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STAND BY ME

生きることにちょっと 不器用な子どもたち、もと子どもたちの 短いお話を 綴っています

美術室には小鳥たち③

3話完結の連載モノです。①から読んでくださいね。
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「たまにしか来れないけど ごめんね。」

フクオカさんが言ったとおり そう賑やかな日は続かない。



スケッチブックの「三つ編み」は、ほぼ完成していて
この後 どうしたらいいのか 
キリエは 考えをまとめかねていた。

久しぶりにまた あのキャンバスを出して来て 眺めてみる。
自分で描いてみると、この作者の圧倒的な上手さが 改めて解かる。
キャンバスを手に取って眺め、ふと 裏側の隅っこに目がとまった。

気がつかなかった。

木枠の隅に ごく小さく書かれた yosiharu というサインを
キリエは 見つけたのだった。

    *

「三つ編み」は キリエの教室での話しを聞きたがり
ヤスモトのすることなすこと面白がる。
そして、キリエの口にするクラスメイトの名前が増えるたび、
「三つ編み」は嬉しそうにその名を 繰り返して言った。

「三つ編み」のことも 時々キリエは尋ねてみる。
自分の話を楽しみに聞く人がいることも 
相手のことを知りたいと思う キリエ自身のことも不思議に新鮮で
そのことを改めて考えると ムズムズするくらいテレくさかった。


けれど「三つ編み」は もう何か聞いても
「キリエの話が聞きたいな。」

自分の話を後回しにし、
思い切って いまさらながらの名前を聞いても
「ミステリアスなままも 案外楽しいよね。」
なんて言って 明るく笑った。



「疲れたから 今日は もう帰るね。」
「三つ編み」はあまり 長く美術室にいないようになっていた。



「三つ編み」がいない時間が増えるのと交替のように
この頃は コーラス部を切り上げてフクオカさんが来たり、
生徒会の仲間を連れて アサギ君が覗きに来るようになった。
ヤスモトもたまに顔を見せ、けたたましくしゃべっては 帰って行く。

たまにしか来ないと聞いていた他の部員たちも 
少しずつ 顔を出すようになって来ていた。


「三つ編み」はそのうちの誰とも 
同じ時間に美術室に来ることは なかった。



* * * *



「OBの知り合いに頼んで、念のため5年上の先輩まで聞いたけど、
 この数年間の内に 事故で亡くなったヨシハルなんて先輩、
    いないわよ。」

フクオカさんにだけ 「三つ編み」のことを打ち明けてみた。
「三つ編み」に会えない日が続いていた。
仲間が増えたのは嬉しかったけど 
やはり「三つ編み」に会えないと寂しかった。


「ここの制服着てるんだし たぶん その三つ編みの人は3年で
 絵を描いたヨシハルさんも そんなに上じゃないはずだよね。

 ここの美術部の先輩で そんな人がいないとすると・・・。」

「でも 描いたのは’美術部のひと’って、聞いた。」
「よその高校の・・とか・・?」

下絵の「三つ編み」を 片手で目の高さまで持ち上げて眺め
「本人に聞いた方が よっぽど早いのにねぇ・・」
フクオカさんは ふっくらした白い もう一方の手を頬にあてて考える。

「でも 3年生の先輩でこういう外見の人 知らないなぁ・・。
         不登校の人なのかなぁ・・。」



ガタンと音がして 誰かが美術室を覗いた。
キリエの 担任の「物理」。

「あ、モリモト先生。」
フクオカさんが呼び止める。
「先生、顧問 引き受けてくださるんでしょ?
  いつまでも はっきりしないままじゃ 困ります。」

副部長の顔になって フクオカさんは 「物理」を引き止めた。
フクオカさんに 部屋の中に引っ張り込まれた「物理」の視線が 
机に置かれた絵の上で ピタリと留まる。



モリモト ヨシハル

「物理」のフルネームを先に呟いたのは
わずかの早さで フクオカさんだった。

絵が上手い モリモト ヨシハル。
でもそれは・・高校生だったのは ずっと昔のことだ。
大学を出て、遠方で何年間も 教師をやって
今年の春 久しぶりに 母校に帰ってきたと聞いている。

そして「ヨシハル」は生きている。間違いなく・・今 生きている。



その絵を見て 確かにうろたえた様子だったのに
「物理」・・・ヨシハル先生は 
「フクオカさん・・・顧問って・・やっぱり 他の先生に頼んでみます。
  それを 言いに・・今・・・ボクは来て・・」

