STAND BY ME

生きることにちょっと 不器用な子どもたち、もと子どもたちの 短いお話を 綴っています

さくら~公園の童話①

2004、秋頃 50音順お題:「さ」


sakura.png


その公園には、年寄りの それは立派な 桜の木があります。

花の頃になると、電車や車に乗って、
遠くの町からも たくさん人がやって来て、
思い思いに 写真を撮ったり お弁当を広げたりします。


隣に植えられた若い桜は、
そんな人々の 桜を見上げる時の 表情を見ると、
桜であることを、誇らしく思うのでした。



若い桜が その、か細い枝にやっと、かたい芽を少し つけた時、
一人の老人が うつむいたまま 通り過ぎました。

「桜じいさん、私には よく 解らない。
   もうすぐ つぼみが ふくらむのに、
   なぜあの老人は、顔を上げずに 通りすぎるの?」

じいさん桜は 話しかけても ほとんど、黙っています。

もう返事してくれないか、と若い桜が思ったとき
低い静かな声で じいさん桜は言いました。

━あの老人は ずっと若い頃、 
大好きだった女の人と ここへ来て、
指の先に初めて そっと触れたんだ。

戦争が 始まって、終わって、 
ここでまた やっと会えて、
それから一緒に歳をとって
   
・・けれども 彼の方が ひとり 
長く生きてくことになってしまった。

桜の花びらの色は、きっと 
あのときの、きれいな 指先を思い出すんだろうね・・。


若い桜の問いかけに 答えたというよりは、
まるで独り言のような、じいさん桜の言葉でありました。

若い桜は、毎日やってくる老人を 
もう少し黙って見守ろうと思いました。



若い桜の芽が 膨らんで、小さなつぼみに なりました。
女の人がひとり、ため息をついて 通り過ぎました。

「桜じいさん、私には まだ、解らない。
  もうすぐちらほら花が咲くのに、
  ため息をつく人がいる。」

長い沈黙の後、じいさん桜は また独り つぶやくように言いました。


━ あのご婦人は ずっと前の冬に 赤ちゃんを産んだ。
病気で生まれた赤ちゃんのため、
この道を毎日病院まで歩いたものだ。

花の咲くころにはきっと、赤ちゃんと一緒に公園に行こう。
満開の桜の下、元気になった赤ちゃんの
笑顔を 思い浮かべながらね。
それは、叶わなかったんだけれども・・。

若い桜は一瞬、女の人の思い浮かべたその光景を 
目にしたような気がしました。

そして、見てもらえるかどうか 解らないけど、
たくさん たくさん 花をつけよう・・と思いました。



若い桜の枝に ちらほら花が咲きました。
若い女の子が、悲しい顔で通りすぎました。

若い桜が聞く前に じいさん桜は 低い声で歌うように言いました。

━ あの子は 満開の桜の下、最初の恋に さよならした。
付き合うこと自体にウキウキしてるのが、
はたから見ても 解ったさ。
だけど 気がつけばいつの間にか 相手の心は 離れてた。 
   
花見で賑わう人の中、ぽつんと置き去りにされて、
あの子は どこへも行けないで立っていた。


若い桜は、女の子が いつか、
本当に心通う人と ここへ来ることを、心から願いました。



桜の花が 満開の頃、たくさんの人が 通り過ぎました。

じいさん桜は、もう何も話さず、

はしゃいで遊ぶ子供たちにも、賑やかな宴を 開く人たちにも
・・そして うつむいて歩く人、大切な思い出に涙する人にも  
同じようにその見事な花を咲かせて見せました。


やがて、若い桜の花は 散りました。

じいさん桜の花の終わりは それは美しい 花吹雪でした。          


そして 間もなく 桜の木々は 花の後に 青々とした葉をつけ、

夏には 柔らかな木陰をつくるのでした。



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コメント

いちばん思いの深い人は・・

きっと黙ってる人なんじゃないかな・・
って思ってしまって。

包み込む心の優しさを 
「さくら」であれば 
花を咲かせることで 示せるのにと・・。

さくら・さくら

秀逸ですよね~。大好き♪
木という生き物は、とても静かに長い時を生きるもの。
それをとってもうまく使っていると思います。
本当に愛しいのは、
何の変哲も無い、けど、一生懸命頑張っている
極普通の人。
そういう自分の中の核を呼び起こしてくれるお話です。

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すずはら なずな

すずはら なずな

どれも短いお話ですが 
一つでも心に残ったら嬉しいな。

過去記事どこにでも、
コメントOKです。
舞い上がって
喜びます。

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