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生きることにちょっと 不器用な子どもたち、もと子どもたちの 短いお話を 綴っています

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放課後のたてぶえ

TEXPOの「初恋」テーマのバトルがありました。2000字~4000字だったのに
なんだか短いまま出してしまいました。2000字超えたくらいかな。
痛い私の思い出も 微妙に織り込まれてたりします。(寂)







あのこのどこが好き?

体育を休んで見学した時 時田くんも見学だった。
ちぃちゃんは喘息ぎみで、ナツは生理。
真冬なのに半そで半パンの体操服でのポートボール。
ほんとは生理だって体育は出来るし
もう慣れっこになったし 別に気になんかならないのに
ナツはまだ母さんにそんなそぶりは見せない。
嫌な体育をサボりたい時は 重ぉい顔をして
「走りにくいし、おなかも何となく痛いんだよね」
なんて言うのが効果的。
先生もオトコだから、連絡帳の母さんの文字をちらと見ただけで、
「はい じゃあ、見学な」
さっと ページを閉じてナツに返すのだ。



時田くんは勉強が出来て、優しい。
スポーツのできるタカキと二人でクラスの人気を二分している。

ふっくら体型のえくぼの由紀ちゃんが時田くんに告白して、
付き合い始めたのは2週間前のこと。
由紀ちゃんに色々相談されて、
「頑張んなよ、絶対いい感じだよ」
知った顔してアドバイスしたのはナツ。

自分も時田くんのことずっと好きだったなんて、
決してだれにも言わないんだ。ナツは心に決めていた。
それでも。

ナツと時田くんはお母さん同士が仲良しだったから 家でも時田君の話が色々聞けた。
誰もきっと知らない 時田君のこと ナツだけが知ってる、そんなことが こっそり、嬉しかった。
由紀ちゃんが転校してくるまでは ナツと時田くんがうわさされていた。
時々お母さんまで、変な冷やかしを言ってきた。
だから余計に 好きじゃないふりをしたんだ。

*

「あの子って ナツのこと好きらしいよ」
ちぃちゃん情報はいつも、ちょっと嫌われ者の子や、勉強できない男子が 
好きな子は誰?って聞き出された結果、ナツの名前を言った・・なんて話ばかりだ。

皆みたいに、ありもしないバイキンを手で払ったり 
フォークダンスでその子の時だけ手をつながないなんて 
ガキっぽいこと、ナツはしない。

優しい、差別しない子
・・・自分のこと、その子たちがそう思っているからだろう。

でも違うんだ。
何か違うんだ。あたしはそんなに「いい子」じゃない。

嫌だ。好きだなんて言うな。
自分が嫌になるんだよ。

ギゼンシャ。ウソツキ。

ナツは 自分の日記に綴ってみる。



由紀ちゃんが にこにこしてるだけの子ならいっそ良かった。
由紀ちゃんは勉強も良くできる。でもちっとも偉そうじゃないし ガリ勉ぽくもない。
「ぶりっこ」っていうのも当たってない。
おしゃべりが上手でよく笑う。面倒見もいいし 怒らない。
由紀ちゃんのこと好きなわけなんて 聞かなくたって判るんだ。

ほっそりした体系も、きりりとした整った顔も
ナツの自慢だったのに、そんなのもう何の意味もない。



*


あのこのどこが好き?

やさしいところとか よく笑うところとか
そんなことを時田くんは言うんだろう。

それとも「ばかなこと聞くな」とかテレた顔して言うのかな
「別に好きじゃないから」・・怒った顔してそんな風に打ち消すかもしれない。
ちぃちゃんと一緒に 時田くんの傍に行って 二人で聞いた。

その時 時田くんは、からりとした笑顔で
「顔」
と答えたんだ。

「顔だってぇ」
ちいちゃんは 思い出して笑う。「話を短く済ましたよねぇ、もう、テレちゃってさ」

ちいちゃんは 自分ではタカキ派だっていってるけれど 
もし その時の時田君の答えが「優しい」だったら 
由紀ちゃんの どっかちょっと意地悪なところやキツかったこと 
探し出したかもしれないし
「明るい」なら 女の子ばかりの時は機嫌悪くてブスっとしてることもあるとか
そんなことを きっと数えあげる。

