が悔やんだ時
「そうよね。鈴木さんがいるから『どうせ』あたしなんか・・先にそう思ってた。情けないことに私も『後ろ向き』なヤツでね」
自嘲ぎみに笑って見せ、片岡さんは声を低くして続けて言った。
「前向きで頑張り屋なんて、大迷惑。同窓会なんて出てきて、何?はい、7年経ちました、私はもう元気ですって?」

確かにそういうつもりだったかもしれない。
ちゃんと元気な自分、強くて明るい、今も変わらない「鈴」を誰かに見て欲しかったのかもしれない。そして確認したかったのだ。私は大丈夫。後悔することなんて何もない。




「違う・・」
違う、そうじゃない。後悔ばかりした7年だった。
誰かにずっと責められているような気がする7年だった。
「待ち合わせがあそこじゃなかったら、あの日じゃなかったら
・・付き合ってたのが私じゃなかったら・・
俊太の人生変わっていたのかなって、そんなこと、私だって何度も考えた。
私だってずっと考えていたんだ。後悔ばっかりしてたんだ」


「やっと本音が出た」
片岡さんが首をすくめて小さく笑った。
皮肉な感じの全くない優しげな笑顔に沙恵は却って戸惑う。
照れくさくて情けなくて、逃げ出したい。

会場を抜けた時はまだ夕暮れだったのに、もう空はすっかり暗い。
見上げた夜空には冬の星座が瞬いている。
小さな噴水がいくつか音を立てずに上がった。




「あのさ、一度だけ話す機会があってね、私言ったことがあるんだ。吉野君に」
「何?」
「あんなに皆の前で喧嘩ばっかしてさ、合わないんじゃないのお宅たち・・って。そしたらね」
「・・・俊太、何て?」
「生真面目で突っ走りすぎるから、あいつ、放っておくとクラスの中で浮く。
だから、オレがあそこで反対のこと言って、バランス取ってやってんのって」
「『前向きな自分ってヤツ』に縛られて、ガチガチになってやんの。オレはそれを解す役なわけ、って」
「俊太そんなこと言ったんだ」
「一生教えてなんかあげないつもりだったけど ・・ああ、悔しい。言っちゃった」
片岡さんはそう言いながら、くるりと背中を見せた。
「大嫌いだったのに、あなた励ましにわざわざ出てきたことになっちゃったじゃない。馬鹿みたい、同窓会なんて来なきゃよかった」
噴水が止まり、静かな闇になる。



「片岡さん」
綺麗なラインの黒いパンツスーツ。後ろ姿に沙恵が声を掛けても、片岡さんは答えなかった。
「私もあなたのこと何となくきらいだった」
池の底、虹色の照明が一斉に点き、噴水を下から照らし出す。
次の瞬間 七本の大きな噴水が水音も高く噴き上がる。
「私もね、同窓会なんてつまんなかった。来たことすぐに後悔した」
水音が大きくて、片岡さんに声が届いたのかどうか解らない。
「だけど今日は片岡さんに会えた。話せて良かった。ありがとう」
一言一言区切って声張り上げて、言った。


「ばっかみたい」
噴水の音に負けないくらい片岡さんも大声出で叫んで返した。
言い方は酷く乱暴だったけれど その響きは今までの中で一番優しかった。



「人生、後悔してナンボ」
虹色のライトに照らされた身体折り曲げて、二人クツクツ笑った。




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食事係の恋人 

バレンタインdayですね。嬉しいことありましたか?
今回は800字小説のお題「猫、公園、バレンタインデー」というのを頂いて、書いてみました。

投稿作品をまとめた「800字バトル(2)」も合わせてどうぞ。


****



「今日は、いないね」
猫はピクリと耳を立てる。自分ならここにいますけど。
「ミャウ」
短く鳴いて、由佳の足に身体を摺り寄せた。
「食事係その一」猫は由佳の事、そう思ってる。膝に乗ると温かくていい匂いがして、撫ぜ方だって・・悪くない。

誰がいなくてガッカリしてるか、猫にだって解る。
ひょろりと背の高い ピアスの男。
初めてここで会った時、「腹減ってんの?」ってポケットから チョコ出した。
そんな物 食わねぇよ。猫が睨んだ時、
「チョコなんて食べさせちゃダメっ」
由佳が大声出して走って来た。なのに男と向き合った途端、勢い失くして口篭る。
猫だって知ってる。あれから由佳は、奴と会うのを楽しみに公園へやって来る。
偶然みたいな顔してさ。本当はずっと前に来て、行ったり来たりしながら奴の事待ってるんだ。食事はその間お預け。
二人並んで猫撫でて、特に会話もない。だけど気が付いた。二人の距離が少しずつ近づいて、安らかな空気が漂っている。
それでも由佳は奴が帰った後いつも、ため息ついて猫に言う。
「名前も聞けなかったね」
全く、人間って面倒。

今日はバレンタインデーとか言うらしい。
商店街の散歩中、女の子達がやたら騒いでた。カップルが浮かれてた。
「最初に会った時持ってたから、チョコ嫌いじゃないと思ったんだけど」
由佳は泣きそうな顔して猫に言う。
「嫌いかもしれないよね。ほら、貰ったけど持て余してたとか」
本当に人間って奴は面倒くさい。
「ミャウ」
付いて来い。猫は振り返り振り返り歩き出した。

商店街のケーキ屋は チョコの香り。
休憩時間もなく立ち働く菓子職人の卵。 背の高いシルエット。
手作りチョコの入った紙袋 由佳は慌てて後ろに隠した。
ひるむな、行けよ。大丈夫。
猫は 立ち尽くす由佳を見上げてもう一度力強く
 「ミャー」と 鳴いた。


Texpo 800字文庫(1)

「温かな向かいの席」800字バージョン
掲載されてます。


Texpo 800字文庫(1)


他の作品も一気に読めます。
面白いですよ。ぜひ読んでみてくださいね。

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すずはら なずな

すずはら なずな

どれも短いお話ですが 
一つでも心に残ったら嬉しいな。

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舞い上がって
喜びます。

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