後ずさるように 出て行こうとした。



「先生!!」

キリエが叫ぶ。このまま 知らん振りなんかできない。

キリエの声に驚いて 窓近くの木で休んでいた 鳥たちが 
一斉に 飛び立った。




「この絵は 先生が 高校生の時 描きかけてた絵ですか?」



* *  *  *



「三つ編み」は ユカさんという。

複雑な家庭で育った人だ・・ ヨシハルも噂には聞いていた。
ヨシハルは 転校生だった。ちょうど キリエみたいに。

美術部に入って、一人 放課後に絵を描いていたヨシハルに
ユカさんは話しかけてきた。
誰に対しても なかなか打ち解けないヨシハルに
ユカさんは根気よく付き合ったという。

─ 私をモデルにして 描いて欲しいな。 
ユカさんはそう言って、ヨシハルのために 美術室に通った。



「事故だったんですか?」

「詳しいことは 解からない・・。
 ただ 美術室で よく二人きりでいたと 誰が言ったのか 
 警察が僕のところにも来た。
 恋人だと思われたみたいで しつこく色々聞かれて、
 正直 逃げ出したくなっていたんだ。」

「自殺とかの 可能性もあったんですか?」
 フクオカさんが 続けて聞く。

 
 「悩みもいっぱいあったと聞いた。 
  でも、自ら死を選ぶような人ではないと 僕は思ったんだ。
  他人には 上手くは説明できなかったけど。」

 「完成してあげる事は できなかったんですか?
       ・・ユカさんの絵。」


 「親に転勤の話が来て 絵をそのまま置いて 転校した。
   内心 ほっとしていたんだ。情けないヤツだよね。本当に。」


「先生」

キリエは数歩近づいて ヨシハル先生の顔を真っ直ぐに見る。
きっと ユカさんなら こんな風にこの人と向き合って喋る。
窓の外の鳥たちを驚かすことなんて決してないだろう。 


「その絵を仕上げてって ユカさんは 私に言ったんです。
そのときの・・制服の、そのままの姿で 私の前に現れて
 描きかけで 放り出されちゃったからって・・。

 きっと ちゃんと 残して欲しかったんだと思う。
 そして ちゃんと 解かって欲しかったんだと思う。
 
 だから・・それを仕上げるのは やっぱり 私じゃない。」



キリエはスケッチブックを「ヨシハル」の描きかけの絵に並べて置いた。


* * * *


「ヨシハル~、準備室なんかで コソコソ描かないで、
 かわいい生徒と一緒に  こっちで 描こうよぉ。」

いつの間にかすっかり 部員に落ち着いているヤスモトが 
ヨシハル先生を 準備室から 引っ張ってくる。

「その ヨシハルっつーの やめなさい。
 仮にも先生なんだから 呼び捨てはいかんぜよ。」
ヤスモトの首をアサギ君が 後ろから絞める。

「仮にも、は余計~。」
フクオカさんがエクボを見せる。
フクオカさんのエクボ、いいな、好きだな。キリエは思う。

少しずつ遅れて他の部員が 入れ替わり やって来る。






ヨシハル先生は あの絵を完成させて
次は もっと大きなキャンバスで
キリエたちの姿を描き込んだちょっと幻想的な絵を仕上げる という。

「ユカさんも その絵の 仲間にはいってるんでしょ?」

キリエが聞くと ヨシハル先生は

照れくさそうに頭をかきながら 
それでも ちゃんとキリエの目をみて うなずいた。





放課後。

油絵の具の匂い。


今日も美術室には 笑い声。

窓の外の木には 前よりたくさんの小鳥たち。




あの中に 寂しがりやで世話好きな小鳥が一羽いて
いつも美術室を見守っているんじゃないかな・・


筆を動かす手を止めて キリエは鳥の声に耳を傾けた。


   






美術室には小鳥たち これでお終いです。お付き合いありがとうございました(^_^)

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コメント

kazahanaさん~

バレバレなんじゃないかと思いながら
はじめのほうの会話とかを書いていました。
「どちらともとれる」でも 読者と主人公には思い込みで
読みすすめてもらう・・ってあたり 難しかったです。(^_^;)
kazahanaさんの写真で 心ゆったり しに行きますね~。

