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生きることにちょっと 不器用な子どもたち、もと子どもたちの 短いお話を 綴っています

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3年後の届け物  (「さかなの目」その2)

Texpoに「高速執筆会」という一時間の制限で物語を書く企画がありまして、私も少し前やってみました。
張り切ってお題を頂いたのですが、全く間に合わず・・・。
「ひとり低速執筆会」としてコソコソUPさせてもらっています。
前回の「魚の目」の続編です。

この企画で如何なくその才能を発揮しているお友達がいるのですが、
本当に毎回 よくこの時間内でいいものを仕上げられるものだともう尊敬の一言です。
面白い企画だし、読み物としても十分読み応えがあるので、ぜひ読みに行ってくださいね



お題:「ポストの中に包みが入っていた」で始まること



*******


ポストの中に包みが入っていた。
外でコトリと音がした気がして、窓から玄関先を見たら、駈けていく達也の後姿が見えた。
サンダルをつっかけて出て見ると、ポストにその包みの隅っこが引っ掛かって、ふたが少し開いていた。
隣に住んでいる幼馴染の達也。
いったい何を入れて行ったんだろう。
気になって 部屋に持って入るのももどかしく かさかさと包みを開ける。
小さな茶色の袋の中に入っていたのはスーパーボール。
親指と人差し指でつまんで、空にかざすと 中の小さな金色の粒が陽をうけてきらきら光った。




死んでしまった金魚を小さな空き箱に入れ、千波は外に出ていた。つい さっきのことだ。
前にほかの金魚が死んだ時お父さんがしたように、家の脇のわずかな土の部分に埋めてやろうと思っていた。3年前の夏祭りで、掬って持ち帰った金魚は5匹いたけれど、この金魚を残して、みんな先に死んだ。

この間は後からペットショップで買い足したもう一匹が死にそうだった。
その時はお母さんと千波で懸命に水を替えたら良くなったのに、今度は酷くあっけなく、最初からいた方の一匹が死んだ。
リビングの窓のそばの水槽の中、その朝、腹を上にして、金魚はぷかりと浮かんでいた。
近くで見るまでもない。もうそこに生きているものの気配がまるでない。
千波は覚悟を決めて、水槽に向かって進む。

お祭りでお父さんと一緒に掬った金魚。お父さんがえさをやり、水を替え 面倒みてきた金魚。
なのに、お父さんは金魚のことなんかもう忘れているのだろうか。家に帰ってこなくなってもう一か月が過ぎた。

掬って来たのをお母さんに見せたとき、
「世話は責任もって自分たちでしなさいよ、母さんは知らないからね」と言われ
「出張だとか、父さんがいないときは任せたぞ」
お父さんは そう言って千波に笑いかけた。こんな風に自分が「いなくなって」しまうなんて あの時のお父さんは少しでも想像しただろうか。
「ボタンがね、掛け違えて ずれちゃった そんな感じ」
お母さんは 昔のアルバムを見ながらそんな風に呟いた。時間をかけてだんだんと ボタンを掛け間違うなんてことあるのかな。
落ち着いて、一度全部はずして、順にかけなおしたら、またいつもみたいにちゃんと その服は着られるのかな。

土を掘って 金魚を埋め、土をかける。お父さんがやったみたいに、「何かもっと幸せなものに生まれ変わっておいで」と祈り、そっと上から抑える。
茶色い土が入り込んだ爪を見ていると、お父さんが一度家に連れて来たあの若い女のひとの きれいな爪を思い出す。
何がどうなっちゃったんだろう。
どうしたら いいんだろう。
ぽたりぽたり。土に涙が落ちた。
立ち上がろうとしたら 頭がくらりとし目の前が一瞬黒くなった。目をぎゅっと閉じてもう一度しゃがみ込んだ。歪んだ視界の隅っこ 生垣の向こうでじっとこっちを見ている 達也の姿が見えた気がした。






スーパーボール、陽にかざしながら、千波は思い出してみる。

お父さんと金魚を掬ったあの夏祭り、達也とスーパーボール掬いの店ですれ違った。
狙った一番きれいな透明のスーパーボールは大きくて、最初に掬おうとしたらいきなり紙が破れた。
「残念賞だよ、どれか一個あげるから選びな」
店のおじさんが差し出したのは、どれも小さい。原色のしかも黒や紺、濃い黄色。千波の好きなピンクもない。泣きそうな顔を見られたくなくて、お父さんの背中に貼りついたまま達也の様子を伺う。達也はこともなげにいくつものボールを掬い上げていく。そして最後に千波の取り損ねたスーパーボールも取ったのだった。

スーパーボールのことでしょげ切ってしまいお祭りを楽しむことが できなくなってしまった。お父さんに促されて早めに切り上げた帰り道 少し前をふらふらとよそ見しながら歩く達也を見つけた。達也は誰とも約束せず、ひとりで来ていたみたいだ。もしかしたら、達也の両親もまだ仕事から帰って来ていないのかもしれない。声をかけると立ち止まって振り向き、達也は千波が手に提げた金魚の袋を見た。
「たっちゃん、金魚飼うか?分けてあげようか?」
お父さんが話しかけると 達也はちょっと怒ったような顔をして首を横に振り、浴衣姿でお父さんと手を繋いだ千波をちらと見て視線を外した。
千波は千波で、金魚より達也の取ったスーパーボールの方が気になっていた。
達也が手に提げているビニールぶくろの中のスーパーボールを、目で数えてみる。数も多かったけれどあの大きい透明のスーパーボールが とても羨ましかった。

角を曲がり、千波たちの家が見えてくる。
達也の家の門灯はまだ灯っておらず、窓はまだ暗かった。千波の家の玄関先にはお母さんが立っていて二人の帰るのを出迎えてくれている。
達也は急に走り出すと くるりと一度振り返り、スーパーボールのたくさん入ったその袋を高々と上げて見せ、
「千波のへったくそー」
一言だけ言うと、門の中に駆け込んで行った。がちゃがちゃと 暗い玄関あたりで 鍵を開ける音だけ聞こえた。




あれから3年経つ。 身長が伸びて隣との間の塀の高さは少し低く感じるようになった。だけど反対に達也との距離は遠くなり ほとんど話すことがなくなった。
あの時の金魚はこの一匹を最後に 全部死んでしまい、お父さんとお母さんは もうあの時のお父さんとお母さんじゃない。

ポストに届いた スーパーボール。達也、探してきてくれたのかな。
きらきら透かして 空を見る。 
千切れ雲がゆっくり流れて、大きな場所で自由に泳ぐ金魚みたいに思えた。
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すずはら なずな

すずはら なずな

どれも短いお話ですが 
一つでも心に残ったら嬉しいな。

過去記事どこにでも、
コメントOKです。
舞い上がって
喜びます。

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