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STAND BY ME

生きることにちょっと 不器用な子どもたち、もと子どもたちの 短いお話を 綴っています

アスファルトに星屑踏んで(アタシが猫だったころ)③

やっと③です。やっぱり長いですね(;´Д`A ```・


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そんなはずじゃなかったのに。
そんなんじゃここに来た意味がないのだ。


  *

夜にユリハさんを訪ねるのは初めてだった。
家にいるのが嫌だったのも確かにあるけど、
ユリハさんのこと、気になっていた。
ユリハさんのご主人は 事情があって家に帰らない、と聞いていた。
夜はまた シンとして寂しいのだろう
・・そう 勝手に思っていたのだ。

けれど カーテンの隙間から見えるユリハさんの部屋は明るくて
いつもはついてないTVの音がして 賑やかな笑い声がした。

─ 嘘だろ・・?

まるで 別の家を見るみたいだった。
いつもの部屋に丸い座卓が置かれ、
鍋を囲んで談笑するユリハさんがいた。
一緒に鍋をつついてるのは、マツオカ君ともう一人
・・ユリハさんの夫・・?

ユリハさんはごくごく自然に、喋ったり笑ったり食べたりしている。
何が何だか解からなかった。
ほかほか湯気のたつホームドラマのような光景。
そこにアタシの入る場所は なかった。

ガタン・・
後ずさりしてフェンスに背中をぶつけ、大きな音をたててしまった。
マツオカ君が気づいた。
ユリハさんが気づいた。
窓が開いた。

アタシは 猛ダッシュで逃げ出した。
何で逃げてるのかさえ 解からなかった。

* 

ここはマツオカ君の家に庭で ユリハさんの実家の庭で
アタシの場所じゃない。
解かっていたのにまた ここに逃げ込んできた。
いつもの猫がすぐに気づいて 迎えてくれる。

アタシは悲しくて悲しくて
どういうことなのか考えるより ただ悲しくて
庭にしゃがみこんで 擦り寄って来た猫を抱いて 泣いた。

泣いてるうちに一つ思い出したことがある。
まだ学校に時々行ってた頃、
図書室で本を読んで 不覚にも泣いたことがあった。
その時 図書室にいたのが マツオカ君だった。
名前も 学年も知らなかったけれど 
顔を上げた時目が合ってしまったのを憶えている。

そして、その時の本が あの思い出せなかった物語だったのだ。
主人公はもっと純粋な女の子で、
「壊れてしまいそうな大切な人」や傷ついて引きこもった親友のために 
もっともっと一生懸命だった・・。




「やっぱ、ここだった。」
振り向いたら マツオカ君とユリハさんが立っていた。
ユリハさんは 猫とアタシをいっぺんに抱きしめた。

「ごめんね。どう説明したらいいかしら・・。」

  * 

「ずっと あなたが気になってたの。
 だから 弟に頼まれたあなたが うちに来るのを楽しみにしていたのよ。」
ユリハさんは言い、マツオカ君が続ける
「アネキが仕事してる時って傍から見てて、相当ヤバいんだ。
 壊れかけの人に見えるかどうかは解からなかったけど
 とにかく キシカワさんをアネキのところに行かせてみたかったんだ。」

マツオカ君は何度も何度も謝りながら、
ユリハさんが文章を書く仕事をしていること
学生時代、学校に馴染めなかった時期があったこと、
そんなこともあって アタシときっと話が合うだろう と思ったことを
一生懸命説明してくれた。

「久しぶりにキシカワさんがうちの庭にいる・・と思ったらさ、
 『猫になるか、死にたい・・』なんて ヤバいこと言ってるしさ、
  ほっとけないじゃん、 何とかしなきゃって思ったんだ。」

「久しぶりに・・って、アタシがあそこに来てたこと ずっと知ってたんだ。」

「あれ、猫と自分だけだと思ってた?あの庭が好きなのって。」

だって 雑草だらけで・・猫がやたらくつろいでて・・
アタシは続けようとしたけど もう一つの事の方が もっと気になった。

「何とかしなきゃ・・って アレはその場の思いつきだったの?」
・・・怒る気には ならなかった。
ぐるぐる喉を鳴らして猫が顔中舐めまくるせいかもしれない。


「泣いてたでしょ?本読んでさ。あの後オレも読んだんだ、その本。」
良かった・・だったか 切ないだったか・・何の涙だったかも忘れた。
アタシは図書室なのも忘れて ぼろぼろ泣いたのだった。

ユリハさんは ゆっくりとした動きでアタシの傍にしゃがんだ。
「仕事の都合でね、半別居生活なのよ。これがダンナと私の’事情’ね。
 そして、ペットロスで壊れかけ・・はちょっと違うんだけど・。」
ユリハさんはそういって 猫の背中をポンポンと撫ぜた

「このコ・・珍しく弟に懐かない猫でね、
 結婚したとき 私があのマンションに連れてったんだ。」
猫はユリハさんの顔をチラと見たけれど 
すぐにアタシの膝の上で座り直し
アタシの指をペロペロ舐めた。

