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生きることにちょっと 不器用な子どもたち、もと子どもたちの 短いお話を 綴っています

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ひまわりの庭 Ⅱ 音のない時間

世界から音が消えた。
いきなり耳が聞こえなくなったのだ。

母の葬儀の後片付けも終わり
押しかけ同居人の義人と 穏やかに過ごしだしたその後
仕事を再開した1カ月後のことだ。

「やっぱりストレスとかじゃないかなぁ。のりちゃん」
耳や脳を検査した後 小さい頃よく診ててもらっていた医者は言った。
「お母さん亡くなって どっかで無理してないかな?」

帰って結果を話した次の日。
義人は慌てて、点字の本や癒し系の音楽の入ったCDを買いこんで来た。
私に「こんなもの買ってきちゃったぜぇ」と自慢げに披露し始めるまで 
その トンデモナイ間違いに気がつかなかったのだった。

相変わらずのトンチンカンさには笑えたけれど、
その慌て方を観ていると自分で思っているより、
事態は深刻なのかもしれないとそれはそれで 少し落ち込んだ。



職場近くのワンルームを引き払って 実家であるこの家に住むようになってから通勤には時間が掛かるようになったが そんなに負担には思わなかった。
問題は私が職場復帰した途端 今度は店長が行方をくらましたことだ。
噂では個人的な借金問題だとかだが本当のところは誰も知らない。

ひっきりなしに問い合わせやら取引先からの苦言やらの
電話が掛かりつづけ対応し続けて 休む暇もない。
一応 名前だけでもチーフという役職であっただけに
他の人たちへの指示もしなければならない。

耳が聞こえなくなるなんて 自分にこんな逃避ワザがあるとは思わなかった。けれど「体調不良」に逃げたからって事態は全然 楽になんかならないもんだ。
まずは職場の他の皆に 事情を説明をするためにメールを送り 
できるだけメールとFAXでの対応の仕事に切り替えてもらった。




「ほら のりさん、こんなに芽が出たよ」
義人がこっちを向いて 口をぱくぱくしている。
つば広の麦わら帽まで買ってきて 首にタオルを巻いた姿が 案外似合っている。
最近はだんだん 義人の手振りや表情で 何が言いたいか解るようになってきた。
というか、義人の言いそうなことなんて もともと 予測はつくんだ。

それにしても なんで急に「ひまわりの庭」なんだろう。
きっと義人のことだ、私の耳が治るまで 何か頑張ればいいことが起きるくらいに 考えているのだとは思う。
そして 咲きそろったひまわりが 私を勇気づける とかね。

「庭いっぱいに ひまわり植える。のりさんいいでしょ?」
義人が急に言いだしたことだ。
何を考えてるんだか この男の発想は 以前からぶっ飛んだところがあって予測不能だ。

もともと大した広さもない。
植え込みとか花壇とか 物干しスペースとか 物置とか
昔ながらの家の ごく普通の庭だが その土の場所や通路までも
義人は花用の土を加えて均し、長細いしましまの種を一つずつまき始めたのだった。

ひまわりは 嫌いな花ではない。
でも、咲き終わった後の様子を思うと 
項垂れ干からびた「元 花」が庭いっぱいに並んでいるのって どうよ、と思ってしまうのだ。

うん。
ただ頷いてさほど興味を示さないでいると
義人は とても残念そうな顔をした。とても解りやすいオトコだ。

「いっぱいに咲いたら 名所になって みんなが見にくるよ」
にこにこしながら さも 良いことのように義人はいう。
良く解らないという顔で義人の顔を見たら、足で地面に「名所」と書き 
首を伸ばしたり指をさしたり 目を輝かせてみたりして
「生垣からひまわりを眺めて感動するヒト」のジェスチャーをしてみせた。


─いや 知らない人に うちを見に来て欲しいなんて思わないけど。
浮かない顔で見ていると 義人が続けてまた今度は 遠くを指さし 
向こうから順に種をまくそぶりを見せた。
どこからかずっと うちまで続くよう ひまわりの種を播いてきたらしい。
義人の言うことは 手振り身振りで 十分伝わる。

得意げな顔で義人が伝えるには どうや彼の壮大な計画によると
ここはひまわりロードの終着点らしい。
ささやかな私の家は 義人の努力で 夏には 観光地になる・・・ということのようだ。
一体何のためにそこまでやるんだか。
義人の勘違いと思いこみ・・・は底知れない。


そして 義人の思いやりというヤツも・・・
アタシの中に少しずつ 少しずつ 沁みて来ては、いる。







 









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すずはら なずな

すずはら なずな

どれも短いお話ですが 
一つでも心に残ったら嬉しいな。

過去記事どこにでも、
コメントOKです。
舞い上がって
喜びます。

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