ナツの心が チクンと痛んだのは 負け惜しみ言ったって どうにもならないってことを
感じたからだ。

「顔」のことだってやっぱり、誰かと由紀ちゃんと比べて「あのこの方が可愛い」とか言ったって 
それだって何にもならない。 



ちいちゃんとミヤちゃんが きゃあきゃあ言いながら
皆が帰った後の教室で タカキの椅子を取り会いしている。

この間なんか タカキのリコーダーを 勝手に引っぱり出して、
吹いたとか吹かないとか 大騒ぎしていた。

*
放課後の教室。
時田君の机。
時田君の椅子。
時田くんのリコーダー。


日直の仕事を終え、日誌を書き
ナツはちらと視線をやる。
今日はみんな先に帰ってしまい ナツがひとり残っている。
一緒に日直のはずの男子は 何にもせずにさっさと帰ってしまった。




どうして先に好きだった方が 上手くいくんじゃないんだろう。
どうして好きだった時間が長い方が、いっぱい好きになってもらえないんだろう。

皆みたいに放課後こっそり 好きな子の物に触れるなんて
そんなガキっぽいこと、あたしはしない。
あたしはしない。

壁に貼ってある自画像の由紀ちゃんのえくぼ。
じっと見ていると なんだか悲しくて涙が出そうだ。
押しピン、赤チョーク 黒板消し 先生の机の上のはさみ。

ふと浮かぶ想いを 頭を振って振るい落とす。
あたしはそんなガキっぽことしない。
しないんだ。

壁じゅうのクラスの皆の自画像がナツを見下ろしている。





カチャリ カギ掛けてナツは しんと静まり返った教室を後にする。


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窓の中のおままごと

創作サークルの Mistery circle が再始動し
2回目を迎えました。めでたいっ!!

今回 頂いた 始まりと終わり(の方に使う)の文のお題は
次の通りです。

「その笑顔は、むしろ開き直っているようにみえた」

「年齢を感じさせない、強烈な意志を込めた言葉だった」

お題の出典は《 角川スニーカー文庫 『 消閑の挑戦者 パーフェクト・キング 』 著:岩井恭平 》です。












「笑顔でよ、むしろ開き直っているって感じだったんですって」

谷元さんはきっちり詰められた手作りのお弁当を開きながら 言う。
バイト先の休憩室のTVでは連日ワイドショーで 児童虐待と育児放棄の話題をタレ流している。
谷元さんが話しているのは知り合いの娘の同級生で 似奈ちゃんという「家庭に問題がある子」のことで…
話は 遠足や運動会での似奈ちゃんのお弁当の話になっている。

谷元さんは、黙々と自分の作ったお弁当を食べている私と短期バイトの祥子さんを順に見、反応の薄さにがっかりした様子でため息をつくと
「かわいそうよ、そんな人の娘。なのに その人って全く悪びれた様子もなく『お金払いますから』よ」
「だって遠足よ、お弁当ってそれでなくても子供にとって楽しみなものでしょ?」
谷元さんはさも「同情」していますという表情でひとり頷きながら、更に続ける。

「作るの忘れたんだか、もともとそのつもりだったのか知らないけどさ、先生に、コンビニのお弁当買わせて、で、それだったんだから」
つきっぱなしのTVに視線を戻すと 話題はもう別のものに変わっていて、タレントの言葉に周囲が爆笑していた。

*
「お弁当の話だったから キレたわけじゃないよ 」
バイトを終え 従業員出入口で待ち合わせた雄太相手にぼやく。
仕事の間に降った雨が上がって足元の道が濡れている。

あれから仕事に戻っても 行事のお弁当や手作りの袋物、上履きに描くその子だけの可愛い目印などが「ない」ことを数え上げ、「かわいそうな似奈ちゃん」の話をし続ける谷元さんに イライラした。