「悔しいなぁ・・やっぱり あなたの方が好きみたい。
 このコを連れていくために わざわざペット可のマンション、探したのよ。
 なのに、このコはあなたを案内してこの庭に戻って、
 あなたが来ない間もここで待ってて、 
 私の所には 帰って来なくなったんだ。」

「アネキんところから姿を消したって聞いてたのに 
 ここでキシカワさんに甘えてるの見た時は オレもマジ驚いたんだ。
 図書室の件もあったし 
 オレ、ずっと気にしてた。キシカワさんのこと。」

「ごめんね、結果的には騙したことになっちゃったよね。
 でも 弟は許してやってね。
 とんでもないバカだけど、けっこうイイとこもあるんだ、コイツ。」
いい きょうだいなんだな・・。アタシは二人を見て思った。

そして バカなアタシはやっと気づいたのだった。
マツオカ君が言ってた『ひとりほっとくと死んじゃうかも』しれないのは
壊れそうだから誰かの助けが必要だったのは・・
ユリハさんじゃなく アタシのことだったのだ。

誰かから心配されてたり 何とかしてあげたいなんて思われてたのが
テレくさいけど ものすごく素直に 嬉しかった。

「アネキがいつまでもキシカワさんに「猫」させてたのは きっとさ・・
 アネキのヤキモチなんだと思うな。」
マツオカ君はそう言いながら アタシの膝の上の猫を指差して
耳元で こう言った。
「コイツってさ、アネキは 自分にしか懐かない猫だと思ってたんだ。
 ま、ほんとに警戒心の強い、愛想のない猫なんだけど。」



*  *

帰り道 ユリハさんとマツオカ君と一緒に歩いた。
気づかない内に降っていた小雨が止んで 
濡れたアスファルトがきらきらしていた。
「星屑踏んで歩いてるみたいだねっ」
マツオカ君が はしゃいだ声で言った。

猫がアタシの両足の間をしゅるりしゅるり歩く。
さっきマツオカ君が耳元で言った言葉を思い出していた。
「アンタのこと 誤解してたよ。」
猫に 謝った。


もうひとつ 思い出した。
─ 隣のクラスに 猫のことと雑草の名前だけ
  やたら詳しい男子がいるんだ。
親友の・・マキがアタシに言った。 
─ その子さ、成績はサイアクだけど むっちゃいいヤツなんだって。

自分の口元が緩んでいることに気がついた。
トクン、トクン、
身体の中全体に新しい温かい血液が流れ出して
新しい やわらかなアタシが出来上がっていくような感じがした。

─ あの庭に花が咲き始めたら 
  マツオカ君に草花の名前を教えてもらおう。

アタシは 春の庭のことを考える。
ポケットのビー玉の丸さが 指先に気持ちよかった。


「あ、私帰らなきゃ!」
ユリハさんが 素っ頓狂な声を出した。
「ダンナのこと忘れてたわ。オトウト、ちゃんと彼女送って行くんだよ。」 

ユリハさんに何か言いたくて でも何て言っていいか解からなくて
横にいるマツオカ君の 顔を見上げた。
ユリハさんはそんなアタシの上から下まで とびきり優しい目で見ると
初めて会ったときみたいに 少しかがんで目を細め
アタシに向かって「にゃー」と言った。

それからマツオカ君のほっぺをツンと突っついて
アタシの頭を ぐしゃぐしゃ撫でて 言ったのだ。

「ふふふ、アナタ達もよ、私にしか懐かないのかと思ってたわ。」



                    (おわり)


文中に出てくる「あの本」は 森 絵都さんの「つきのふね」です。 大好きなお話です。

コメント

三部にしなくても 読み手さんが好きなところで
「続く」にしてくれたら それでいいんですが挿絵も入れたかったので・・。

同じお題で全員書く・・次の回がそうなるんだそうですよ。出揃ったのを読むのは凄く面白いですよ。

ユリハさんの誤解も解け、締めの言葉も上手く挿入!素晴らしい仕上がりです。
Wordの原稿用紙22枚はすごいです!僕は最長で1枚半ですからね。
読書というモチベーションは読者の息遣いを感じる必要が有ると思います。そんな中、3部作にしたのはすごく良かった。
結局は通読するんですけど、一呼吸入れられるのが良いですね。

えへへ

好きな人のことばは、いいようにしかとれない性格なので 辛口でも苦口(?)でも、感謝してますよ~。

出版されてる本で、好きな作家さんの本でさえ、この頃
自分なりに、「あそこは いいんだけど。あれは ちょっと・・」
なーんて ココロの内で 色々考えます(^_^;)
やすみさんの的を得たことば、真摯に受け止めたいです。

また子どもむきのお話も書きたいと思っています。軽いノリのも書き飛ばすかもしれません(^_^;)
こども向きだって、コメディだって、もちろん大人の鑑賞に値すべきですよね・・(実際読んでくれてるのは大人だし)
伸びる・・なんていわれると、また 頑張っちゃいます(^_^)