こんにちは

「三つ編み」さんが幽霊だったとは・・・、
描いた人が物理の先生だったとは・・・、
意外な展開でとてもおもしろく読ませていただきました^^
ミステリー風なものって、伏線のはり方とか
やっぱり難しいんでしょうか?
最後はハッピーエンドで後味も良かったです^^

臨さんも、絵を描かれるんですね~。
距離をとった関係を まず作るって わりと誰にでも
あるのかもしれませんネ。
案外 ひとなつっこい すぐ仲良くなるような人にこそ
内面に何か深いもの、秘めてたりするのかなぁ・・。
読んでくれて ありがとう~(^。^)

こんばんわ

実は私も学校で美術部のようなものに所属しています。
だから他の文章よりももっとイメージしやすくなって、とても楽しく読めました。いや、他の作品も楽しく読みましたが。
キリエのような美術部友達もいます。
この文章を読んで、そのこの心を開くためにヨシハルみたいになりたいと思いました。
長々と申し訳ありませんでしたが、とても面白かったです。

うはは・・

一日24時間、ぶらぶらしてる「主婦」ですよ♪ヨッピちゃん。

お仕事の間にも モノ考えてる時間がけっこうあって
その間にほぼ仕上げてます。
今度のは 3回に分けたけど 全部先に出来てたのでした(^_^)
育児も手抜き 家事も手抜き。
一日の歩数形のカウントは・・・ナイショ。
(びっくりするよ、少なくって)

びっくり・・・

あっという間に出来上がってる!
なずなちゃんには35時間ぐらい有るんじゃないの?1日が!
イッパイ本読んで、子供3人育てて・・仕事もしてるよね?
そんな中でHPの運営・お絵かき・小説・・・寝てないとか?

続き出来てるかな?と思って覗いたら②と完結編まで。
三つ編みさんを描いた人が「担任」だったとは・・・

まだまだ成長を目論んでいるなずなちゃんにエールを送ります!

ヽ(^。^)ノ

ぬいこさん、最近 児童文学の方が どんどん文庫に進出していて ムスメ(中学生)と共に 競って読んでいます(^_^)
ミステリー風あり、ファンタジー風あり、爽やかだったり、切なかったりの人間模様・・ぬいこさんもどんどん書いてみて下さいネ
やすみさん、ずっとずっと 見ててくれているからこその 言葉、
嬉しく思っていますヨ。(^_^)
この歳からでも 成長できるのかなって思ったけど まだまだ 成長の余地はあるみたいで、それは とっても喜ぶべきことだと
思うのです。いつも ありがとうネッ。(^_^)
予想できない展開だった? 嬉しいな~。

すばらしいですね。思いも寄らなかった結末でした。(^^)

あの、お題に挑戦されるようになってから、ひとつ、レベルアップしたように思います。

話が、垢抜けて、読者をひきつける力がでてきたように思います。

生意気な批評をしてごめんなさいね。プロの作家でも、うまい文章の人はなかなかいないですよ。

これからも楽しみにしています。

ヨシハル先生

完結篇読ませていただきました。
とてもシャイなヨシハル先生ですね。

起承転結がうまく整っていてよかったです。
ミステリー・わたしも書いてみたいですぅ~♪

aoiさん hirononさん 
アリガトウございました。無事 完結しています。
(コメントいただいてから ラスト 少しだけ加筆しています。
 ごめんなさい~(o*。_。)oペコッ)

前にも 亡くなった(?)女の子と交流する話を書いて
消化不良ぎみに終わったので もう一度TRYしてみたのですが・・。
ミステリーっぽいつくりは・・難しいですネ。

完結しましたね!

絵を描いたのは先生で、昔の友達だったんですね!
「三つ編み」ことユカさんがすでに亡くなっていたというのは切ないけど、先生が絵を完成してくれた事で、このお話も温かく完結しているので、よかった!
最後に、ユカさんも、今の友達の一人として迎えられるところがいいですね。

こわくない幽霊

こんばんは~
なるほど、そうだったんだ!
三つ編みさん、どういう人だろう・・・と興味が惹き付けられたけど、先生の同級生だったんですね~
絵が描きかけで止まってる、って、やっぱり気に成るかもしれないですよね!
でも、不思議に怖くない、やさしい幽霊でしたね♪

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すずはら なずな

すずはら なずな

どれも短いお話ですが 
一つでも心に残ったら嬉しいな。

過去記事どこにでも、
コメントOKです。
舞い上がって
喜びます。

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