STAND BY ME

生きることにちょっと 不器用な子どもたち、もと子どもたちの 短いお話を 綴っています

土星の家 木星の灯 (さかなの目4)

たまたま観たTVのたまたま観た特集が心にひっかかりました。
社会派っぽい作風は難しいけれど 中学生くらいの感じ方で とらえていくのが向いてるかなと。(精神年齢低すぎっ?)







「夏の夜なんかはさ、ここから涼しい風が入って来るし 月の光も挿しこんで なかなかいい感じだったぞ」
幼稚園児がやっと3人入って遊べるサイズの そのコンクリートの遊具の中、お風呂にでも入っているような格好で座りながら そいつは言う。
能天気な顔でそう言ったその直後、ぶるぶるっと身震いして肩をすくめ
「ううん…冬は…そうだなぁ…ちょっと、寒すぎるかなぁ」
…当たり前だ。
知らんぷりして去りそびれて 千波はため息をついて達也を見おろした。
幼馴染で隣の家の同級生だ。

「土星公園」。土星を模したこのコンクリートの遊具が砂場の真ん中にあるため 千波たちはここをずっとそう呼んできた。高架下の立地で薄暗いせいもあって 最近は子供をここで遊ばせる親も少ない。今は閑散としていて ペンキの剥げた遊具が一層寂れた感じを強くした。

─危ないよ、殺人事件でもおきそうだよ。独りで行かないで。
お母さんにも止められていたが 時々千波は学校帰りここに立ち寄った。

上をくり抜いた形の小さな土星には、相合傘だのわけの判らないロゴだのの落書きがある。砂も溜まっているから、制服のスカートを汚しそうで さすがに中に入ろうとは思わない。周りを囲むパイプでできた輪っかに足を載せ、土星のてっぺん、穴に落ちないように腰掛ける。不安定で座り心地は良くないけれど ずっとここが好きだった。
少し離れた木陰にはひっそりと木星もある。こっちはただの小さめの球体なので 飛びつくくらいしか遊び方もない。子供たちに人気はなかったが、 千波のお母さんの定位置だった。お父さんは「一緒に遊ぼう」と土星に入りたがったけれど お母さんはいつも木星の傍、ちょっと遠くで千波を見ていた。だからだろうか、ここから木星を見るとなんだか安心する。


「千波じゃん、何やってんだ?おまえ」
土星の中から見上げられて心底驚いた。
「なっ、何、そっちこそ。、ホームレス中学生 実践中?」
それは案外冗談でもない気がした。小学生の時からプチ家出を繰り返して 周りを迷惑させて来たヤツだ。達也はカラカラと笑い、そして「夏の夜」の、風だの月の光だのの話をし始めたのだった。
「寒っ…ああ。そうそうその「夏」にな、一遍 ここで会ったぞ、お前のオヤジ」

千波の父親がだんだん帰らなくなり 疎遠になってもう2年近くなる。今はお父さんの不在にも慣れ、やっとお母さんと二人、平和に暮らしている。
何でまたこんなところで近況聞くかなぁ、しかも隣の家のヤツから。千波はふぅとため息をつく。

「『千波はここが好きでなぁ、すねた時もここに隠れて泣いてた、懐かしい』とかさ まーた 調子いいこと言ってたぞ」
─あんたからお父さんの話なんて聞きたくない…っていうか何で二人がここで思い出話とかしてるんだ。マジごめんなんですが。
叫び出したい思いを抑えぎゅっと下ろした両手を握る。
沈黙が続く。そもそも最近達也とはそんなに口をきかなくなっている。幼馴染だといったって幼稚園の頃一緒に遊んで以来 そんなに仲良くしてきたわけじゃない。