なずなさん

辛口の批評でごめんなさい。(^^)

でも、最近自分でも思うのは、お褒めの言葉ばかりだと、物足りない。ここが悪いと言う声が欲しいと思うようになりました。^^;

もっとも、自分のより、明らかにへたな作品を褒めてる人が、私の作品を辛口批評すると、ムカつくけどね。(^^ゞ

なずなさんの作品は、一作ごとに、ぐっとレベルが上がってますよ。それは、確実です。

それに、前にも書いたと思いますが、基本的になずなさんは文章がとてもうまい。情景描写は素晴らしいと思います。
だから、とても、引き込まれます。

決められた中に収めるのは、確かに、難しいでしょうね。

しかし、なずなさんの作品は、これから、まだまだ延びる力はあると思います。

こういう作品のコンテストはないのですかね。ウェブだけでなくて。

フトンさんへ

まずはイチオシ決定おめでとう~
^(ノ゜ー゜)ノ☆パチパチ☆ヾ(゜ー゜ヾ)^
やっぱりフトンさんは テンポのよいロマコメが特にいいです。
泣かせるより笑わせる方が難しいというのをよく聞きます。
ほんとだなぁ・・と このごろ思うの。
私の感想でも 励みになってるなら 嬉しいな(^_^)

じっくり読まないとと思って、遅くなりました。

三部作と言ってもいいかも。
それぞれ、別のお話としても、読めますね。(^^)

私の感想としては、第一部が一番好きかな。すごく大人の本が書けるようになったなずなさんに感動です。

正直なところ、三部目はお話としては、いいのですが、走りすぎ?のきがします。ちょっと、説明的になったかなという気がするのだけど。特に、後半部分。

お久しぶりです

最後がとっても暖かい作品ですねw
さすがなずなさん!!
三人のそれぞれの優しさが滲み出ていて・・・心がホッと温かくなりました。
今回のお題はとっても難しかったのにww
もう尊敬だね!!
そうそう、いつも励ましのコメントありがとw
なずなさんに感想を言ってもらえるのは、光栄で^^v
これからもよろしくですw
さて、私もアップしてきます^^v

うふ(^_^)

なんか aoiさんらしい~~!!
aoiさんが書いたらきっと 凄くかわいくて楽しいお話ができると思うな。
女の子が猫になっちゃうお話、絶対面白いと思うな♪

えーと…

>もっと 書き込んでも良かった?

えーと、例えば…
主人公が、お姉さんの元で猫として振舞っているうちに、本当に猫になってしまったりするのどうですか?(笑)
それで、だんだん心が晴れやかになってくるにつれ、また元の人間の姿に戻れる…みたいなのも面白いかなぁなんて!
だけどそうしたら、ハウルの動く城みたいな感じになっちゃうかな??

物語を考えるのって、凄く難しいですね~!
だけど、いろいろ想像して読むのは楽しいですよ♪
なので、次回作も楽しみにしていますね!

とっぴょうしもないのは・・

アタシだったか・・(ーωー`)

ぬいこさん、読んでくださってありがとう。
私も興味あったので ワードの原稿用紙設定にして、調べてみたら 22枚でした。(20×20)

楽しみ

以前、Mystery Circleの予告があったのでアップを楽しみにしていました。
>とっぴょうしもないことを 案外普通にやる人たちが・・・
 ほんとにそうですね。
 そして、こんなとっぴょうしもないことを思いついて書く
 なずなさんに拍手! パチパチ♪

そうそう教えてください。
この、お話は原稿用紙でいうと何枚くらいですか?

あはは・・

こんな とっぴょうしもないことを 
案外普通にやる人たちが
どこかに いるかもしれないなぁ・・なんて思って
読んでくれたら 嬉しいです。
( ̄▽+ ̄)もっと 書き込んでも良かった?

長編ですねっ!

新作ができたのですね!

個人的には、キシカワさんが猫になって、お姉さんの家に潜入(?)するくだりが、凄く面白い設定だなぁと思いました!
このあたりがメインで扱われていても、意外と面白いかも知れないなぁなんて…。

コメントサンキュですv(*'-^*)b

コメントもらってから ポイントのセリフいじるのって・・と思ったんですが、あえて「アナタ達」にしました(^。^)
その方が なんか もっと はっきりするかな?って思って。







お久しぶり(・Д・´☆)ゞデシッ
なずなさんのお話は心があったかくなりますね・:*:・(*´エ`*)ウットリ・:*:・
「ふふふ、アナタもよ、私にしか懐かないのかと思ってたわ。」
↑が弟に向けたコトバなところ、最後に笑わせてくれた感じがとっても好きですw
作品中に出てくる「あの本」が読みながら気になってたんですけど、最後にちゃんと書いてあってヽ(*´v')ノワーイ な感じでしたw
探して読んでみたいなぁと思いました(*´艸`)ププ

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すずはら なずな

すずはら なずな

どれも短いお話ですが 
一つでも心に残ったら嬉しいな。

過去記事どこにでも、
コメントOKです。
舞い上がって
喜びます。

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