「先生とその母親が職員室でどんな顔して何を話したかなんて 二人以外がどうして解る?母子の間にどんな気持ちがあるなんて 何で 他人が知ってるよ?」
その場で声にならなかった気持ちが 雄太の前で勢い良く溢れだす。
横顔のままの雄太が「うん」と静かに頷いてくれるのを見て、少しだけ落ち着いた。
「おかしいよ、そんなのって…子供の時からいつも思ってた」

「大人」になった今では 「ここだけの話」だといいながら くだらない噂や 本人を無視した勝手な憶測が 平気でそこいらじゅうに広まることは 十分解っている。
ひとの噂と悪口を食って ぶくぶく太ってるヤツらの存在を知っている。

ぶるり 身震いする。
「吐きそうだ」
雄太は静かに私の言葉を聞きながら、サクサク音を立てて草の上を歩いていた。だだっ広いこの草地を囲んで立ち並ぶ、古い団地の色あせた棟を見上げながら 今度は声を出さずに うん、と頷き そして ちょっと冗談めかして言った。
「吐くなよ、もったいない」


雄太は小学校から一緒にいたヤツだから 大体のうちの事情は知っている。
母はずっと仕事が忙しい人だったから 我が家ルールというのが沢山ある。
その中でも「お弁当は自分で作る」というのが 小学校の高学年頃からあり、だから中学の毎日のお弁当も当然自分で作った。
もちろん冷凍食品も利用したけれど、すぐにそこそこ手作りのものを詰めて小奇麗に作れるようにもなった。
「一つ もーらった」と すぐにおかずを摘まんで取っていったのは雄太だった。「美味い、お前の弁当 いっつも ムチャ美味!」教室の後ろからでも聞こえる大きな声でほめてくれたのも雄太だった。

母が出勤の日や、夜勤明けで寝ているため 自信作を見せることができない時は、写真に撮って後から母に見せた。
「凄い凄い。佳苗は料理の天才だね」
後から私に抱きつきながら 一緒に写真を眺め、母は手放しで褒めてくれた。

今や料理は特技と言ってもいい。趣味だって言っても構わない。
でも、そんな話をすると「かわいそう」だと私のことを言う大人がいた。母を非難する人もいた。しっかりしてるのね、偉いねと褒められたり 母の教育方針にやたら感心してみせる人もいた。
自分では 別に自分を特別かわいそうだなんて思ったことはない。

だけど向けられる他人の目や的を得ないバラバラな感想に飽きてきて いつの間にか 家族のこと、本当のこと…友人にもあえて言わないようになった。
親との関係なんて本当のところ 他所のひとには解らない。
「やっぱ お弁当の話だったからかもしれないや」

まだまだ続けそうな谷元さんの話に その時思わず呟いてしまったのだった。
「ウザいババァ」

「拙かったんじゃねぇの?職場的にはさ」
「大丈夫。おめでたいっつーか、谷元さん 自分のことと思わなかったみたいなんだよね」
喧嘩を売りたかった訳でも何でもないが 放った矢は見事に谷元さんを避けて TVに向かって飛んで行き 途中で 勝手に折れて消えた。
クスッと笑った祥子さんの横顔が、静かに私に同意していた。

「じゃ、明日」
雄太と団地の先を曲がって左右に分かれる。
本当は団地内は通り抜け禁止なのだが 中のだだっぴろい草地を歩いて帰るのが好きだ。雨上がりの足元からは草の匂いが盛大に広がって 靴の周りをぷちぷちと滴が跳ねる。
小学校の頃はクラスの子が結構沢山住んでいたこともあり ここでよく遊んだ。
ずらりと並ぶベランダを見上げると 洗濯物があったり布団が干してあったりどの家にもひとの気配があった。賑やかで色とりどりで、生活するひとの息遣いみたいなものがあった。
どの窓の中にも違う生活があって それぞれに家族の時間が流れているんだろうな、と思うと何だか不思議な気がした。
「ひとつひとつにさ、それぞれの家族があって それぞれにおままごとみたいな一日一日があるんだって 何かいいよね」 
一緒に遊んでいた雄太に言うと
「だよな、何か妙な気もするし 当たり前のような気もするし」
雄太もすごく真面目に答えて 日焼けした少年の顔でベランダを見上げた。