「今日はオレ、ここに泊まろうかと思ってさ。母ちゃんとまた喧嘩」
達也のところのおばさんはいつも元気で思ったことをズバズバ言う人だ。母子二人暮らしの達也の家からは言いあいの大きな声と同じくらいふざけ声や笑い声もよく聞こえる。昔っからにぎやかな家だ。
「ネットとかツイッターとかで友達作るのは オタクでヒキコモリで、孤独死予備軍なんだとさ。あのクソババァ」
へぇ、達也ってネットとか好きだったんだ。学校で仲間とつるんで馬鹿やってる姿しか知らなかったので意外だった。
「達也は別にリアルで友達いるもんね。心配いらないんじゃ…」
「そういうんじゃなくさ、決めつけるのが気にいらねぇの。オタク、ヒキコモリ、孤独な人、イコール『悪』とか『悲惨』とか」
「色々考えるんだ、達也でも」
重い話が苦手なのは私の方だ。からかいぎみに返事して話を適当に切り上げようとする。まるでお父さんと一緒だ…千波は気づく。情けない。
空はもう夕焼けが消え、星がいくつか見える。
「でも、おばさん心配するよ、こんなところで野宿してたら本当に死ぬよ」
「そうだなぁ、冬だしなぁ」
いつもの顔に戻って、へらへら笑いながら達也は答える。

「死ぬ、かぁ。でもこんなとこで家族と離れて独りでいたら心配になってくるのかもなぁ」
達也が急に神妙な声を出し、土星の中で立ち上がった。服についた砂を払い、壁に手を掛けて千波の座っているところに一気に上って来る。
並んで座るのなんか何だかテレくさいのに、千波はできるだけ平気なふりをした。

「骨壷って、白いのばっかじゃないんだって 知ってたか?」
いきなり何故に骨壷。
「綺麗な模様入りのとか 小さくって香水瓶みたいなのがあるんだって」
子供みたいに足をぶらつかせて達也が続ける。
「『どっかで行き倒れになったら、オレどうなるんだろう』ってお前のオヤジが言ってた」
神妙な表情になった父親の顔を思い浮かべた。骨壷だとか行き倒れだとか、何考えているんだ。
「焼かれてから身元が判って連絡入ったら お前の母さん、引き取りに来てくれるかなぁ、って。オレもTVで観た。身元不明で引き取り手のない遺骨がさ、みんな同じ白い骨壷に入って棚にずらっと並んでるんだ…」
違うのに。みんなひとりひとり それぞれの年月を生きてきたのに。
同じ大きさ同じ形の白い壺がずらりと並ぶ棚を千波は想像する。
「何かさ、これに入れて下さいってせめて自分専用の壺持ってたい、とか、そんなこと言ってた…なぁ、オヤジともう縁切れてんの?」
黙っている千波を見、怒っていると思ったのか達也は慌てて付け加えた。
「うちはとっくにオヤジ不在だかんな。今さら連絡が入ってさ、確認してくれって言われても、本人だかなんて 姿見たってオレには判らないな。きっと」
「そんなこと…。」
喉に引っかかったものを無理やり押し出すような変に大きな声が出た。だけど続きが出ない。何て続けたらいいのかさえ判らなかった。


「『手先が器用で絵がうまい。美的センスがある。千波は芸術家になるといい』」
急に何だ?
「…ってお前のオヤジが言った」
「何?そんな話もしてたの?」
「ってか お前の話しかしてない。父の日に貰ったカゴとか誕生日に貰った絵とか粘土細工とか。良く覚えてるよなぁ」
ああ、本当に。

「お父さんその時ここで何してたの?」
「土星に住んでるんだって言ってた」
「何、それ」
「けど、次の夜 来たら いなかった」
なんだ、それ。
「結局帰ったんだ」
「何だかさ、嫌われちゃった、っつーか 呆れられたっつーかって言ってた」
「誰に?」それはあの女の人のことで、今更私とお母さんのことじゃない。
「帰る場所」がうちじゃないことを確認していまったことが 悔しい。
ちなみは唇をかんで空を見る。高架のせいで区切られた小さな空だ。

「それでも お前とは繋がっていたい、ってそういう話なんじゃね?」
「どういうこと?」
「だから 壷とか箱とか、お前が作ったのを持ってたいとかさ」
「…話がどう繋がってるのか よく解らないよ」