団地内のスピーカーから帰宅を促す「家路」の音楽が割れた音で響くころ、カーテンを通し、窓々に少しずつ違う色の明かりが灯る。
母は仕事で自分の家はまだ暗いから ちゃんと明かりを灯しに帰ろう、うちの窓に温かな色の明かりを灯そうと 大急ぎで走って家に帰った。
大好きな母の帰る大切な家を守る、その時だって私は「かわいそう」なんかじゃなかったはずだ。

今日も 最後に振りかえり並んだ窓を見上げる。
一番隅の棟のベランダに、いつもと同じように小学生くらいの女の子がいて
柵の間から 外を眺めている。
何だか昔の自分を見ているような気がして懐かしくなる。
何となく そうしたくなって 女の子に手を振ってみた。
気がつくかな?
女の子の様子をうかがったが遠くて良く解らなかった。

*

祥子さんが短期のアルバイトで入って来た日のことは よく覚えている。
宜しくお願いします、と控えめ微笑みかけた祥子さんは、色の白い線の細いひとで 子供がいないせいか若く見えた。話すと意外に低く小さい声でゆっくり喋る。いつもうつむき加減なこととぼそぼそといっていい話し方が 周りの人には ちょっと暗い印象を与えたかもしれない。


谷元さんが惣菜担当の指導係を頼まれていて 同じシフトの私が最初の顔合わせでそこにいた。
谷元さんは 子供が小学校に上がった時からパートを始め 子供の帰宅時までには絶対に帰る。聞きもしないのに 子供に「おかえり」を言うことが どんなに大事かをとくとくと語る。
そして他人のことをこと細かに聞きださないと気が済まない面倒なオバサンだ。
「だって 一緒に時間を過ごすひとが 何考えてるか解らないなんて嫌じゃない?」

いやいや そうやって知った他人のこと あんたが噂話のネタにしてることくらい誰だってすぐに解るんだよ。
曖昧に受け流そうとしても食い下がる谷元さんに、あんたにだけは絶対に本音なんて言うもんかと いつも思った。


「何なのっ?今の?」
「・・・すみません。気にしないで下さい」
気づいたら祥子さんが谷元さんに謝っていた。顔色が酷く悪い。
谷元さんの ポカンと開けた口と見開いた目が 尋常でない雰囲気を物語る。
妙な沈黙を破って 休憩時間の終わりを告げる誰かの携帯のお気楽なメロディーが鳴った。
無理やり気を取り直した感じで 谷元さんは 引きつった顔のまま
「いやあねぇ、この人 脅かすんだから。悪かったわよ、余計なこと聞いて。でもねぇ そんな声色まで使って そんな言い方…」
笑いながらも谷元さんは しどろもどろで、祥子さんと目を合わせない。
その後の仕事は最悪で 谷元さんは失敗だらけでそれを他人のせいにしてばかりいた。

「また次の子作ればいいわよ、とか、そんなつもりじゃないって解っていても 簡単そうに言ってるみたいに聞こえてしまって…」
手洗い場で二人になると祥子さんはそう言って 鏡を見ながら白衣を整えキャップを被り直した。
「聞かれても言うつもりもなかったし、言うべきことでもなかったのにね」
祥子さんは寂しそうな目でどこか遠くを見た後 口角をきゅっと上げて 仕事場に戻っていった。
例によって谷元さんが 祥子さんのプライベートに踏み込んで嫌な思いをさせたようだ。
「声色まで使って」の内容は気になったが その時の詳しい話は聞けないでいた。

*
「祥子さんってさ、すごいんだよ」

祥子さんは 時どき不思議な能力発揮する。
それを雄太に教えられる日は 何だか自分の自慢みたいにウキウキする。

それは 横から見たら全く同じに見える 巻きずしの中身をぴたりと当てたり たまに 誰かがぼんやりして具を入れ忘れた巻きずしを(あり得ないと思ったが 案外そういうことはある)売り場に出す直前に 見つけたこともあった。
今日 誰かが緊急でお休みしそうだとか 天気予報でも解らず誰も予想しなかったような雨とかそんなこともピタリと当てた。
「でもさ…」
祥子さんのいない場所で 谷元さんは他のひとを捕まえて言うのだ。
『ナントカ能力者、みたいなこと誰か言ってたけど そんなの無いわよ。気味悪い。
ぼんやりしてるように見えて ひとのこと見てるのよ、あの人。他人の失敗しそうなところとか あら探しとか』
 
谷元さんは 祥子さんが「自分の流産ついて触れられたことが嫌で」「谷元さんを怖がらせようとして」妙なことを言って脅かしたと 言いふらしている。最初の顔合わせの時の話だ。

「聞いてなかった時のことだから 何とも言えないけど…」
部署の違う雄太もその噂を聞いたらしいので 私が答えると 雄太は眉間にしわを寄せてううむと唸り 首を回したりしながら ゆっくりと返事を探す。
そういう時の雄太は ひとのことだっていい加減にじゃなく ちゃんと考えている感じがして結構好きだ。

「どっちかというと オレも信じる方だなぁ。佳苗とおんなじでさ」
雄太がそういう風に言うのには少し驚いた。私が祥子さんの「能力」をどの程度信じているか雄太には話していない。

『代わりに産むとか 生まれ変わるとか そういうのは違う そんな言い方は嫌だ』
それは 産まれなかった祥子さんの子供と祥子さんが、いつも「会話」してることで、それが その子の声になって その時自分の口から出てしまった…
そんな状況だった、と 祥子さんは二人きりの時 真剣な目をして私に言った。
そして そういうことは今まで何度もあったのだ、と祥子さんは言った。


雄太なら 受け止めてくれる気がした。ちゃんと解って欲しいとも思った。
「もし授かるとしても…新しい命はちゃんと別の人間として 亡くした命もちゃんと大事なひとりとして 考えていたいの」
祥子さんの低く呟くような声は今でもはっきり覚えている。


*

狭い食品部門用の休憩室は、節電のため蛍光灯を半分消してあり そのため以前来た時より陰気な感じがする。
誰かが点けていったままのTVではワイドショーが流れ したり顔のタレントと悲壮な顔をしたコメンテイターが いつものように 育児放棄の話をしていた。
今日は実際に事件があったとかで 子供の名前と事件の起きた場所 その内容が 仰々しい効果音とやたらセンチなメロディーをバックに説明されている。
毎日毎日 母の帰宅をそこで待っていた少女が ベランダから転落死した事件。「事故と自殺の両面から」捜査されているという。

事件のあった団地に見覚えがあるような気がして TVに近づいて見る。
ワイドショーでは転落死した娘、「似奈ちゃん」の母親が「育児放棄の疑い」があったこと、似奈ちゃんが「どれだけかわいそうだったか」について延々と語っていた。
画面に映る母親は、質問に対しても子供のように泣きじゃくるばかりで 一向に要を得ない。

谷元さんがばたばたと近づいてきて 「ほらこの子よ、この間言ってた」
事件を先に知っていたらしく 聞かれる前に 誰かれなく話をし続けている。
やっぱりね、あのままじゃ済まないと思ってたのよ。
前も言ってたでしょ ほら見るからにいい加減な酷い母親でしょ? 本当にあの子可愛そうに。

画面に映った団地の様子を見て目を疑った。
あそこなのか、もしかしたら 私がいつも見かけてた あのベランダの あの子なのだろうか。いつも柵の間から顔をのぞかせていたのに、どうして。
それでも団地の名前とベランダの位置の解る映像を見て確信は深まった。
その日は何か台に上って外を眺めようとしたらしい。