嬉しいのか悲しいのか、温かいのか寒いのか、こみ上げるものが何なのか 千波自身にももう良く分からない。話は繋がっている気もしたが やっぱり解りたくなかった。
ずっと別居しているくせに ふたりはまだ離婚してなくて 「千波が父さんに愛想尽きたら」離婚するんだと本気だか冗談だかわからないことを言っている。何であたしにそんな決定を押し付けるんだ?何であたしのせいにするんだ?頼りなくて調子良くていい加減なひとだけど あたしはお父さんが好きだ。しっかり者で賢くて優しいお母さんが好きだ。でも好きなひとたちが好き同士でいられなくて一緒に暮らせない。簡単に元の平和な生活には戻らない。考えるたび 静かに怒りがこみ上げる。すとん、と土星から飛びおりた。
「おい?」
「帰るっ」
結局 ずんずん歩く千波を追ってその日達也も家に帰った。


部屋に籠って 千波は怖々「骨壷」をネットで調べてみる。
本人であったり 遺族であったりするけれど 真っ白じゃなく その人らしい器を求める人がいるらしい。リビングに飾って傍でずっと供養することもあるらしい。
お父さんは寂しいんだろうか。独りぼっちで死にそうで怖いんだろうか。
あの女のひとと 一緒にいても。


どうしても気になったままでいられなくて 千波はお母さんに聞いてみる。
「そうねぇ、お骨は別に迷惑なんてかけないし…」
一瞬ではあったけれど妙に押し黙った母に まずい質問をしたかとおおいに焦ったのに、口を開いたお母さんは意外に明るい口調で言った。
「いいわよ、引き取っても。父さんのとこのお墓にちゃんと入れる。」
お母さんの気持ちがそういうので良かった そんな気がした。
誰かを恨んで、死んでも「知らない」ってそっぽ向いて、よその人に託すって…そんなの悲しい。しかもそれがお父さんだったら。
「お祖母ちゃんなら あの世でもしっかり叱ってくれるしね。フショウのムスコ」
くすくすっとお母さんは笑った。しっかり者で怒ると怖かったっていうお祖母ちゃん。お父さんがずっと頭が上がらなかった優しくて強くて大きいひと。あはは そうだよね、お祖母ちゃんがお父さんを叱るのが目に浮かぶ。

お父さんは知っているのだろうか。お母さんには最近創作の趣味がある。
仕事を増やして辛そうな時期もあったけれど 最近はそんな趣味の時間を楽しんでいるように見える。食事時、お母さんの焼いた器にサラダを盛りながら お母さんはなかなかいいセンスをしている、と思う。
「ねえ、お母さん、あたしも造りたいものがある」
「わぁ、何?どんなの?じゃ 一緒に習いに行く?」
「土星の型の器とか、木星型の飾り…とか」
それはいきなりの思いつきだった。けれど気持ちにしっくり嵌って悪くない気がした。骨壷なんかじゃない。土星と木星を造ってお父さんにあげたい。ううん、造ったからうちに取りに来てって言うのはどうだろう。

想いは凄く複雑で お母さんの気持ちとか考えると心配は膨れ上がる。
あたしはお父さんに愛想なんか尽かさない。
「戻って来て」それは言葉にするとあっけなく終わってしまう。だけど 時間は巻き戻せないし、わだかまりはきっと消せない。

お母さんにお休みを言って 部屋に戻る。
窓を開けると冬の星座が見えた。空気がキンとして時折吹く風は冷たいけれど それも結構気持ちが良かった。息を思い切り吸いこんで吐きだす。
今日も送信しないメールをお父さんに打つ。「おやすみ お父さん」。



大きな土星の形の家。
「さすが いいモノを造る。父さんの血をひいてるからなぁ、千波は」
お父さんがくしゃくしゃの顔で笑いながら言う。
木星の形のランプシェードを大切そうに箱から出し、お母さんが言う。
「これは私の作品。なかなかいい出来栄えだと思わない?」
お父さんがそれを受け取って天井に吊るすのを見守りながら、千波も言う。
「土星人家族だね」

ぼんやりとそんな光景を想像しながら 千波は眠りに就く。


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すずはら なずな

すずはら なずな

どれも短いお話ですが 
一つでも心に残ったら嬉しいな。

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喜びます。

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