「この子も佳苗ちゃんのこと見てた」
声に出さずにいたはずなのに 横で祥子さんがぽそりと言った。


*
似奈ちゃんの事件がTVで報道されていた時はずっと 谷元さんが似奈ちゃんの母親の話を披露し続けていて
そういう時祥子さんはたいてい TVのそばに行っては 黙って画面を凝視していた。
私も谷元さんからできるだけ離れたかったから ワイドショーは嫌いだけど祥子さんのそばに座った。
深刻そうなナレーション入りで ぼかしの掛った部屋の様子が映し出されていたが 散らかった部屋にはこどもの好きそうなキャラクターグッズが溢れている。カラーボックスの本棚には キャラクター弁当の作り方の本や子供向けの手作り小物の本がたくさん並んでいるのが解った。
家事一切が「苦手」なひとっているんだろうな…一瞬 自分が今 その部屋にいて、ただ焦りと困惑で泣きだしてしまいそうな そんな気持ちになった。目の前がぐるぐると回る。足元が不安定で倒れそうになる。

一度だけ「似奈ちゃんのおかあさん」を見ことがあるのを思い出した。
いつものようにベランダを見上げた時、女の子が伸び上がり、飛び跳ねて大きく手を振ったのだ。
あれ?あたしに?
一瞬 そうかと思ったが 振り返ると草地の遠くから やって来る女の人がみえた。大きく手を振り返し だんだん小走りになって近づいて来る。
あのこのお母さんだろうな、私の傍を駆け抜ける時、その人の金色に染めた髪がふわりと揺れた。服装と髪の色からイメージするようなきつい香水の香りじゃなく、淡い花のような香りがした。
何だかそこだけ スローモーションで覚えている。

二人で黙って画面を見ていた時 祥子さんの様子がおかしくなった。
手が震え 顔が真っ青だ。

「おかあさんのこと わるくいわないで」
聞き取れないほど小さな声が聞こえた。
祥子さんの唇が動いたのに それは別の人の声だ。
普通ではない空気を感じ 祥子さんに何か言おうとしたが声が出ない。 

「あたしは かわいそうなんかじゃ なかったもん」
「おかあさんは あたしのことだいすきっていってたもん」

本人の年齢とは思えない少女のような澄んだ高い声が はっきりと祥子さんの口から洩れた。


それは誰にも文句を言わせない強烈な意志を込めた 
似奈ちゃん自身の言葉だ。
見つめ返した祥子さんの目が強く訴えていた。




煩瑣時も終わりに近づき 祥子さんの惣菜の加工場の短期バイトもそろそろ終わる。
「また 忙しくなったら 来てくれる?」
「佳苗ちゃんがずっといてくれるなら また来ます」
祥子さんも笑って答える。

たんたんと続く作業中十分に会話もできなかったが 谷元さんの「常識」が全ての狭い職場で、いつも静かに笑っている祥子さんの存在に、何度救われたか解らない。
キレそうになると 祥子さんがいつもそばにいて 背中をゆるくさすってくれた。私の感情の起伏が全て解っているみたいだった。

「いつも草地を一緒に歩いてた男の子と付き合ってるの?」
祥子さんが いきなり聞いてきた。いつ そんなに見られていたのか不思議に思う。
「雄太?いやいや、そんなんでもなくて、古い友達といいますか、ええっと…」
ちょっと焦る。
「あなたのこと好きだと思うな。変に離れて歩いちゃって…お互いもっと素直になるべきだわ…って ちょっと生意気なこと言ってた」
祥子さんは 私の耳元で囁いた。
「え?」
雄太のこと? 何で祥子さんが? 生意気なこと言ってたってそれ、誰が?
意味が解りかねて聞き返すと

「てをふってくれて うれしかった。」
祥子さんの唇から 可愛い澄んだ子供の声が聞こえた。


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すずはら なずな

すずはら なずな

どれも短いお話ですが 
一つでも心に残ったら嬉しいな。

過去記事どこにでも、
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舞い上がって
喜びます。

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